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ヤンモリ駅のある場所は、ヤンデーノの領主がぎりぎり治めている領地内にある。
そして!ジャジャ~ン!
ヤンデーノの領主は駅付近の開発をさせて欲しいと大公様に申し出たんだ。
もちろん大公様直々に相手にする事は無く、すぐにその案件は父さんやダンテスさんが担当することに。
「ウチの町はモンテベルデーノの影に隠れて、今一つ繁栄していなかった町だったのに、フローリストガーデンホテルが出来てから、そして鉄道が通ってからは笑いが止まらないくらい儲けさせてもらっています。そんな大公様の精鋭様が手掛ける駅の開発です。発展しないはずがございません。その証拠に他の駅付近は町を成して来ていますよね」とちょび髭貴族のヤンデーノ領主がにっこり笑った。
「駅付近に町を形成して頂くとして、領主様は何をして下さるおつもりでしょうか?その計画に合わせて、私どもも事業展開を考えなければなりませんので、僭越とは存じますが前もってお教え頂けたら幸いです」
子供である私が前面に出るよりはと、貴族の対応に慣れているダンテスさんが前以ての内輪の打ち合わせ通りに話を進めてくれる。
「色々と考えておりますが、まずそちらはどんな物を望んでいらっしゃるのか、反対に私の方が伺いたいですなぁ。それを参考にして町を作って行きたいと思っとるんです」
「それではまず下水道の完備でしょうか。そして出来れば城壁で町を囲んで頂けたら住んでいる者は安心して暮らせますなぁ」
「下水道とはどういった物ですか?」
ヤンデーノ領主は上下水道を知らなかった。
それは驚くに当たらない。
この世界ではまだ無い技術か、あったとしても限られた場所のみで発展しているのだと思う。
私が描いたクロッキーや図を見せながらダンテスさんがヤンデーノ領主に説明をしてくれる。
図は町の外に下水処理場を描いてあり、街中には複数の建物と処理場を繋ぐ蓋付水路がある。
上水の方は駅付近の比較的人が多い所では井戸水を溜めて噴水の原理を使って各区画に小さな噴水を作り、郊外では井戸を掘り手押しポンプを設置する案だ。
まぁ、金持ちは魔石で水を出す様にするから、これらは平民やもっと貧しい人たち向けの事業となる。
もちろん噴水もポンプも無料じゃないよ。
スイカズラ工房を通してもらうし、それによって私個人にはマージンが入る仕組みだ。
だって、スイカズラ工房に噴水を教えたのは私だし、売れれば売れるだけ私にマージンが入る契約を随分前に結んでいるからね。
手押しポンプの方は高級ホテルを建てる時に教えたので、まだ普及はしていないけれど売れればマージンが入るのだ。
下水処理場は所謂ラグーンという処理方法だ。
ぶっちゃけ町ハズレの離れた所で池を掘ってそこに水を流し入れるだけ。
数か月経って微生物が水の汚れを分解し、汚れが池底に沈んだら、池を空にして汚泥を取り除くのだ。
日本ではあまり無い処理法だけれど土地のあまっている地球の他の国では一般的な手法なのだ。
ゴミもできたらコンポスト処理したいなぁ。
プラスチックなんて私がスキルで呼び出した物くらいしかないので、有機物のゴミが多いのだ。
仕事にあぶれた人たちがゴミ漁りをしていたりするのだが、夢の島で散々ゴミを触ったまま居住区に戻り、風呂にも入らず暮らす人がいると、衛生的にちょっとねぇ。
と言うことで領主様には井戸や下水道とゴミ収集とコンポスト処理場の建設と運営、そして街を囲う城壁や陸路でヤンモリ駅とモリスン村やヤンデーノと繋げる陸路を作ってもらう事になった。
ただ、モリスン村側は別の領主の領地なので、ヤンデーノ領主からそっちの領主に話をしてもらう事になったので、もしかしたらヤンモリ駅からモリスン村までの陸路は出来ないかもしれない・・・・。
そんな風に不安になった時、ヤンデーノの領主様は「がははははは」と大声で笑って、「ヤンモリ駅を出入りしている商人や貴族の数を見たら、アイツも道を建設するのに否は無いと思うぞ」と自信ありげだった。
アイツって恐らくモリスン村がある辺りの領主の事だろう。
モリスン村の領主はヤンデーノ領主の話に直ぐにノッて来た。
陸路の問題はあっという間に解決。
もちろん工事に時間はかかるけれど、賦役として閑散期に農民に工事を課すそうだ。
だから元手があまり掛からないと喜んでいたそうだ。
井戸や下水道やゴミ処理に関してはこのヤンモリ町がオルダル国の最先端を行く事になる。
臭くない町。
清潔な町。
上水がすぐに手に入る暮らしやすい町。
そうなると商人が他の駅よりも更に集まって来て、とうとうヤンモリ町はヤンデーノの領主が抱える領地内で第二の都市に変貌してしまった。
それを見て、他の駅のある場所も各領主が同じ様に上下水道やゴミ処理システム、城壁や陸路等を進んで整えてくれる様になった。
領地によってはそれまでの領都を放置し、駅町の方に移し、役所や領主の館などを駅町に作る所まで出て来た。
そして駅のある町は例外無く大きな町に発展して行った。
もう一つ面白い現象が駅町には見られた。
それは何かと言うと薬局だ。
高級ホテルで働いている薬師たちの弟子や親族が駅町で薬局を開いているのだ。
鉄道を利用して高級ホテルの庭で育てた薬草をホテルの薬師たちが卸しているらしい。
薬師たちも逞しいなぁ。
自分たちでちゃんとサイドビジネスを展開しているんだね。
これにより病気になっても医者はいなくても薬師は必ずいる町となった駅町。
益々発展していきそうだ。