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「で、料理が好きなのでウチのレストランで働きたいと言うことですね?」

「あい。オラ、料理は好きだっす。ここのレストランで出してるよぉな料理は作ったこたぁねえっす。でも、オラ、作ってみてぇだす」

「普段はどんな料理を作ってるんですか?」

「えっと・・・・スープっす。オラん家で採れた野菜たぁぁっぷりのスープで、肉が入ってなくても旨いっす」

「そうですか。ウチで出している料理は食べた事はありますか?」

「ねぇっす。ここの宿の料理は綺麗だし美味しそうだどもたけぇから、オラたちの口には入らねぇっす」


 私はダンヒルに頷いてウチのレストランで出している料理や賄いの切れ端をいくつか持って来てもらった。

 それをノエミというこの田舎丸出しのそばかすだらけの15歳の女の子の前にあるコーヒーテーブルに出してもらった。


「ふぇぇぇ。綺麗っすなぁ。めちゃんこ綺麗っすよ」

「それはウチの店でお客様に出している料理とスタッフが食べる賄いの切れ端です。ウチの料理を食べた事が無いとのことなので、一口分づつしかありませんが、どうぞ食べてみてください」


「ふへぇぇ。オラが食べていいんだかぁ?こんな上等な食べもん。ふひゃぁぁ」

 私が頷くとノエミが手づかみでまず塩釜焼きの肉を薄く切った物を口に入れた。

 それまでの忙しなさとは反対に一度食べ物を口に入れると黙って咀嚼し始め、そして味を確かめる様にしながら飲み込んだ。


「塩だけでねぇ。何かいろんな物が肉に塗ってあるっす。何にしてもうんめぇぇ!」

 ノエミはもしゃもしゃ頭のソバカスだらけの女の子。

 服もその辺の農民が野良作業をする服を綺麗に洗った物を着て来たって感じだ。

 靴も履いてない。

 でも手の爪を見ると汚れていないので、面接に来る前にちゃんと何度もタワシなどで爪の間を洗って来たのだろう。

 私からしたらその衛生観念だけで採用に値する。

 だって、この世界、貧しい家の子は衛生観念なんかない。

 どうしてノエミは爪の間を綺麗にしようと思ったのか聞いてみた。


「オラん村からもここへ働きに来てる人いっぺぇいるっす。で、毎日風呂さ入って清潔ってもんにならんといけねぇって教えて貰ったっす。服は家が貧しいので新しいもんは買えねぇっすが、体や顔は綺麗に洗えるのでしっかり洗って来たっす」

「そうですか。相手が何を望んでいるのが前もって調べる事ができる能力というのはとても大切です。分かりました、ノエミさん。あなたをウチで雇いましょう」

「やったーーー!」

 ノエミはソファの上で喜び過ぎて何度も跳ねた。

 そしてトレイに載せてある他の料理の切れ端も丁寧に味わいながら食べた。


「ノエミさん、今食べた料理の中でどれが一番好きでしたか?」

「オラ、ここにあった肉とここら辺にあった魚と野菜の酸っぱいやつと、ここら辺にあった甘いヤツが特に好きっす。でも、一番気になったのは味付けが塩だけじゃないことっす。家の村でも塩に良い香りのする草を入れて味付けしたりするっす。でも、ここの料理はその草やそれ以外の物がいっぺぇ入ってるっす。それが何なのか一番気になるっす」

「そうですか・・・・」


 今、私は鉄道の各駅前にビジネスホテルを建てる事業に着手する予定で、まずは先にフローリストガーデンホテルチェーンの営業を安定させ、それからビジネスホテルを展開しようと必死だったのだ。

 でも、同時に味噌や醤油を作る蔵も作りたいと思っていた。

 このノエミは貴族を相手にする客商売には向いてなさそうだけれど、色んなハーブソルトを作ってもらったり、味噌やお酢、みりんや醤油なんかを作ってもらうのもありかもれしないと思い付いた。

 私が付きっ切りにならなくても進められるのなら、それに越したことはない。


「ノエミさん。もし、私があなたにホテル以外でその料理の味付けに関する仕事をと言ったらどうしますか?」

 ノエミはキョトンとした顔でこちらをじっと見つめていたが、ハッとした様子で、「あい、オラは味付けに興味があるっす。だから調理場の仕事も興味はあるっすが、塩以外の味付けについての仕事ならめちゃんこ興味があるっす」と答えた。


「では、ホテル以外でも味付けに関する仕事ならOKなんですね」

「あい」


 そこでノエミに聞くと、ナイトル村とナイゴン駅の中間あたりの村に住んでいるらしいが、住込みもOKで、ナイゴン駅付近につくる蔵で調味料を作って欲しいがどうか?と聞いた所、二つ返事で受けてくれた。


 蔵などの調味料製造施設の管理はもちろんもっと大人に任せるつもりだけれど、味の管理は彼女に任せたい。

 麹などは私のスキルで呼び出した醤油や味噌から分離させるつもりなので、万が一ノエミや雇い入れた人から技術が外へ漏れても簡単には真似できない様にする心算だ。

 問題は私のスキルでそこまで出来るかなのだが、元々最初の種とする醤油や味噌は簡単に呼び出せるので大丈夫だと思いたい。


 ノエミはスキップしそうな勢いでナイトル店の私の事務室から出て行った。

 ダンヒルと相談をして、ナイゴン駅付近はまだ土地が多目に残っているので、早めに土地を買い、高い塀で囲った調味料工業団地を造ってもらう事にした。

 もちろん職人となる男手や、人や物の出入りを監視するための警備員、そしてそれを助ける犬も手配してもらう事になる。

 食品工場が並ぶのだから日本だと犬なんてって思われる所だが、この世界では動物も普通に家の中に入れたりしているので問題は無い。

 無いのだが、食あたりなど出したくないので、犬には建物の中へ入らない様に躾けをしてもらう予定だ。


 後、ノエミには最初ナイトル村店の従業員用の食堂で修行をしてもらい、どんな調味料をどの様に使っているのか簡単に体験し知ってもらう予定だ。

 その修行が終る頃には醤油や味噌の蔵も外側は出来上がるだろう。

 むむむ、こうなったらお酒も造っちゃうか?

 麦の産地なので丁度良いよね。

 鉄道があるから、トウモロコシや果実なんかも運び込んで、一か所で作れば警備員の数が最小限で済むし良い事だらけなのではないかな?

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― 新着の感想 ―
遂に、味噌蔵、醤油蔵
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