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「うわぁ。私たちの部室ってこんな風に使われているのね」
勇者様が元部室に一歩足を入れて、声を上げた。
中の家具は全て闇王様の家が持ち出してから明け渡したらしいので、今ここにあるのは学園側が用意した家具で、なんと職員室になっていた。
キッチンのスペースが小さく作り直されており、2階の2か所のお風呂兼トイレは、やはり男女別のトイレになっており、バスタブが取り除かれたかわりにトイレの個室が増えていた。
作戦会議室だったところは壁がズラッと資料等の棚で、他より1段高くなっているので、そこにソファセットが置かれている所を見ると、急な来客等の対応はここでするのだろう。
セシリオ様の定位置だった階段下の図書スペースはごちゃっとした資料置き場に代わっており、2階のテラスはスペースが極端に狭くなっており、1/2が壁で囲まれ室内化してあり、そこにも先生方の机が所狭しと並べてあった。
「ここの方が学生の声とか聞こえなくて、落ち着いて授業の準備とか出来るので助かっているのですよ」とは、水属性魔法のマデレーン先生だ。
ヘルマン様がマデレーン先生の声をした方を振り返った。
「前の教室棟にあった職員室はどうされたんですか?」
「あそこもまだ職員室なのよ。ここは魔法教師以外の教師用なの」
「え?でも先生は・・・・」
「ええ。私は魔法教師ですけれど、女性教師は優先的にこちらを使わせてもらえるのよ」
「?」
「ここはキッチンがあるでしょ?女性教師の中にはランチなどはここで自分で作ってしまう方もいらっしゃるので。あっちはキッチンが付いてないですからね。それに建物もまだ新しいし。ただ、魔法教師は講堂に近い以前からの職員室の方が移動は楽なのよ」
「なるほど!」
ヘルマン様とマデレーン先生の会話を聞きながら、あまりに様変わりした元部室をじっくり見た。
恐らく昼食を自分で調理している先生方の中に、マデレーン先生も含まれるんだろうなぁ。
まだ授業の準備がある様子のマデレーン先生にお礼を言って、私達は2階へ上がった。
ああ、あそこには錬金術用の薬棚を作ったなぁとかあちこちを見て懐かしくなったり。
棚は取り除かれていたけれど、シェルフは残っていた。
でもあれだけお洒落だったシェルフも、先生たちの書類が無造作に置かれていてなんか乱雑感が半端ない。
貴族生徒に歴史を教えていたアルト先生の席がシェルフ横らしく、挨拶をしてくれ「職員室が2つになったから、スペースを広々と使えるし、ここはトイレも綺麗だし、息抜きしたくなったら2Fのテラスで綺麗な花を見たりして気分転換も出来るから、儂らもありがたく思っている」とにっこり笑って迎えてくれた。
教室棟から離れているのが難点だが、部活の顧問をしておられる先生方には部室が近くなったと喜ばれているらしい。
錬金術クラブにしてもあややクラブにしても顧問が来る事って早々なかっ・・・・否!ガスペール先生はおやつを食べにしょっちゅう来てたよ・・・・。
それにどちらも顧問はガスペール先生だったよ。
クラブ活動放置はガスペール先生だからこそだったのかも?
ガスペール先生はある意味特別だからね・・・・。
他の先生はちゃんと真面にクラブ活動の顧問をしているもんだと思いたいよ。
学園の中をちょっと見回って懐かしい授業中の教室とかを外からそっと覗いて、私たちはヘルマン様と勇者様を見送りに王都駅へ急いだ。
ゴンスンデ行きの方が先に出発するのでまずはメグたんが、その後に出るヤンデーノ行には途中までだがヘルマン様が乗車する。
みんなで駅のプラットフォームで見送った。
「くれぐれも鉄道の件、お願いしますよ」
最後までヘルマン様は鉄道の事を心配し、何度も念を押して鉄道に乗った。
私の方も例の2人の事、よろしくお願いしますとヘルマン様を送り出した。
男子3人とトボトボとホテルの方に戻り掛けた時、ボブが、「リア、ウチの工房へは出来るだけ早く来いよ。絶対びっくりするからっ!」とにっこり笑って、フェリーペと馬車に乗って帰って行った。
無口なボブがあれ程何度も見に来いと言うからには、よっぽどなんだなと思い、2~3日中にスイカズラ工房へ行こうと思った。
と言うことで無事同窓会も開けて懸案事項の一つは解決して、翌週の火曜日、仕事は忙しいけど時間を調整して、事務所から家へ帰る途中にスイカズラ工房へ寄った。
仕切りで分けられている2つの応接室の一つに腰かけて待っていると、すぐにボブが工房の中へ連れていってくれた。
工房の窓や雨戸をパタパタと総出で閉めて行き、壁に大きな白い布を貼る。
ガタゴトと大きな機械を持ち出して、スイッチを押したのだろう。
ライトが付いた。
投影機かな?と思って見ていたら、画像が動きだした。
おおおお!これって動画じゃん!!
うぉぉぉ。いつの間に完成したの?
私は思いっきりボブの方を振り返った。
ボブとその横に立っているボブ父がニヤリと笑った。
「すごい!すごい!すごい!完成したんだぁ」
「漸くね」
「うわぁぁ」
「お嬢様、開発資金を出して頂いていた案件の内、一つだとしてもちゃんとご期待に添える結果を出せて、ウチの工房としてもほっとしております」とボブ父が良い笑顔で動画が映し出されている画面を顎で指示した。
「ただ音声は録音できなかった。それはどうやっても今の段階では無理だな」
ボブはそこが残念そうだ。
地球だって最初はサイレントの時代だったのだ。
音は弁士を付ければ良いのだ。
映像があるだけで色んな事で幅が広がるんだよ!
「是非、購入させて下さいっ!」
もう、値段も聞かずに即購入を決めちゃったよ。
値段は目の玉が飛び出る程だったけれど、これがあるのとないのとでは雲泥の差なんだよっ。
「でもさぁ、リアはこれを何に使うつもり?もう学園のイベントとかはやらないでしょ?」
ボブにしてみれば、これは私たちが学園の学生だった時の宿題で、その目的は鳥人コンテストなんかに使いたいって所から始まったんだよね。
う~ん、何に使おう・・・・。
画像でなくて映像でなくては出来ない事。
それこそいっぱいあるよね。
よしっ!考えよう!!!




