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「アウレリアさまぁ。オラ、こんなに美味しいチョウミリョウを味わった事がないっす」
そう言ってノエミが差し出したのはカレー粉だ。
そう、私のスキルで呼び出したり、ポンタ村のフリアン伯父さんの所の温室で育ててもらっているスパイスを使って作り置いた物だ。
「辛ぇけど、上手いっす。味に奥行き?があるっす」
「そう。醤油や味噌もウチでは良く使うのだけれど、カレー粉もメインの料理に使えるし、肉は肉でも内臓系の肉の臭みを消すのに使えるのよ」
「そうすか。それってこの前のキドニーパイとか言う奴っすかねぇ」
「ええ、先日の賄いにはキドニーパイがあったわね。ノエミさんの言う通りよ。それはそうと・・・・」
「なんすか?」
「あなたの勤務地はナイゴン駅の調味料工業団地になります」
「おおおお!鉄道の駅っすねぇ」
「そうです」
「今流行りの鉄道に、オラ乗れるだか?」
「はい。今のナイトル村での研修が終わって、工業団地の建物の工事が全て終わったら、鉄道で移動してもらいます。後、これは駅で働く従業員全員に対してのサービスですが、年に2回程、無料で鉄道に乗れます。もちろん前もって予約は必要ですよ。今回は、お引越しなので、この2回の中には数えられませんが、年に一回実家等に帰る時に使えるサービスです」
「ええええ!年に2回も乗れるんっすか?」
「2回と言っても行きと帰りで2回ですので、旅行そのものは年一回分は無料ということですね」
「おおお!ありがてぇっす。めちゃんこ嬉しいっす」
「で、ノエミさん。研修ですが、特定の分野をもっと学びたいとか、そういう要望はありますか?」
「オラ、今の仕事に大満足っす。調理場の先輩たちも親切に色々教えてくれるっす。知りたい事も聞けば全部教えてくれるっす。ここの皆はとても優しいっすね。ランビットさんやダンヒルさんも時々顔を見せに来てくれて、大丈夫かって聞いてくれるっす」
「まぁ、そうだったのね」
「寮も綺麗だし、従業員用の賄いも美味しいし、先輩たちは親切だし、後は怖いのでお貴族様には近づかねぇ様にしてるっす。オラ、今のまんまでめちゃんこ満足っす」
「分かったわ。では、ナイゴン駅の工事が終ったら声を掛けますので、お店屋さんが近くにある今の内に必要な物は買い入れておくと良いですよ。ナイゴン駅には大きな商店は無いですからね」
「あい!」
ノエミが調理場の裏で玉ねぎの下処理をしていたのをそのまんまにして、自分専用のオフィスへ。
彼女の癖の強い方言も可成り修正されて来たなぁとか思いながらズンズン歩く。
まぁ、語尾の「っす」はまだ健在だが、その他の訛りは可成り取れて来たみたい。
短時間の研修で色んな先輩とのやり取りで、自然と話し方が修正されたのだろう。
ここまで劇的に話し方が修正できるのかとちょっと驚きながら、話し方教室みたいなのも研修の中に入れると、今は裏方しか出来ない従業員も表舞台で使えるかも?なんて自分の仕事が増える様な事を考えていて、途中でその事に気付いて頭を横に振った。
従業員の事も色々考えないとだけれど、そろそろナイゴン駅のビジネスホテルについて色々纏めて動く時期になってきたので余計な仕事は増やさないに越した事は無い。
調味料工業団地の蔵は外側だけ出来ている物も多いが、原材料の搬入があるまでは急がなくて良いので、その分、稼働するであろう蔵などで働く人の寮や、ビジネスホテルについて考えよう・・・・。
料理は他の一般的な宿や食堂と同じでスープ+αなメニューにする心算だ。
料理人もそんなに凄腕でなくて良いと思う。
パンなんかは、フローリストガーデンホテルのパンを鉄道で運んでもらえば良いし、メインはステーキかグラタンの様なオーブンに入れさえすれば直ぐに出来る様な簡単な料理にしよう。
グラタンとかはグランドキッチンにして、鉄道で冷凍した物を各ビジネスホテルへ運ぶ事だって視野に入れられるよね?
部屋はベッドと机と椅子、それにシャワーで十分だ。
つまり贅沢に湯船を置く必要は無いだろう。
こっちの人は毎日シャワーを浴びるという風習は無いしね、お風呂なんて一部のお貴族様だけだよ。
人手はフロントと調理師と給仕数名、清掃係と洗濯係くらいで良いと思う。
もちろん食堂は付けるけど定食一種類だけにして、それ以外の飲み物や簡単な食べ物は館内のコンビニで買ってもらえば良いしね。
それこそカードルームやカジノ、会員制クラブは作らないし、ただただ寝て食べるだけの施設にする心算。
お貴族様だからと言って特別に何かをするという感じではない。
どうせお貴族様もご自身でフロントには来ないだろう。
使用人に行かせ、部屋へ直行し、お腹が空いたら食堂で食べる。
チェックアウトの時の清算も使用人がするだろうし、荷物を部屋へ運ぶのもお客ん所の使用人がする様にすればいいだろう。
ベルボーイは置かない心算。
そう考えると必要な設備は限られているので、すぐに営業を開始できそうだよね。
リネンとか家具も飛び切り贅沢な物ではなく、下級貴族が使う様な物で十分だ。
ベッドを汚されない様に、シーツは絶対に使ってもらいたいけど、高級ホテルの様にチェックアウト時にスタッフが部屋へ行って、盗まれた物が無いかどうか確認する手間なんて、ビジネスホテルの従業員の数では難しい。
でもそれは、チェックイン時にシーツの保証金を払ってもらって、チェックアウトの時にシーツをフロントまで持って降りてくれれば保証金は返却でいいもんね。
ホテルチェーンについて考えていた時よりもずっと肩の荷が軽いよ。
へへへへ。
歯ブラシやスリッパ、ガウンやタオルなんかは欲しい人はコンビニで買ってもらう方向で行こう!
まるっきり日本のビジネスホテルを真似るなら、フロント前に各自で必要な物を部屋へ持って行ってもらう方法もありなのかもしれないけれど、この世界ではご自由にどうぞイコール一瞬で全部持ってかれると思った方が良いとダンテスさんに言われ、購入してもらう方に舵を切ったんんだ。
その方が販売業務をフェリーペん所のコンビニに任せて、家としてはマージンを取ればしっかり儲けはあるだろうしね。
元々こちらの風習では自分たちでシーツとかタオルとかは持って移動するからねぇ、うっかり持って来るのを忘れた場合はスリッパとかタオルは欲しければコンビニで買って貰えばいいし、ミニマムなサービスだけって楽ちん!
高級品が良い人は「お金出せ」でいいもんね。
後、馬車の客は考えずに全員鉄道の客として、馬車置き場や厩舎はいらないから楽だぁ。
ナイゴン駅の従業員寮は調味料産業団地の従業員と共通で良いしね。
これで上手く行けば、他の駅にも同様な物を造れば良いだけだ。
まぁ、他の所はビジネスホテルだけだから従業員の数が少なくて済むので、従業員寮を造るより、客室と同じ物を多めに造ればいいしね。
家具と食器と調理器具、まぁ、オーブンはいるよね。
リネンと領収書なんかのための紙類くらいかなぁ。
マジで人手も物も少なく済みそうでめっちゃ嬉しいよぉ。