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マノロ伯父さんは昼の営業が一段落ついた時、フリアン伯父さんの家に向かった。
今回、私は一緒ではない。
小さな子供を連れて行くと、移動だけで余分な時間が掛かるので、夜の営業が待っている状態でそんな時間は無い。
マノロ伯父さんは無事、フリアン伯父さんと話す事ができたらしく、牛乳の値段と、購入の頻度と量、支払い方法、牛乳の運搬方法、樽型の道具の入手方法などを決めて来た。
そして今日の分の牛乳を貰って帰って来た。
牛乳の値段はそんなに高くない様だけど、量が少ない。
乳の出る牛が一頭しかいないのが原因だ。
「伯父さん、他の農家で乳牛を飼っているところはないのでしょうか?」
夜の営業が始まる前に戻って来た伯父さんを前に、調理場の隅っこで夕食を食べながら作戦会議だ。
「あるにはあるが・・・・フリアンの所は親戚だから他の所より安く卸してくれるらしい。他の農家から仕入れると値段にバラつきが出るからなぁ。そうなるとフリアンの所にも通常の料金を支払わなくてはいけなくなると思うし・・・・」
「あんたぁ、それなら乳牛をもう一頭増やしてもらったら?」と、横から伯母さんの声が上がった。
「しかし・・・・」
「家で毎日決まった量を買うんだよね?そうだろう?」
「ああ」
「なら、新しく買う乳牛の値段、少しだけでも家が出せば頭数を増やしやすくなるし、フリアンだって乳牛を増やして本格的に牛乳を商品にするのは嫌じゃないと思うよ。その辺、あんたから話してみたらすんなり行くんじゃないの?」
結局、マノロ伯父さんは明日またフリアン伯父さんの所へ行って、乳牛の購入について話す事になった。
その話し合いの結果、樽型バターメーカーは、とりあえずフリアン伯父さんが伝手を頼って新しいのを取り寄せてくれることになったらしい。
それが手元に届くまでは、フリアン伯父さんの家のを使っても良いと言われ、今は家にある。
ぼちぼち入って来た夜営業のお客さんへの対応を始めた伯父さんに、「ねぇ、伯父さん。バター作りは結構辛いから、作ったらランディにほんの少しでいいからお小遣いあげる事は出来ませんか?」と耳打ちしたら「う~~ん」とどっちつかずの返事が返って来た。
結局、微々たるものだが、バターを作る度に小銭が貰える様になり、ランディからはいたく感謝された。
乳牛の件では、もう一頭購入することが決まり、その値段の半分を『熊のまどろみ亭』で出す代わりに、牛乳の値段が最初の予定より格段に安くなったらしい。
牛乳ってバターにするだけでなく、ヨーグルトやクリームシチューとかベシャメルソースにも出来るんだよね。
今、バターはジャガバターとして毎晩ステーキの付け合わせとして出していて大人気なのだが、他の店が真似をしようとしてもバターが無いのでウチの専売特許状態なのだ。
エールにも合うので、付け合わせだけでなく、単品としても良く捌けているらしい。
なのでランディは毎晩、寝る前にバターを作って小銭を稼いでいるのだ。
明日あたりは味付けに牛乳を使ったスープなんてのもいいかもしれない。
伯父さんに提案してみようかな?
ここの所、お店が繁盛していてご機嫌だし、他の店では出せない料理が増えて来たので、更に一品追加しても歓迎されこそすれ、反対はされないと思う。
早く料理魔法やスキルを思いっきり使える様になりたいけど、こうやって前世や前々世の記憶を頼って料理を作るのもとっても楽しいんだよね。
ポンタ村に来て良かった。




