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一度、本人の顔を見てやりたいよ。
そう思っていた頃が私にもありました・・・・。
件の侯爵様、お客としてウチの王都店に食事に来てやがりました。
それもモンスタークレイマーとして。
「この肉は火を入れすぎじゃないか?」
「カクテルが旨くない。ただ甘ったるいだけじゃないか」
「いつも同じようなメニューしか置いとらんのか」
まぁ、出す料理出す料理、全部にクレームを付けてくれやがりました。
それも大きな態度で踏ん反り返って。
不自然に大きな声でクレームを出していたので、周りのお客さんも煙たがっていたのに、奴はそれにも気付いていないみたいだった。
いや、もしかしたら気付いていたのかもしれないけれど、どっちにしても迷惑な事に変わりはない。
王都店の支配人が、「お客様、他のお客様の御迷惑になりますのでお声を少し下げて頂くか、別の部屋をご用意させて頂きますので、そちらでご意見を伺いますが・・・・」と促しても、「儂は食事中なんだよ。しょ・く・じ・ちゅう!途中で席を立つわけなかろう!」と一歩も譲らず。
でもこれで、ウチの王都店の殆どの従業員は侯爵の顔を覚えたので、次回からは「予約で満席でございます」とお断りを入れる事が出来るもんね。
あっかんべー!
それにしてもモンテベルデーノの例の賭博場はずっと営業を続けていたみたいだ。
法律違反もなんのそのって感じだね。
でも、先日、とうとう兵が取り囲んで、閉鎖させたらしい。
中で遊んでいた人たちも、働いていた人たちも、等しくしょっ引かれたそうだ。
ざまぁ!
それにしても、私はモリスン村のカジノに代わる目玉商品を作れないでいた。
どうしたものか・・・・。
そうこうしている内に、フェリーペから手紙が来た。
あややクラブの同窓会についてだ。
闇王様とセシリオ様は後2年くらいは休暇でも帰国しないとのこと。
ヘルマン様は貴族が自分一人であっても同窓会があるのなら参加したい旨、回答があったらしい。
もちろんフェリーペもボブも、ランビットも参加は可能だけれど、できたら王都での方が嬉しいと書いてあった。
後は私の方からアドリエンヌ様と勇者様に打診する感じかぁ。
メグたんの方は簡単にお手紙を書く事が出来た。
近況を知りたい旨を書き、今度はこっちの状況を書き、フェリーペから聞いた男子側の参加状況についても書いたら、結構な枚数になった。
その後に徐に勇者様が同窓会に参加できるかどうかを書き込んだ。
王都で同窓会の場合は、王都まで出て来れるか?
何時なら大丈夫そうか?
全員参加でなくても問題ないか?
だけどアドリエンヌ様への手紙はとっても気を使った。
恐らくだけど、アドリエンヌ様の御両親や、近しい使用人もこの手紙を読むだろうなぁと思うと下手な事は書けない。
だから、近況報告とお元気ですかと尋ねた後に、あややクラブの同窓会を何時開くか迷っている事、可能性としては今年やるかもしれないけれど、その場合は留学組は不参加となる事などを短めの言葉で綴って行く。
はぁ~。
アドリエンヌ様、お元気かなぁ?
ガーデニングをする事が出来ず、落ち込んでいないかなぁ?
何より、この手紙がちゃんとアドリエンヌ様の手元に届くかどうか・・・・。
どちらにしても、2人からの返事待ちなので、私が出来るのは今の所ここまで。
後は、いつもの仕事とモリスン村の課題を片付ける事に集中しないとだね。
そうそう、パズル雑誌の売れ行きが良すぎて、新刊を作るのが間に合っていないんだよね。
それも問題っちゃ、問題なんだよね。
パズル作家を育てないといけないかなぁ?
色鉛筆とかあったら、もう塗り絵とかでも良いと思うんだけれど、こっちの世界では鉛筆って無いんだよね。
クレヨンもなくて、絵を描く人は墨かインク、絵具を使うけど、一般の人は色の付いた絵って描かないんだよね。
絵具ってと~~っても高いものね。
パズル以外に雑誌って何が作れそうかな?
いやいや、パズル以外の物を作ろうと思ったら、また人を育てないとだしね、それも折角そこまでやって売れるかどうかは分かんないしね。
う~~~ん。
何か頭が爆発しそうだよ・・・・。
どっちにしても次回調味料工業団地へ行く時は、私のスキルをこっそり使っていろんなお酒とかを完成させないといけない。
これは数か月毎に行っている私の業務の一つだ。
私の時間促進ストレージというスキルを使って、今まで作り溜めたお酒類の熟成を行うのだ。
もちろん全部では無い。
当面使う分のみで、残りはちゃんと普通に寝かせる予定だ。
というか、カクテルとかの売れ行きが良すぎて、前回スキルを使った時も、もうこれで来年末くらいまでこの作業はいらないよね?と思ったのはついこの前だ。遠い目・・・・。
調味料工業団地へ行ってる間も、同窓会やモリスン村の事は悩んじゃうだろうけど、やる事があると気が紛れるね。
樽詰めされたお酒なんかは、一つづつちゃんとスキルを使って食材鑑定をしていくつもり。
それで美味しくなるかどうかを確認するのだ。
万が一美味しくなりそうになかったら、それこそスキルを使って何とかしなくちゃね。
でも、醸造の作業の時に立ち会ってるし、その時も食材鑑定スキルでちょこちょこ確認してたから大丈夫だとは思う。
「アウレリア、今度工業団地へ行く時、私は一緒に行かなくて本当にいいのかい?」
夕食のテーブルで父さんが心配そうに聞いてきたが、「大丈夫」と答えると、「分かった。気を付けて行っておいで。ナイトル村の事は一人で悩まなくていいよ。みんなで考えよう」と、今の私の一番の悩み事をいつもの様に父さんは言い当てた。
「うん!」
父さんが頭を優しく撫でてくれ、母さんがにっこり笑い、手づかみでご飯を食べていたエイファの口の周りはベチャベチャだった。