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 ん?あれってランビットだよね?

 

 昨日に引き続き調味料工業団地で働いて、お腹が空いたのでお昼ご飯でも食べようかなとオフィスから出て食堂の方へ歩いて行っていたら、次に蔵を建てる予定地に置かれている建材の一つにランビットとノエミが並んで座って居る。


 何をしているのかな?

 そう思って立ち止まって見ていたら、ノエミが何か建材の上に置いている物を触っていて、しばらくすると、二人がそこからサンドイッチを取り出し食べ始めた。

 ノエミの顔が不味い物を口に入れた表情になり、ランビットの顔も鳩が豆鉄砲を食らった様な顔になり、それから急いで表情を出来るだけ普通になるよう努力している様子が見えた。

 その後、二人して大爆笑している。


 おおおお!これはもしや・・・・。

 ダンヒルさんのライバル登場か?

 ノエミ、モテてますなぁ~。ニヤリ。


 二人でランチするにしても食堂ではなく、恐らくあれはノエミの手作りのお弁当なのかな?それを誰もいない昼休憩の建設現場で二人だけでって、これはノエミの気持ちもランビットに向いているのかな?

 ノエミの方がランビットよりも少し年上で、どう見ても姉と弟なんだけどねぇ。

 

 ひひひひ。どうしてこう、他人の恋模様を見るって面白いんだろう?

 ランビットとダンヒルさん、どっちとくっつくのかな?


「お嬢様、どうされたんですか?」

 食堂の方から歩いて来たダンヒルさんが私の顔を見て、不思議そうにしている。

 恐らくノエミを好きであろうダンヒルさんに、ノエミとランビットのランデブーを見せちゃうのも悪いと思い私がアタフタとしていたら、「何かとっても下世話な事を考えていらっしゃいますか?変な顔になっていますよ」なんて言って来た。

 なんですとぉ?下世話な事?

 うん。正に他人の恋路という下世話な事を考えていたよ。

 そうか・・・・顔に出ていたのか。気を付けないとね。


 ダンヒルさんが二人に気付く前にそこから離れないとと思い、ダンヒルさんの顔が彼らの方を向かない様に位置取りしつつ、食堂の方へ足を進める。

「今から、ランチをと思って・・・・。ダンヒルさんはもう食べたの?」

「はい、さっき頂いて来ました。今日は、醤油蔵の蔵長とのランチ会議でしたので」

「ああ、今朝、そう言っていたわね」

「では、会議の内容はお嬢様のランチが終ってから報告しますね」と、ダンヒルさんがノエミたちの方へ移動しそうになったので、慌てて「あ、私の食事中に報告してもらえますか?折角ここで会ったので、時間の短縮になるし、ダンヒルさんは午後、ビジネスホテルの方にも顔を出す予定でしたよね?なら、食堂の方が事務所よりホテルに近いので、それこそ時間の短縮になりますよね。嫌でなければ食堂でお願いします」と、理由にもならない理由を挙げて食堂の方へ連れて行った。


 ふぅ~。

 大きなミッションを一つクリアした気分だよ。

 

 醤油蔵の蔵長は、人手の不足を訴えて来ており、今の所、本当に人手が足りていないのか、何かを工夫することでその問題が解決できるのか、人を入れるとするとどんな人を何人なんて話をしたそうだ。

 醤油はウチのホテルやレストランでしか使っていない調味料で、絶対に必要な調味料でもある。

 他の食堂や宿屋等、時にはお貴族様の館で働く調理長なんかも含めて、醤油を売って欲しいと言われているが、ウチと他の施設との差別化をするということで、一般に売り出す事は今のところ考えていない。


 だから、ウチの調味料工業団地で働く職人は少なければ少ない程、他に情報が流れ出ないのでありがたいのだが、そもそも人手不足で醤油そのものが造れなかったら本末転倒だ。


 ダンヒルさんが醤油造りの工程を書き出した紙を取り出し、「こことここの工程に人手が足りていないって言ってました」と説明してくれた。


 材料の大豆と大麦を蒸す工程、麹を作る工程、諸味作り、搾り、火入れ、瓶詰という大まかな工程の中で人手が必要だと言われたのが、搾り、そして瓶詰だった。

 瓶詰は他の蔵の職人で手が空いている人を使えるんじゃないかな?なんて思っていたら、そこへノエミが入って来て、真直ぐ私たちの所に来た。

 ダンヒルさんが心なしか優し気な笑顔で迎えている様に見える。

 まぁ、ちょっとだけ表情が優しくなっただけなので、気のせいと言われればそうなのかな?っていう程度なんだけどね。

 私達が座って居るテーブルにちょこんと頭を下げてすぐに座ったノエミは、テーブルの上に広げている書類を見て言った。


「お嬢様、蔵間での職人の融通はダメっすよ」

「え?」

 お前はエスパーかっ!?何で私の思っていた事が分かった?


「各蔵で使っている『菌』は別物なので、極力混ぜない様にしたいと言っていたのはお嬢様ですよ」と言われて思い出した。

 調味料工業団地を造る時、蔵と蔵の間は極力離して建てて欲しいと指示した時に、菌が混ざらない様にと説明してたんだっけ?

 現地の人たちにはまだ『菌』が発見されていないから、理解してもらうのが難しかったけれど、ノエミは若いからか、『菌』という目に見えない物があって、それが食品を発酵させるけれど、調味料や酒によって最適な『菌』が違うというところまではすんなり受け入れてくれた。


 素人の私では菌が混ざるとNGって事は分かっていても、どの菌とどの菌が隣りあわせだとダメとかっていうのは知らなかったからね。

 兎に角離して建ててってお願いしたんだっけ。

 後になって、『食材鑑定』を使って確認すれば良かったなぁと思ったけれど、もう既に殆どの蔵は製造を始めているのであとの祭りだ。


「ただ、瓶詰や箱詰めは、材料倉庫の様に全ての蔵の物を一か所に集めて作業をすれば人手は最小で済むかもしれないっすけどね」


 ノエミのこの意見を採用して、団地内に充填工程専門の建屋が出来たのは数日後の事だった。

 搾りに関しては工員を一人増やすだけで大丈夫そうだ。

 早速、ダンヒルさんに募集をかけてもらったよ。

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