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結論から言おう。
前宰相様は頑張って下さった。
人伝ではなく、ちゃんとご自分で王様に渡りを付け、こちらの事情を話して力になって下さったそうだ。
これは前宰相様ご本人からだけでなく、大公様経由で私たちの耳に入って来たので間違いない。
でも、王様は「適用除外は無い」と言い切られたそうだ。
理由は、元々賭け事は身を危うくするモノだし、こうまで破産者が出てしまえば我が国の貴族の面目が立たないとのこと。
それに除外条件を悪用される可能性だってある。
為政者として一番簡単なのは例外を認めず一切合切を禁止することだ。
それに、恐らくだが、元々賭け事を排除したかったので、今回の侯爵ん所の事でこれ幸いと実際に法令化したんだと思う。
もし、そうだとしたら王様の考えを翻させるのはとても難しいと思う。
「力になれなくて本当に申し訳ない」と前宰相様は酷く落胆した様子で、父さんに報告に来られた。
「いえいえ、私どもの為にお骨折り頂いて、本当にありがとうございます。前宰相様程の方が動いて下さったのに変わらないと言うのは、もう何をやっても変わらないと言うことなので、それはしょうがないです。お気になさらず。それよりも本当にありがとうございました」と、父さんは約束の鉄道の回数券と、それとは別にお食事券も渡した。
「いえいえ、私は王様の説得に失敗したので、本来なら鉄道の回数券すら頂くのは心苦しいのです。お食事券までは頂けません」
前宰相様は本当に腰の低い方で、こんな時でも平民の父さんに対して態度を変える事なく、約束されたモノ以外の受け取りも拒否をされたのだが、「これは私どもの気持ちでございます。是非、このお食事券を使って頂いて、ウチの料理を召し上がって頂きたいです。その際は料理の感想などもお教え頂けたら嬉しいです」と、結局前宰相様の手に押し付ける様にお食事券を押し込んた。
前宰相様は大変恐縮しながら帰って行った。
ふぅ。前宰相様でダメなら他に手は無い。
前宰相様は今の王様にも、先代にも仕えた方で、王様の覚えもめでたい方だ。
私たちの周りで、それ以上となると大公様しか知り合いはいない。
でも、今回の事は法律に関する事なので、横やりと取られるやり方は避けたいのだ。
もし、どうしようもなければカジノは諦めるしかない。
都会型の高級ホテルの稼働率はかなり良い。
宿泊客が少ない王都店でさえ、食事や会員制クラブ等、その他の部分でがっちり固定客を掴んでいる。
でも、移動途中の村型のホテルは、鉄道移動の他に連泊する気にさせる様な何かが無いと、稼働率は可成り落ちる。
まぁ、落ちるとは言っても70%の稼働率はキープできるとは思う。
鉄道があるからね。
でも、それだと高級ホテルにしなくてもビジネスホテルで事足りたのだ。
あれだけの数の従業員を抱えなくても、あれだけの建設費を掛けなくても、充分ビジネスホテルで儲けが出たのだ。
田舎の高級ホテル・・・・。
日本や地球だとリゾートホテルかオーベルジュくらいのものだが、オーベルジュは一部の金持ちだけしか使っていなかったと思う。
特に日本ではわざわざ田舎のオーベルジュへ行かなくてもミシュランで星の付いたレストランが都会にゴロゴロあったので、田舎までわざわざそのお皿を食べるためだけに旅行となると、時間に余裕のある人しか行く事が出来ないし、行ったとしても同じ人が頻繁にリピートするとは思えない。
あの文明の発達した地球でそうなら、このその日食べる物に困る人が多い世界では成り立たないと思う。
う~ん。でも、旅行する時、ウチの高級ホテルかビジネスホテルに泊まる貴族や裕福な商人が多いのは、オーベルジュっぽいのかな?
貧富の差が激しい世界だし、お貴族様の中には文化重視の人も多いのは事実。
料理も文化の一つだしね。
でも、田舎型ホテルへお客様が来てくれているのは、鉄道の存在ありきではあると思う。
カジノ無しで村型ホテルをどう盛り上げるか・・・・。
モリスン村には名物や綺麗な景観が無いからカジノを導入したんだし・・・・。
今、カジノとして使っている3階を客室に変える?
でもカジノが無ければ稼働率は下がるよね?
それなのに部屋を増やしてどうする・・・・。
いっそ動物園とか、植物園、遊園地みたいな物を作って見る?
でも、動物園は狭い場所に動物を閉じ込める事になるし、万が一逃げ出されて事故になっても困るし、何より動物たちの食費がすごそう。
植物園を見るためだけに王都などからモリスン村まで来るかなぁ?
なんか1回は来てくれても、リピート客は少なくなりそう。
遊園地は子供が遊ぶ所だから、旅行は大人だけでしてしまう貴族を呼び込む決め手にはなりそうもないなぁ・・・・。
でも、デートスポットもあんまり無い世界だから、遊園地はワンチャンあり?
「アウレリア、あまり悩まなくていいんだよ」
父さんが私の頭を優しく撫でてくれる。
「そうですよ、お嬢様。どの店舗も赤字は出していないのですから。利益は少なくなりますが、経営の危機とまでは言えません。鷹揚に構えましょう」とダンヒルさんも言ってくれるが、高級ホテルは雇用者の数が半端ないんだよね。
だからあまり利益が少ない様なら、経営者としてはビジネスホテルに切り替えた方が良いんだけれど、そうなると使用人たちが路頭に迷ってしまう。
何かモリスン村店を盛り上げる方法を見つけないと・・・・。
本当に侯爵っていらない事ばっかりやるよね。
一度、本人の顔を見てやりたいよ。




