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 ケヴィンはゴンスンデ方面に移動する様にランビットに指示していた様だった。

 医者を用意する事は出来なかったので、まずはダンテスさんに闇王様の体に怪我等が無いかどうか、栄養失調の具合等を調べてもらった。

 もちろん医者ではないので医療行為ではないが、長年貴族家の執事として働いた経験を活かしてもらい、素人ながらも応急手当の様な事をしてもらった。


 もちろん医療の専門家にも見て欲しいので、ナイトル村店の従業員寮へ闇王様を運び入れ、そこでウチの薬師に診てもらった。

 

 水分と栄養、そして睡眠を十分に採れば大丈夫との事だったので、従業員寮のランビット専用の部屋に寝かせ、寮の調理場で滋養たっぷりのスープを作った。

 薬師が用意してくれた滋養強壮を促す薬湯も、もちろん飲ませるよ。


 でも、基礎体力を戻すにはやっぱり食事だと思うんだよね。

 今はまだ固形物じゃない方が良いと思うので、スープだよね。

 私が用意したのは野菜のコンソメだが具は一切ない。

 エキスだけを取り出した形だ。

 もちろん味は薄味。


 闇王様の体力が戻る様に、最初は具無しのコンソメ、次は薄目のポタージュ、その次は具入りのコンソメと内容を変えて行く心算だ。

 つまり数日はここに留まろうと思っている。

 追手は来ないだろうとは思ってはいるが、ホテルの客室だと客である貴族たちに面が割れる可能性も無きにしもあらずで、万が一と言う事態を避ける事もあり従業員寮なのだ。


「ランビット、私はしばらく闇王様にくっついているから、あなたは王都に戻って、事業に問題無いように働いて欲しいの。後、ウチの父さんにも無事ナイトル村店に居ると言う事と、しばらくこっちに居るって伝えて欲しいの。もちろん王都店のその後も確認して欲しいし、セシリオ様が戻って来られたら連絡を付けて欲しいの。・・・・そうねぇ、フェリーペに言って、あややクラブの同窓会の案内を出して欲しいの。差出人はフェリーペでね。闇王様の事を知る者は少なければ少ない方が良いので、まだフェリーペとかボブには言わないで、ただ単に同窓会の案内を出してもらって。あっ、アドリエンヌ様の所にもね」

「分かった。闇王様の実家にも案内は出した方がいいかな?」


「う~ん、悩ましいよね。ジェラルドが私たちの存在を知らないならわざわざ教える必要は無いけど、セシリオ様やアドリエンヌ様方面から何か情報が伝わったら面倒だよね・・・・」

「いや、伝わらないんじゃないかな?」

「そうだね。とりあえずはセシリオ様とアドリエンヌ様の所だけでいいよ。メグとかヘルマン様の所へは、セシリオ様の返事が来てからの方がいいかも」

「うん。分かった。明日の朝の便で王都へ戻るよ」

「よろしくね」


 その後、私たちは事業の事について軽く打合せをし、ランビットは翌朝王都へ戻って行った。

 闇王様はそのままランビットの部屋で寝てもらっている。

 私やランビット、ダンヒルさんの部屋は従業員寮の中でも他の従業員の部屋から離れているので、滅多な事で他の人が来ないので安全なのだ。

 それに万が一ランビットの部屋へ出入りしている所を見咎められても、私の秘書的な業務も熟すランビットの私室に必要な書類があると言うのはおかしくは無い。


 闇王様は最初、殆ど寝てばかりだったけど、段々目を開けている時間が増えて行った。

 私のスキルで造り出した歪みの無いガラス窓から陽が燦々と入って来るが、闇王様は窓から青い空を見上げて物思いに耽る事が多くなっている。


「オレはどうやってここまで逃げて来られたんだ?」

 私が食事を運んで来たタイミングで、めずらしく闇王様の方から聞いて来た。

「アドリエンヌ様が何とか塔から連れ出して、ウチのホテルまで連れて来てくれたの。だから、そこから連れ出して鉄道で。ここはナイトル村店なんだけど、ここまで移動したの」

「アドリエンヌがどうやってオレを塔から連れ出す事が出来たんだ?」


 闇王様は自分でベッドの上に長時間体を起こす事が辛そうなので、背中の所に山ほどの枕とクッションを置いている。

 私はベッドの向かいにあるテーブルセットに座って、「ジェラルドが息子とアドリエンヌ様を婚約させ様としていたんだけど、アドリエンヌ様がハンガーストライキをして何とか断っていたの。でも、あなたが塔で酷い扱いをされているって知ったから、あなたが生きてるかどうか知りたい。会わせてくれたら婚約をしても良いと言う条件を餌に、ホテルに連れて来てもらったの」と説明をした。


「良く、オレを部屋から連れ出せたな」

「ウチのホテルですもの。マスターキーは私が持っているのよ。向こうは鍵のかかった部屋の中だからと気を抜いたんでしょうね。その間にランビットと私たちがあなたを連れ出して、闇に紛れて鉄道でここまで来たのよ」

「そうか・・・・ありがとう」

 私は無言で頷いた。


 闇王様は無言で何かを考えているみたいだった。

 恐らく、ある程度回復した時の自分の身の振り方を考えているんだと思う。

 と言うか、そうであって欲しい。

 それくらいの覇気を出して欲しい。


 ただ、体力が戻っていないからか、時折無になっている様な目をしていたり、怒りを滾らせた目になっていたり、闇王様自身も自分の気持ちを掴めていない感じだった。


 王都に戻って復讐をするか。

 国外へ出て、留学先の伝手を頼るか。

 全て忘れて新しい人生を始めるか。

 

 闇王様はどの道を選ぶのだろうか。


 復讐はして欲しくないなぁ。

 敵の中に王様がいるのなら、やり様が無いもの。


 留学先で伝手があるとして、貴族でなくなった闇王様を前と同じ待遇で受入てくれるだろうか?


 全く新しい人生、それは平民として?

 名前を変えないといけないとか?

 仕事はどうするんだろう?

 収入が無いのなら、やっぱり働かなければいけないよね?

 ウチのホテルチェーンで働いてもらう事は出来るけど、顔を見られたら闇王様だって分かる貴族がいっぱいいるよね。

 それって闇王様の命を縮める事にならないかな?


 顔バレしない仕事って何があったっけ?

 ホテル関係はダメだとして、グランドキッチン?

 闇王様にグランドキッチン横の倉庫を管理してもらう?


 でもエネルギッシュな闇王様が倉庫の仕事で満足するだろうか?

 あの、学生時代の生き生きした闇王様に戻って欲しい。

 オレには倉庫なんか面白くも無い。もっと面白い所で働かせろって言ってくれるぐらいに回復して欲しい。

 今もまだ目は死んでないから、場さえ与えられれば自分で色々と活躍する方法を模索するだろう。

 活躍できる場・・・・活躍できる場・・・・。


 闇王様はまだ考え込んでいる。

 そして私も無言で考え込んだ。 

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