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クリームシチューは大成功だった。
ベシャメルソースを作らずに、直に牛乳を入れる方法にしたので、手間も殆どかからない。
寒い冬の夜に、体が温まるトロリとしたシチューは、家のみんなも大好物だ。
バターを少し入れるとコクが出るので、ランディの作ったバターが大活躍だ。
本当は白味噌を入れたかったんだけど、無い物はしょうがない。
『熊のまどろみ亭』の最近のルーティンは、夜は希望者先着10名様でゆで豚。
それ以外は普通のステーキ。
毎週水曜はワンタンスープ。
毎週土曜はクリームシチュー。
もちろん売り切れ御免だ。
その他の曜日は、本日のスープとなるので、どんなスープかはその日に決まる。
そして単品のジャガバター。これはいつでもOKにした。
原価に比べ儲けも大きいし、人手もそこまで使わないしね。
もしかしたらウチの隠れた稼ぎ頭かも知れない。
ワンタンスープでくず肉料理という課題はクリアしたんだけど、キドニーパイみたいなパイを作る事も諦めてない。
バターもその為に開発したんだし、何よりパイはお弁当の代わりになるから・・・・。
お弁当の代わりになるもの・・・・そう考えていて浮かんだのがイギリスの鉱山の街で流行った『コーニッシュパイ』。
『パスティ』とも言われる具入りのペイストリーだ。
スペインだと『エンパナーダ』と言われ、前世の海外旅行で食べた時、店ごとに入ってる具材が違ってどれも美味しかったのを思い出した。
フィリング、つまり具材から汁気が出てしまうとべちゃべちゃのパスティになってお弁当にならないどころか、料理としても美味しくなくなる。
かと言って、カラカラの具材だとパサパサで美味しくないので、水分量が鍵になるかなぁ。
具材、何にしようかなぁ。
そう言えばシーチキンのとかもあったなぁ。
でも一般的なのはひき肉と玉ねぎが入ってたと思う。
ゆで卵が入ってたのもあるし、ブラックオリーブが入ってたのもあった。
スペインのエンパナーダの方は、チョリッソが入ってたのが多かったなぁ。
日本で売ってるチョリッソなんて偽物で、スペインでは全然違うのだ。
カッチカチに乾燥させた辛口のソーセージとでも言うか・・・・・。
いや、ソーセージというよりは麺棒くらいの大きさなので、見た事がなければ想像できないと思う。
でも、スペインはサラマンカのギフエロという村のチョリッソは、他に無いくらい美味しかったなぁ・・・・。
いつかは本物のチョリッソも再現してみたいなぁ・・・・。
イギリスへ旅行した時は、コーンウォールの名物だと言われて食べたけど、肉だけじゃなくってジャガイモも入ってて、あれも美味しかったなぁ。
平成から令和に掛けて、前世では結構旅行をしたんだよね、国内外問わず。
お弁当替わりになるくず肉を使ったパイ。絶対作ろう!だって、美味しいんだもん。
もう一度食べたいんだもん。
バターが手に入ったからパイ生地も問題無く作れる。
エンパナーダの生地ならバターはいらないが・・・・砂糖がいるんだったっけ?
前世の記憶を手繰り寄せながら考える。
実は、エンパナーダをえらく気に入ったので、何とか自分でも作ってみたいとネットで教室とかを調べたんだよね。
そしたら、旨い具合に市役所主催のワールドクッキング教室のメニューの中にエンパナーダの文字を見つけたのだ。
毎月1回、それも材料費を入れて¥2,500のお得なお教室だった。
同じ市内に住んでるいろんな国の人が交代で、公民館の中にあった広くて綺麗な調理室で自国の料理を教えてくれたフレンドリーな教室だった。
エンパナーダの他にも、タイ人からはトムヤムクンとかも教わったなぁ。
おっと、パイに戻ろう。今、作りたいのはパイだからね。
コーニッシュパイならオーブンだし、エンパナーダなら油で揚げるのだが、悩む。
『熊のまどろみ亭』にはオーブンはない。
でも、油で揚げるのは、油の値段が高いのだ。
一般的な植物油はひまわり油になるのだけれど、癖はあまりない。
ただ高いのだ。
高い調味料や素材を使えば、商品の値段にそれが反映してしまう。
気軽に買って、軽くて持ち運びしやすく、立ったままでもパクって食べれるそんなパイを作って売りたいのだ。
だから高額商品になるのは避けたい。
う~ん、悩む!




