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「アウレリア、用意はいい?」

「はい。母さん」

 庭師姿の父さんが裏庭のずっと奥にある納屋からたった今走って来たのか、息が荒いまま勝手口の前で私が出て来るのを待っていてくれた。

「アウレリア、良いギフトが貰える様に祈ってるぞ」と頭を撫でてくれ、今度は母さんの方を向いて「レティシア、頼むな」と真剣な顔をして低い声で言った。

「はい。楽しみに待っていて下さいね。いってきます、あなた」


 母さんの優しい手に背中を軽く押され、私はニッコリと笑顔を父さんに向け、教会へ向けて歩き始めた。


 父さんたちの幼馴染のミルコには、朝一番に父さんが冒険者ギルドへ行き、正式に依頼をして来てくれたみたいだ。

 私たちが教会から戻る頃に館を訪ねて来てくれる手筈が整ったらしい。

 母さんが、上司にあたるハウスキーパーのアナベルさんに外出許可を貰ってくれた。

 表向きは私のための物の買い物に行くことになっているが、実際にはこれから大聖堂へ行き、鑑定の儀を受ける予定だ。


 私はまだ5歳なので使用人ではなく、使用人の子供という位置づけで、私1人が屋敷の外に出るのに許可はいらないのだが、子煩悩な母さんが小さな子供1人で塀の外に出してくれる訳がない。

 だから私はめったに館の外に出た事はない。

 知らないエリアを見る事ができるという楽しみも、今回の鑑定の儀を受けるうれしさにプラスされているのだ。


 お勝手口から正門を目指すのだが、実際に通るのは正門のすぐ横にある使用人や出入り業者専用の小さな門の方だ。

 お屋敷の正門から歩いて10分のところにある教会に行くのに、屋敷から正門までの広い敷地を通る事で合計25分掛けて移動しなくてはならないのが、なんとも・・・・。まぁ、大人の足ならこれ程までに時間はかからないのだろうけどね。

 5歳児の足ではしょうがない。


 館前のロータリーや門までの馬車用道を通らず、その道にほぼ平行に設置されて生垣で目隠しされた使用人専用の細い道を歩く。この生垣も父さんが手塩にかけて育てているのだ。

 ロータリーの真ん中には前世ならば噴水とかがありそうだが、この世界ではまだ噴水を作る技術はない。

 父さんがデザインした円形の花壇が鎮座している。

 実は地植えの花々ではなく、裏庭の植木鉢の中から花が咲いている物だけをロータリーに並べる方式なので、常に美しい姿を保っている。

 これは、私の前世の記憶を活かして父さんに進言したところ、良い案だと採用してくれたことで実現した。

 モンテベルデ伯爵家は、優美な館と併せて常に花が咲いているロータリーを持つ王都の中でも殊の外美しい館として有名なのだ。

 レンガで植木鉢の高さまでロータリーを囲って目隠ししているので、一見地植えに見えてしまうのがミソだ。

 この仕組みを知らない人はどうやって常に花を咲かせているのか知りたいらしく、伯爵への問合せも何度かあったみたいだ。


 使用人専用道からはロータリーの花壇は見る事ができないけど、今日はそれを残念に思ったりはしない。

 どんなスキルを貰えるかが、今の私にとっては重要なのだ。


 ギィィィ。

 使用人専用の扉も結構重たく開けづらい。

 セキュリティを考えると、それくらいの重さは必要なのだ。


 久し振りの館の外!

 貴族街には屋台とかないし、歩く人自体が少ない。

 殆どの人は馬車を使うからだ。

 たまに、使用人が近くの貴族家へお使いする姿くらいしか、歩く人は見かけない。

 使用人の女性は頭にボンネットを被っているので、髪の色は分からないし、この時代、まだメイド服なんてないから、ステイズと言われるコルセットの様なものを身につけて、足がすっぽりと隠れる同色のスカートを履いている。だから一見ワンピース風ドレスに見える。

 でも、実際にはツーピース、スリーピースで成り立っている服なのだ。


 男性は、シャツにベスト、ゲートル付きズボンといった服装が一般的だ。

 もちろん、貴族はもっと華やかな服装で、使用人や庶民とは基本的にデザインや種類が違ったものを身につけているのだが、表では馬車に乗っているので伯爵家以外の貴族については実際に目にしたことはない。


 教会へ近づくに従って、下町に近くなり、貴族の館だけでなく、ぼちぼち商店も見かける様になり、道行く人が増え、私と母さんをチラ見して来る。

 母さんの髪も私の髪も全く同じ色合いのバターブロンドで、普通なら一目で親子と分かるのだが、今は母さんがボンネットを被っているので親子かどうかは見た目だけでは分からない。

 父さんはダークブラウンなので一見しても親子とは思われない。

 まぁ、顔立ちもありがたい事に美人な母さんに似ているので、そういった意味でも父さんとはあまり親子には見られない。


 母さんがこんなに綺麗なのに伯爵の毒牙にかからなかったのは、持っていたのが清掃スキルで魔法スキルではないことと、この伯爵家に来た時には既に父さんと結婚していたというのが大きいだろう。

 王都に来てからは、家計を助けるためにモンテベルデ家で掃除をやるハウスメイドにして欲しいと希望したが、見目が良いのでパーラーメイドでと先方から言われ、その希望に沿った形で雇ってもらったのだ。

 ハウスメイドなら掃除とか水を使う仕事が多いのだが、パーラーメイドは来客の対応とかなので、基本楽な仕事だ。

 他で働くより、伯爵家の使用人になった方が報酬も良いし、何より安定した生活を送れるので、一も二もなくそのオファーを受けたんだそうだ。


 母さんに手を引かれ石畳の道を歩きながら、キョロキョロと周りの建物を見る。

 看板が少ない。

 この辺り、どの家が貴族の家なのかななんて考えながら歩いていると、大きな広場に行き当たった。

 大聖堂前の広場だ。

 さあ、これから鑑定の儀だ。

 魔法スキルを授かるかどうかで、私の未来と住む所が決まるのだ。

 どんなスキルを授かるのかということと相まって、もうドキドキが止まらない。

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