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ダンヒルさんが王宮を訪ねたところ、法律の執行に関しては衛兵が取り締まりを担当しているのだが、法律を作っているのは王様と一部の側近とのこと。
ただ、法律として発布する前に一応法律家と呼ばれる専門家に相談する事があるらしいと言う情報を得る事が出来た。
今回はこの国に2人しかいない法律家に話を持って行きたいとダンヒルさんから報告があった。
何故なら、王様と直にお話なんて一介の執事や雇われ人に出来るハズがないからだ。
勿論平民である私や父さんにも無理だね。
「お嬢様、件の法律家たちをウチのレストランかホテルに呼んで接待をしてもよろしいでしょうか?」
ダンテスさんはちょっと眉を寄せた難しい表情で聞いてきた。
「もちろん。恐らくレストランの方は予約でいっぱいだと思うので、ホテルのレストランの方が良いかもです。どちらもいっぱいなら、貸会議室を使って下さい」
「ありがとうございます」
法律家の一人はアダムスと言って、下級貴族の次男だそうだ。
結構なお年でいつ引退してもおかしくない神経質な顔をした男らしい。
もう一人の方は、ガルメッシュという同じく下級貴族の八男で、濃い茶色の髪のこれまた痩せた男。
年はもう中年に差し掛かっているのだが、アダムスに比べると15歳は若いらしい。
ダンヒルさんによると最初2人ともウチのホテルで会食出来ると言うことでとっても上機嫌だったらしい。
メニューは各自に好きな物を選んでもらうと、メニューに書いてある値段が分かるので、こちらでコース料理を特別に用意させてもらった。
この手法は王都の大きな商家が良く使っている手なので、ウチも真似させてもらった。
3種のアミューズ、ミモザサラダ、ワンタンスープ、子羊の香草焼き、チョコレートケーキ、スモークチーズとお酒というラインナップで、二人とも大層喜んでくれたとのこと。
でも夕食が終る頃には普段食べれない料理を堪能する事よりも、この機会を利用して日頃から思っていた事を叶えてもらおうと、「鉄道に乗ってみたい」だの、「会員制クラブに入会したい」だの、色々と条件を出し始めたそうだ。
貴族の子息なのに会員制クラブに入会できていないというのは、紹介者がいないと言う事だ。
法律家というのは専門職と言いつつ、実の所冷や飯食いなのだ。
だから紹介者が居ないのだ。
だって、この国の法律は歴代の王様が制定しているのだ。
で、法律について実質的な事を相談する相手は宰相や少数の側近となる。
じゃあ法律家って何をするかと言うと、今回の会食でダンヒルさんが突き止めた所では、王様が必要と思った時しか招集されない仕事で、過去にあった法律と現在の法律を知っている事が条件なだけで、法とは何なのかといった学問を修めた訳ではないそうだ。
だから、王様が「〇〇についての法律を作りたいが、過去に〇〇に関する法律はあったか?」と聞かれた時に「××年に▲という法律があったと記録があります」と調べて答えるそれだけの仕事なのだ。
元々現在も過去もそんなに複雑な法律も多く無いし、記録を調べるだけの仕事なのだ。
だから、今回ダンヒルさんはまず、彼ら2人の職域について確認した。
そしてその後、今回の新法律について過去の法律について王様から相談があったかどうかを二人に確かめた。
「もちろんありましたよ。ただ、過去には賭け事に関する法律はありませんでしたけれどね」と言うのがアダムスの返事だったらしい。
会食が終った翌日、ダンヒルさんからの報告では「もしかしたら法律家に相談してもダメかもしれません。宰相の方が本来王様に近いですし理想的なんですが、最近宰相は代替わりしまして、今の宰相は堅物で有名なんですよ。こちらが相談する為の会食の席を設けたら、不正を隠したいのかとか痛くもない腹を探られる可能性すらあるんですよ」と頭を抱えていた。
2人の法律家は普段周りから相手にされていない事もあり、ここぞとばかりに要求を押し付けて来てるらしい。
その割には王様から声が掛からなければ自分たちから王様に会いに行く程の地位も持っていないのだ。
さて、どうするか・・・・。
前の宰相であれば以前の王宮での晩餐会でのやり取りがあるので話が早かっただろうに・・・・。
う~ん。
ダンヒルさんと2人で頭を悩ます。
どっちにしても法律家は役に立ちそうにないので、彼らの要求を呑む必要は無いと思うけど、それで彼らとの繋がりを切って、こちらが他の手段で王宮にアプローチした時に足を引っ張って来るって事はないかな?
もっと言えば、足を引っ張ろうとして実際に足を引っ張れるだけの力を彼らが有しているかどうかと言う所が問題だ。
大公様に頼めば何とかなるかもしれないけれど、もうお年を召していらしているからここの所体調がすぐれないという情報がダンテスさん経由で入って来てるし・・・・。
なんでもかんでも大公様におんぶにだっこって言うのはダメだと思う。
ん?ちょっと待って。
私、さっき何か気になる事考えたよね?
何だっけ?
う~ん。
しばし記憶を手繰り寄せる。
でも、何が気になったのか分からない。
う~ん。
直ぐには答えが出ない。
ダンヒルさんにも相談しているのだが、取り敢えずは法律家たちに関しては出された条件は飲まない方向という事に決まりそうだ。
それにしてもさっき気になったのって何だっただろう?




