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ゴンスンデ店の主なスタッフと父さん、ダンテスさん、ダンヒルさん、ガルフィールドさんと一緒にウチのホテルの真ん前に建てられた駅のプラットフォームに勢ぞろいだ。
そう、王都-ゴンスンデ間の鉄道が無事開通し、私たち鉄道関係者ではない初の乗客がこのゴンスンデ駅にそろそろ到着する予定なのだ。
日本と違って分単位で物事が動く訳では無いので、この世界の時間の区切り、つまり午前中、昼、午後、夕方、夜って言う大雑把な時間割で発着を管理する事になる。
昼前には着くと言われ、ケヴィンさんが計算してくれた予定に従って、こうやってプラットフォームで待っているのだ。
体感で30分くらい待ったところ、馬に引かれた馬車が2台見えて来た。
あの最初の馬車に大公様が乗っているはず。
この前、疲労が溜まっている様に見えたので、この長距離移動が堪えないかどうか心配なんだけれど、やはりホテルのオープンセレモニーには参加したいと大公様が強く要望されたとのことで今回もゴンスンデまで来て下さっているのだ。
精一杯おもてなししないとだね。
プラットフォームに立っているスタッフは黙ったまま頬を染めて鉄道馬車が到着するのを固唾を呑んで待っているけれど、駅を遠巻きに囲んでいる一般人やお貴族様たちは歓声を上げて視線は馬車に固定しているという一種異様な雰囲気だ。
ゴンスンデは大きな街で、新しい物大好きな人々が多く住んでいるので、鉄道という得体の知れない乗り物が今日到着するぞという事でいつの間にか大勢が集まり、こちらが開催したわけでもないのに大イベントの様になっている。
最初の馬車がプラットフォーム横にちゃんと停止したら、駅のスタッフが馬車のドアを開ける。
中から大公様が降りてこられると、歓声が更に大きくなった。
プラットフォームの端に用意していた4重奏の楽団が威勢の良い曲を演奏してくれる。
「鉄道はほとんど揺れず、大変快適な旅であったぞ」とのお言葉があり、ガルフィールドさんの顔がぱぁっと明るくなった。
大公様が父さんと、続いてガルフィールドさんと握手され、そのまま駅を出て直ぐのホテルへ徒歩で移動された。
私たちを取り囲む群衆がこちらへなだれ込んで来ない様に、簡易な移動式の柵を設置しているし、ウチのホテルの警備員やポーター、ドアマンなどを警備に当たらせている。
警備員と言えば聞こえが良いが、半分はホテルの従業員である警備員だけれど、残り半分は急遽ギルド経由で雇った冒険者だ。
これが終ったら契約終了となる冒険者の分まで制服は用意できないので、腕章で対応してもらった。
その甲斐あってか、問題なくホテルの中まで入れた。
大公様と一緒に来られた招待客でもあるお貴族様については、ホテルの支配人やコンシェルジュのおじさんに駅からホテルまでの対応を任せている。
「ほぉ、これがゴンスンデのホテルか・・・・。1階は商店ばかりなのか?」
「はい、左様でございます。大公様、この中には所謂高級店が入店しておりまして、洋装店、カバン店、宝飾店、本屋、お土産屋、コンビニ等が揃っております」
ここはもちろん私がご案内しているよ。
大公様へはいつも私が直接対応してるもんね。
「ここはガラスが多用されているから明るいのぉ」
「ありがとうございます。夜もライトをたくさん配置して、明るい店舗になる様に心掛けました」
「これらの店は元々王都やゴンスンデにあった店と聞いておるが、全体的に纏まった雰囲気になっておるのぉ」
壁は明るいボルドー色に統一されて、店名は建物内の通路に面した大型1枚ガラスに白い塗料でレタリングでとお願いしているので、フォントや文字の大きさはまちまちなのだけれど、全体的に一体感がある造りとなっている。
それを大公様に説明し、最後に「こちらのお店でお買い物をされて手提げ袋を所望されると、どの店舗でもウチのホテルで用意した紙袋を使用してもらう様にしています。これらの商店の本店で購入したのではなく、ウチのホテル内のデパートで購入したと言う事をブランド化した形になります」と付け加えた。
「相変わらず・・・・お前は年に似合わず大人でも思い付かない様な商法を考え付くところが素晴らしいなぁ」と大公様からお褒めの言葉を賜りました。
この世界では高級店で買い物をしても手提げ袋なんてなくて、お客様が用意した風呂敷みたいな布で包むか、木箱や紙の箱に入れて運ぶのが普通だ。
つまり店側は何も用意をせず、商品だけを受け渡しするだけなのだ。
そこへ持って来て有料だけれど、ウチのホテルの紋章と名前の入ったお洒落な紙袋に品物を入れてお客様に手渡してもらう事になる。
ウチの手提げ袋を持って歩いていれば、高級な品を買った証になるので流行りそうだとダンテスさんからもお墨付きをもらっている案なんだよね。
ゴンスンデ店のレセプションは2階にあるので、1階のデパート階の奥から階段で上の階へ。
足腰の弱い人の為に、階段のすぐ横に手すり付きのスロープもある。
実は商店からの買い物をホテル階に運んだり、ホテルが使う食材の搬入の時に、このスロープが大活躍する予定だ。
大公様の同行執事が宿泊の手続きをしている間、ロビーでお茶を楽しんで頂き、そのまま上の階にあるスイートルームへ。
部屋の内装は他のホテルと家具や絨毯、ファブリックが統一されているので目新しさは無いけれど、同時にいつもの豪華さは担保されている。
「では、大公様。こちらのお部屋でお寛ぎ下さい。直ぐにお昼をご用意致しますが、お部屋とレストラン、どちらにご用意した方がよろしいですか?」
「少し疲れたので、部屋で摂れるなら、部屋にしようかのぅ」
「畏まりました。1階のデパート以外にも、2階に会員制のクラブがございます。今度オープン致します王都店の方にもっと大きな規模のクラブが作られますが、ゴンスンデにも小規模な物を作りましたので、よろしければお好きな時にお楽しみ下さい」
簡単なホテルの案内をして、体を休めていただくために私も含めてスタッフは全員スイートを退室した。
大公様の顔色が少し青かった様に見えたので、少しでも早く休んで欲しかったのだ。




