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「モンテベルデーノの賭博場が問題になっています」
「ん?」
「例の貴族相手にドッグレースなどを行っていた侯爵の賭博場です」
「それがカジノとどう関わっているの?」
ダンヒルさんは走って来たために、まだ額に汗をにじませたまま、「破産した貴族を多数輩出しており・・・・」と、そこまで言って、一旦大きく息を吸った。「王が賭け事禁止令を発令する運びになっている様です」
ん!?
「賭け事禁止令となるとカジノにも規制が入るってことですか?」
「規制というより、賭け事全般が禁止になるのでカジノを閉めなくてはいけなくなります」
言いたい事を全部吐き出したせいか、ダンヒルさんの息がぜぇはぁから普通に近い落ち着いたリズムに変わった。
カジノはウチのホテルチェーンの中でも稼ぎ頭だし、中の調度品等は頗る上等な物を使っているので、初期投資が高いセクションでもあった。
実はもう初期投資分は既に回収済みで、他の黒字額が低いホテルなんかの経営を後押しするのにも重宝してたりするんだよね。
だからカジノが禁止になるとウチとしては可成り痛い・・・・。
黒字額が低いのはナイトル村店である。
夏は湖やBBQなどで賑わうし、客単価も可成り高くなるが、冬の間は7割の稼働率。
BBQなどは無いので宿泊料と食事くらいしか儲けが無い。
まぁ、そうはいっても宿泊代は部屋などの建物や家具は新たに揃えなくて良いので、それなりに利益は出るのだが、いくらこの世界の人件費が安いとは言え、一組の宿泊客に割く人手の数が高級ホテルだけに多いので今の所は利益は低いのだ。
それでも連泊する客も少なくても、鉄道があるので7割は稼働しているのがありがたい。
もちろん夏は10割だったけど、今年の夏、つまり開業2年目の夏はどのくらいの稼働率になるかは不明だ。
モリスン村もカジノが無ければヤンデーノへ移動する貴族や商人が1泊するだけのホテルになるだろう。
ウチの国の北部でヤンデーノはそれ程大きな街ではなく、まだモンテベルデーノの方が大きいのだ。
しかも北部は海運が発達しているので鉄道に拘る客もゴンスンデ線に比べれば低くなる可能性だってあるのだ。
ビジネスホテルがなければもっと連泊してくれていたかもしれないが、今やビジネスホテルの稼働率の方が断然良いのが実情だ。
お貴族様もたくさん泊まってくれるけれど、それよりも商人が本当に多く、商人様様だ。
都会にある3つのホテルの内、ゴンスンデとヤンデーノは宿泊もほぼ満室状態だし、ゴンスンデに至ってはデパートからの収益もバカにならない。
王都店は食事と結婚披露宴や貸会議室、パーティ会場、そして何より会員制クラブが稼ぎ頭で、宿泊よりもそっちの方が利益率は良い。
まぁ、宿泊も裕福な商人たちが使ってくれているのだが、一般的に貴族にしても裕福な商人にしても自宅が王都にある場合が多いので自分たちが泊まるのではなく、商人の場合は上客が王都へ来た時、接待の一環としてウチで泊まらせてあげるって感じかな。
だからダンヒルさんが、カジノを閉鎖しなくてはいけないと言うことに、これ程敏感になるのは分かる。
私としては前世の記憶があるので、どうしても賭け事は良く無いって思ってしまい、どうしてもカジノを続けたいという気持ちは低いんだけれど、チェーン店の経営という目で見るとカジノを閉めないといけないのはとても痛い事は理解している。
しかし、破産貴族を多くだしたって、モンテベルデーノの賭博場ってどんな運営の方法をしていたんだろう?
「搾り取れるだけ搾り取っていたらしいですよ。ウチの様に1日当たりの遊興費の上限を設けていなかったみたいですしね・・・・。取り立ても可成り過酷なやり方をしていたみたいです」
「過酷?」
「屋敷まで人をやって取り立てるだけなら良いのですが、その屋敷がある町中に借金があると分かる様に大声を出して門まで複数で押し寄せるなんて事もしていたみたいですし、屋敷の壁や塀に借金に関する落書きなんかもしていたみたいです」
「うわぁ~」
貴族に対してそこまで傍若無人な対応が出来るのは、経営者が侯爵様だからだろうか?
100%平民なら絶対に返り討ちにあっちゃうと思うんだよねぇ。
「取り敢えず、ウチも僅かではありますが破産者が出ていますので、この新しい法律の適用対象となっている様で、どうにかして適用から外してもらおうと思っています」
そうなんだよね。村に質屋さんとか出来ちゃってて、お金無いのに無理やりにでも遊ぶ貴族と商人さんがいて、とうとう数名の破産者が出ちゃったんだよ。
まぁ、あれだけ規制を設けているのに破産までいっちゃうって言うのは、自業自得とは思うけどね。
何か思いついたのかダンヒルさんはしゅっと背中を伸ばして瞳がランランとしだした。
何をするのだろうか?
「まず、ウチでは1日の遊興費の上限を設けております。なので良識のある客であれば、破産に至る事はないのです。現金で前払いなので、手持ちの現金が無くなれば一旦はカジノから離れる事になります。それを説明して、それでもダメなら、1月辺りの来場制限回数を設けてみてはと相談してみます」
「え?どこに相談するの?」
「王宮です。この法律を管理している部署に働きかけてみます」
「どこの部署か分かるの?」
「それは城へ行けば分かるでしょう。とりあえずはどうやれば新法律の適用から外してもらえるかについて王宮で相談してみます」
「ダンヒルさん、面倒なお仕事だと思いますが、よろしくお願いします」
「お嬢様、お任せ下さい」
「あ、ネゴの進捗状況は都度、教えて下さいね」
「はい」
ダンヒルさんが私の事務所を出て行った。
明日の朝、王宮の窓口で色々調べたり相談してくれるだろう。
しかし、件の侯爵様はウチの邪魔をする為に態々賭博場なんて開いて破産者を大量生産したのだろうか?
普通だったら、まぁ、ウチの邪魔をすると言っても、同じ商売をして客の取り合いをする程度だとは思うけれど、もしこの新法律の制定を視野に入れて動いてたとすれば、ちょっと厄介な相手だよね。
フローリストパークの因縁があるけど・・・・でも、そんな事まではしないよね?




