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ペペの起業奮闘記①

 田舎の清浄な空気。

 その中に漂うこれまた清らかな水の匂い。

 そしてさわさわと揺れる麦の穂。


 ナイトル村の湖のほとり、ここから僕の商会は伸びて行くのだ。

 いや、伸ばして行くのだ、この己の力で!




 学園を卒園する前からイベントと言う物に魅せられていた。

 だって、それまでイベントなんていう物、見た事も聞いた事もなかったから。

 鳥人コンテスト、初年度は湖のほとりで見物をしてとても感動した。

 翌年、学園に入学し、年度末には前年に続き、2年目もちゃんと開催されると分かってすごくすごく嬉しかった。

 今回は絶対出場者として鳥人コンテストに参加するぞと燃えた。

 そして姉さまに頼んでテーマ曲を作ってもらったり、学園の仲間といっしょにおちゃらけたダンスを作ったり、飛行する為の機体を作ったり、イベント当日も楽しかったが、そこに至るまでの過程が一番面白かった。


 仲間内でいろんなアイデアが出た。

 それも色々と準備を進める中で出たので、最初に予定した物と違う物が出来上がったりしたのだが、その遍歴も楽しかった。


 次の年はイベントを企画しているあややクラブへ入れてもらいたくて、思い切って声を掛けてみた。

 だけどサクラ散る。

 入れて貰えなかった。

 でも、僕は絶対にイベントの運営に関り合いたかったから、すごく悩んだ。悩んで、悩んで、声を掛けたので、何としてもイベント企画に携わりたかった。

 そしてあややクラブの下位クラブを作って、イベントの企画運営の時だけお手伝いさせてもらう事を思い付いたんだ。


 この案は存外うまくいって手伝わさせてもらえたし、翌年には自分たちだけで鳥人コンテストを開催する事が出来た。

 今は、ウチのクラブの後輩たちが一生懸命色んなイベントを考えたり、あややクラブから引き継がれたイベントを粛々と進めているはずだ。

 僕も4年生になって以降、ちょこちょこ手伝うため学園には顔を出していたから、まぁまぁ問題はありながらも開催し、成功裡に終えている事は見届けた。


 学園は4年生になると学園で勉強を続けても良いし、将来の仕事に関係する研修をする事も許されていたから、僕は研修先を王都の劇場にしたのだ。

 演劇が学園以外では一番イベントに近いものだったか。

 どうしてイベントに拘ったのか。

 それは将来イベント企画を行う商会を立ち上げる事を視野に入れていたのだ。

 実際に研修を始めてみると、今まで見えなかったモノが見えて来た。

 劇場は高位の芝居好きの貴族が個人的で所有している持ち物で、気まぐれに劇を上演するだけの箱ものだった。

 どさまわりの劇団以外では、この国にある唯一の劇団は劇場を持っている高位のお貴族様が支援していた。

 僕のやりたい事は役者ではないので、劇場と何故か劇団も含めて事務として経験を積ませてもらった。

 まぁ、あれを経験と言っていいのかどうかは分からないけど・・・・。

 だってリア先輩の元で活動していた方が何倍も勉強になったんだ。

 

 実は劇場には支配人と切符売りの女の人、切符もぎの男の人、掃除係のおばさん達2人しか働いておらず、劇団の方は親方が役の采配から、台本作りから、そして舞台での演技に至るまで一人で監督していたんだ。

 衣装なんかは都度、その辺の平民に安いお金で縫わせていて、特定のお針子がいるわけでもない。

 だから、事務と言っても元々は無かった部署で、要は劇場の支配人と劇団の親方のパシリみたいなもんだった。


 件の高位のお貴族様は、僕が貧乏ではあるけれども一応は子爵家の子なので、将来の支配人候補にと思って研修を受け入れてくれたんだとは思うけれど、あそこの支配人って特に仕事らしい仕事もなく、いつどんな演目をするのかとかは、劇団の親方と例のお貴族様で決めていて、劇場の支配人は言われた日に劇場を開け、お客を入れ、終ったら掃除の人の手配をするだけで、入場口に立ち、お客に愛想を振りまくだけの仕事だ。

 後、その時々で変わる件のお貴族様の愛人でもある女優たちが、浮気をしないか見張るのも仕事の内と言えば言えるかな。


 役者については例のお貴族様が主役級の役者は囲っているのに、脇役の役者は必要な時しか契約していないのを見て、これは一つの商機なのかもしれないと思ったんだ。

 だって脇役の役者は食っていけそうにないのにそれでも役者をやってるんだ。

 これって絶対演劇が大好きで、どんな条件の元でも人前で演技をしたいからこそ劇団にしがみ付いていると思うんだ。


 僕がやりたいのは劇場でも劇団でもなく、リア先輩が言っていたエンターテイメントなんだ。

 イベントを企画し、必要な人材を投与し、みんなに楽しんでもらう。

 その為には色んな仲間が必要だし、元手だって必要さ。

 だから、売れない役者は仲間に引き入れるのに向いてる気がしたんだ。

 イベントは人前でする事だし、アナウンスも発声練習を日常的にやっている役者には向いている仕事だし、劇場に出演していない時は雇えるわけだしね。

 

 僕には勝算があるんだ。

 何故って、リア先輩は遅かれ早かれエンターテイメントを必要とするはずだから。

 何度もリア先輩に会合の申し入れをしたんだ。

 でも、時間が無いらしく、ちゃんとした日程は組めなかった。

 そうこうする内に卒園してしまい、一旦は商会を諦めたんだが、一応、家の親も貴族の端くれではあるから、少ないながらもお金を出してくれ、家を継ぐ事は出来ないから、このお金で自立できる様に頑張んなさいと背中を押された。

 とりあえずは何かイベントを打ち上げるために、パトロンを探さないとと色んな貴族家を訪ねていたある日、突然、会合を持ちたいとリア先輩の方から言って来た。


 商会で一緒に働いてくれて、且つ婚約者のベレンと2人でリア先輩の高級ホテル王都店に行った。

 平民が作ったとは思えない程豪華で、建物の中で行き来している人も殆どが貴族か裕福な商人に見える。

 ゆったりとした造りなのに、どこもかしこも人が居る。

 つまり繁盛しているって事なんだと思う。


 あ、あそこの戸から出て来たのは結婚の披露宴の一団かな?

 あの豪華なドレスを着た人が花嫁なんだろう。

 すごく華やかな一団だ。

 ベレンが憧れの眼差しで花嫁のドレスに見入っているな。

 

 この宿屋は他の宿屋と違い、ホテルと呼ばれている。

『ホテル』イコール高級宿という図式が既にオルダル国では成り立っている。

 でも、これってすごくないか?

 ホテルと言う言葉はリア先輩が考え出したんだ。

 それまで宿は宿としか言い表す事が出来なかったのに、たった一つの『ホテル』という単語を考え出しただけで、リア先輩の宿は他の宿とはグレードが違うとあっという間に印象付けてしまった。

 

 それに複数ある高級ホテルはどこも特徴があって、それぞれに楽しめるポイントが違うっていうのはある意味エンターテイメントに通じる気がする。

 やっぱりリア先輩はイベントの神、否、女神様だと思う。

 この人に付いて行けば、エンターテイメントって言う物を身に付ける事が出来ると僕は思う。

 だって学園で魔法障害物競争って言うイベントを立ち上げる時に見た、ゼロから何かを作り上げるリア先輩の力量は群を抜いていたんだ。


 それで会合に呼ばれると、ナイトル村という高級ホテルがある村でテーマパークと言う物を建てたい、ひいてはその施設の人の手配やイベントを取り仕切って欲しいって言われたんだ。

 これってすごくないか?


 リア先輩が描いた図では、マンモ大陸の西の果にあるピグミンという国の特徴のある建物で統一された敷地内で、今流行りの鉄道のレールをグイングインと波立たせて客をトロッコに乗せて遊ばせたり、ウサギとか羊とかとふれあう事のできる広場とか、人を籠の中に入れて、それを装置でゆっくりと回し高い所から景色を楽しむ乗り物とか、もう、本当に僕では思いもつかない『アトラクション』とか言うのを作りたいって事だった。


 土地、建物や装置は全部リア先輩の方で用意するから、人の手配とイベントの企画運営をお願いしたいと言われた時には、自分のやりたい事とぴったり重なったから夢でも見てるのかと思ったよ。

 これは、絶対に成功させたい。

 だって、本当に自分がやりたい事なんだから。

いつも拙作をお読み頂き、ありがとうございます。

早くペペ君を再登場させたいとタイミングを伺っていたのに、なんだかんだで先送りばっかりだったのですが、漸く再登場できてほっとしております。


さて、本作の途中ですが本日より短めの連載を始めました。

『 奥手の幼馴染ばかり、そんな私に春は来るのか?』

https://ncode.syosetu.com/n8331jv/

もしよろしかったら遊びに来てみてください。


また本作も『いいよ』、★、ブックマークで応援頂けたら嬉しいです。

よろしくお願い致します。

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― 新着の感想 ―
ちょっといやらしいけど、ぺぺっちにあのイベントクラブの行く末を語って欲しかったw あそこからどう足掻いたかは気になる。
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