8
私は頭が痛くなるくらい考えた。
考えて、考えて、考えた。
何を?
そう、闇王様のこれからについて。
私、今回の闇王様の衰弱振りを見て、とっても動揺しちゃったんだよね。
あれだけ筋肉が付いていた体だったのになんかやつれちゃって、目に力はあるんだけれど、それもいつもではなく何かの拍子にと言う所。
最近、ベッドの中で養生している間、目は少し、少しだけだけど、ドヨンとしてる時もある。
あの学園での何にも屈しなさそうな芯の強さ。
自信に溢れた眼差し。
常に皆の上に立つ事を意識した上での言動。
学園で多くの女子の心を奪ったあのカリスマ!
今ももちろんその片鱗はあるし、体調が元に戻ったら以前の通りになるんだとは思う。
否、心の傷はあると思う。
肉親を殺されているかもしれないんだし・・・・。
それに高位貴族の総領息子としての矜持を汚され、はく奪された。
その悔しさたるや、他人の私でもある程度は想像できるよ。
先日の一時帰国の際は、人の上に立つだけでなく、色気駄々洩れ状態でもあって、更に遠くの人って感じだった。
私にとっての闇王様は、あの学園時代のまだ幼さの残る少年なのだ。
他国でどの様に過ごされたのかは全く分からないしね。
だけど、実際には今彼はボロボロなのだ。
セシリオ様が側に居れば、彼が闇王様に必要な物、或いは必要な事を率先して集めて来たり、やってくれるとは思う。
まぁ、それも今の闇王様の地位ではどうなるか分からないけれど・・・・でも、セシリオ様は闇王様の地位にひれ伏しての友達ではなく、ちゃんと闇王様個人と一緒に居たいから友達だったと思いたい。
それにもう一つ疑問があるのだ。
何故、国王が一貴族の後継ぎについての策略に乗ったのかという事。
どうせ下らない理由だとは思うけど、正当な後継ぎを屠ろうとしてまで便宜を図ると言うのはどういうことだろう?
もう、この国は信用できないね。
事情を知るにはお貴族様に教えて貰うしか方法は無いが、アドリエンヌ様とは連絡を取る事が出来ないと思う。
会いに行っても当然平民の私たちでは建物の中にすら入れて貰えないと思うし、手紙も同窓会への参加・不参加に関する返事ですら差出人の私ではなく、貴族のヘルマン様を介して渡してくる家だものね。
ヘルマン様はあややクラブの仲間ではあるけれど、創立した時からのメンバーでは無いし、一緒に居たのもほんの短い間だったので、どこまで胸襟を開いてくれるのかはまだまだ未知数。
大公様も、もうこの世でお会いする事は叶わない・・・・。
となると、必然的にセシリオ様しか問い合わせる先が無い。
でも、不用意にセシリオ様に接触すると、セシリオ様にも迷惑が掛かってしまうだろうし、闇王様を見つけられてしまい、連れ戻されちゃうかもしれない・・・・。
だからこその同窓会の案内なんだけど、フェリーペがどの辺りまで事情を知っているかは私では分からない。
まぁ、知っていたとしても、知らなかったにしても、前に一度同窓会の案内をしたフェリーペからの方が自然に見えると思う。
闇王様を連れ戻されない様にするって事は、闇王様の安全を図る事でもあるけれど、同時に彼本来の地位を諦めると言う事と同義でもある。
でも、命あっての物種なのだ。
商会の資金は出せないけど、だって私だって何千という雇用を抱えているのだから、おいそれと使い込みは出来ないけれど、私個人の資産からならいくらだって出せるから、それを闇王様の今後に使ってもらう事もできる。
結構なお金を持ってるからね。
このお金で平民となり、何か新たな事業をするって言うのはどうだろう?
顔を出さなくても出来る仕事で・・・・。
私たちの強みって、鉄道が使える事。
泊まるところなら鉄道に沿って各駅に用意できる。
一か所に留まらなければ見つかる可能性も低くなる?
いや、鉄道を使うのは金持ちや貴族が多いから、あまり使わない方が良い?
一か所に留まる方が落ち着くしね。
人を使えば、矢面に立たなくても良くなり、面が割れる危険性もない。
否、全くないとは言えないけど、あったとしても可能性はとても低くなる。
あっちこっちに行く仕事。
鉄道を使う・・・・。
いや、馬車?
定住する?
闇王様がヤル気が出るくらい面白い仕事。
何だろう・・・・。
前世や前々世でどんな産業が生まれただろう?
特に昭和初期とかどうだっただろう?
アメリカでは?
ヨーロッパでは?
日本だと絹糸でのシャツ作り、自動車産業・・・・ガソリンがいる?魔石でOK?
闇王様に技術者の素質ある?
何より私には自動車の内燃機関を良く知らないけど、闇王様の役に立てる?
機械系だと魔石とか錬金術を考えないとダメだかな?
石油があれば前世や前々世の知識に近い物が出来るのに・・・・。
石油と言えばアメリカ・・・・。
アメリカ・・・・石油王・・・・発明王・・・・鉄鋼王・・・・新聞王・・・・っ!
新聞だ!
情報は世界を制す!
民衆を扇動して、今の王制をひっくり返す事すら可能になる。
闇王様の無念を晴らす事も出来る!
これだ!!!
新聞なら各駅に特派員を置いて、鉄道で記事のやり取りをし、闇王様が全体の記事を纏め、錬金術装置で新聞を刷り、また鉄道を使って各駅で売る!
おおおおお!
これって実現性も高い気がする。
それに知的好奇心が大いに満たされる事間違いなし!
イギリスのS〇N紙の様なゴシップ記事専門の新聞と、経済新聞みたいな奴の2通りなら直ぐにでも作れるのでは?
なんならウチの雑誌部門も統括して、ウチの事業の一環とすれば余計に隠れ蓑になるんじゃない?
これこれ!これよ!
私は早速学級新聞の様なA3サイズくらいの紙の裏表に、架空の記事を手書きで書き込み始めた。




