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『熊のまどろみ亭 コーニッシュパイ』は、天火で焼く方法で作った。
ラーラん家のパン屋に、パンを焼かない時に天火を使わせてもらう事で話がついた。
フィリングを詰めて長時間放置すると、水分が滲み出て、焼いてもパイの底がグチャグチャになるのが怖いので、毎回パン屋さんに天火を使える時間を確認してから作るという事で話がついたらしい。
また、卵もかなり必要になる事から、鶏の購入資金もマノロ伯父さんがフリアン伯父さんに提供した。
このところの新メニューラッシュでがっちり客足を掴んでるから出来る荒業なんだよね。
私も『熊のまどろみ亭』の役に立ててる様で、うれしい。
固ゆでの卵の殻を剥くのは大変なので、これは家族全員で取り組む事になるのだが、私は秘密兵器を作ってみた。
百均で売ってる卵で押すと底から針が出てきて、生卵に小さな穴を開ける奴だ。
プラスチックは存在しない世界なので使えないが、木で応用してみた。
押すと針が出てくるのではなく、板に小さな針を付けただけのもので、針の上に生卵を載せてちょっと下に押す事で穴を開ける単純構造だ。
もちろん『調理具製作』スキルで作ったのだ。
恐らく、これで大量のゆで卵でも対応できると思う。
そんなこんなで材料がかなり揃っているので、『熊のまどろみ亭 コーニッシュパイ』作りに着手しようと言う事になった。
フィリング作りは私の担当だ。
そりゃそうだ。だってコーニッシュパイのアイデアそのものが私の案なのだから。
ゆで卵を作り、くず肉と臭みを消すニンニクや玉ねぎ、乾燥パセリやその他の具材と一緒に煮込む。
パイの底が水気で台無しにならない様に注意深く水分量の調節を行う。
もちろん『食材鑑定』を使って、丁度良い水分量を探って行く。
パイ生地で包むので、味付けはちょっと強めだ。
寝かせたパイ生地で包むと、ラーラの家のオーブンを使わせてもらうため、マノロ伯父さんが40個のパイを運んでくれる。
ラーラの父さんのガストが余熱で温めてくれていたオーブンに40個のパイを並べる。
『食材鑑定』で温度が190度、時間は50分と出ていたので、そうなる様に薪の数や、追加の薪のタイミングを同じく『食材鑑定』で測る。
ガスや電気オーブンがないので、この『食材鑑定』がなければ、私にもお手上げなんだけれど、このスキルは本当に使い勝手が良い。
最初のパイから失敗する可能性は低く抑えられ、事実、ちゃんと焼けている様だ。
「マノロ伯父さん、焼けた様なので出して下さい」
「お、おう」と伯父さんがオーブンミトンを使ってパイが並べられた天板を取り出してくれた。
40個のパイはいかにも美味しそうな焼き色がついており、一緒に来ていたランディや爺ちゃん、そして様子を見ていたガストまでが「ごくり」と唾を飲んだ。
お弁当としての販売も考えているので、熱々で食べるのと、冷めてから食べるのとを考えて40個作ったのだ。
まずはここにいる5人で熱々を1つずつ食べる事にした。
この5人の中には金を払うから一つ食べさせてくれとシツコク言って来たガストも含まれている。
「サク」
「うまーーーーい!あちちちち」
ランディが真っ先に食べた。
最初の一口で美味しそうな匂いが鼻をくすぐり、次にサクサクした口当たりが面白く、そしてたっぷりの具材が適度な水分を持ちつつ口の中いっぱいに広がった。
熱々なので、口を開けたまま、ハフハフしながらなのだが、それがまた美味しいと感じる。
「う~ん。これは旨いな!」とマノロ伯父さんも納得の味だった様だ。




