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「父さん?」
リュウゼツランが等間隔で植わっている温室の中、奥の方でごそごそという音がしている。
そっちへ行ってみると父さんが園芸ばさみなどを手にリュウゼツランの手入れをしていた。
「父さん?」
「ん?」
元々庭仕事が本職だったのに、私のせいで本来の仕事とは似ても似つかない仕事を担当してくれて、何年経っただろう。
今やレストランだけじゃなくって高級ホテルもビジネスホテルも、ましてやグランドキッチンや調味料工業団地まで、もっと言えば王都郊外の梅農園やポンタ村のフリアン伯父さんところの温室や牧場まできっちり父さんの管轄となっている。
あ、梅農園の農地は委託農家さんのモノだし、フリアン伯父さん所のはもちろんフリアン伯父さんの財産だけれど、家畜や温室も含めてウチの資金も結構提供してるんだぁ。
だから、生産数の管理なんかはウチのゼットの計画書を元に父さんが管理してくれている。
フリアン伯父さんの所では徐々に家畜を殖やしていった結果、農地とは別に大きな牧場まで出来てしまい、あそこで採れる肉や野菜、卵、温室で採れる調味料、果物はウチのチェーン店だけでなく『熊のまどろみ亭』まで利用していて、今やポンタ村でも一・二を争う大きな農牧家となっている。
『熊のまどろみ亭』だって改築するのも手伝っているし、運営に関する相談にものっているみたい。
エイファが小さいので出来るだけ王都に居る様にしているみたいだけれど、私があっちこっちの店舗へ移動しなくても良い様に、私の分まで出張をしてくれているので、結局、家族4人が揃う事って結構少ないのが申し訳ない。
父さんも母さんも私が幼い時、私のためとは言え、一人でポンタ村へ預けたというのが引っ掛かってて、エイファをずっと自分たちの手元に置いておくのを私に対し申し訳ないと思っているらしいんだけれど、ポンタ村へ行ったからこそ大公様にも会えたし、お貴族様の愛人候補にされずに済んだのだから、1年間離れていたくらい問題ないよぉと言ってあげたい。
父さんがストレスの無い顔でリュウゼツランの手入れをしているの見て、申し訳なさが込み上げて来た。
本来なら自分のスキル全開で庭仕事をするのが父さんの幸せなのかもしれない。
そう言うと、「お前やレティシア、エイファと一緒に暮らせて、明日の飯の心配もいらない。確かに今の仕事には他人の生活を負うという負担はあるが、私は幸せだと思っているよ。何より娘が大公様の精鋭の一人になって戻って来て、一緒に暮らせる。親は子供よりも先に逝く。そうであったとしてもお前はこの先、食べる事寝る場所に困る事は無いだろうと思うだけで私もレティシアも神に感謝しているんだよ」といつもの様に穏やかな話し方で頭を撫でてくれる。
「まぁ、偶にこうやって庭仕事が出来たら気分転換になるし、お前のスキルで今まで見た事もない植物の世話もいっぱいさせてもらっているから、お前は気にしなくていいんだよ」
「でも、父さんは出張が多くなって、エイファや母さんと一緒の時間が少なくなってる・・・・」
「それでもお前をポンタ村へやらなくちゃいけなかった時と比べれば、何の憂いもなく家族で暮らせるんだ、ありがたいよ。兄さんたちの家族にも働き口を提供できるし、『熊のまどろみ亭』やフリアン義兄さんの所の将来も気にしなくて良くなった。親戚一同お前に感謝しているんだぞ。もちろんそれは私もだけれどね」
「父さん・・・・」
リュウゼツランの育ち具合を確認し、何時になったらテキーラを作れるかスキルで確かめた。
スキルで育成を促進できるけれど、父さんはリュウゼツランの飼育を楽しみにしている様なのでスキルは使わない。
テキーラが必要なら私のスキルでテキーラそのものを呼び出せばいいんだしね。
父さんのリュウゼツランの世話が終ったタイミングで、私たち親子は王都まで戻った。
さて、日々の仕事を片付けながらもあややクラブの同窓会をどうするかについて頭を悩ませていた。
アドリエンヌ様が参加できなければ、ヘルマン様だけが貴族組だし、それならいっそ最初から平民組だけでやるのもいいけど・・・・。
でも折角なら全員で集まりたいなぁ。
卒園して初の同窓会は。
私たちがもっと大人になったら参加できたりできなかったり、みんな夫々予定が入る様になるだろうしね。
これはやっぱり闇王様たちが帰国するまで待つのがいいかなぁ。
でも、留学って何年間の予定なんだろう?
もし長い期間として、途中休暇などで帰国するのだろうか?
この辺りは誰に聞けば良いのかな?
まずはフェリーペにでも相談してみようかなぁ。
もう終業時間外だからいいよね?と私専用のレターセットを取り出し、フェリーペに向けて同窓会の相談について手紙を書き始めた。
要は、全員で集まりたいけど、海外組は何時頃帰国するか知ってるって。
こういうのはランビットやボブよりもフェリーペの方が情報通に思えるんだよね。
何より、同窓会の話を持って行く事で、貴族家と繋がりが出来るので、商売にも繋がるでしょうし、フェリーペパパも反対はしないでしょう。
うん、ここはフェリーペに任せてしまおう。
私は会場とか料理を提供する係、フェリーペは参加者に連絡して日時と場所を決める係。
ナイスだね。
私の手間が減るね、これは。ふふふん。
そんな事を思って手紙を書き終え、ランビットにフェリーペへ手紙を届ける様お願いし、専用事務所のデスクの上を片付け、帰宅しようとしていたところにダンヒルさんが飛び込んで来た。
「お嬢様っ!」
「な、な、何?」
「大変です!カジノがぁぁ」




