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「アウレリア、明日、父さんが帰って来るわよ」
母さんが冒険者の運んで来た手紙を見て、そう教えてくれたのが昨日の事だった。
だから、父さんがウチへ戻ってくるのは今日なのだ。
ふんふふ~ん♪
家族が揃うと嬉しい。
例えよちよち歩きとハイハイを交ぜながら家の床を掃除する様に移動を始めたエイファがいつの間にか私の作業部屋に入って来て、大事な書類をくしゃくしゃにしても、久し振りに顔を会わせる父さんと母さんがラブラブで二人だけの世界に入っていようと・・・・。
夕食は3階で家族だけで摂った。
内容は賄いと同じだけどね。
あ、エイファの離乳食は私が作ったよん。
サツマイモで作ったからまだはっきり味が分からなくても美味しいよって言いながら食べさせてみた。
最初の頃、私がエイファに食事をさせるのを見て母さんはハラハラしていた様だけれど、前世で従姉の子どもに離乳食を食べさせた経験が活きたのか、しばらくすると母さんの目の届く所でならと条件付きで許してもらえた。
その夕食の席で父さんが面白おかしくホテルの話をしていたところ、「スティーブ義兄さんたちの様子はどうでした?」と母さんはスティーブ一家の事を心配していたのか、結構根ほり葉ほりあちらでの生活について質問していた。
私がナイトル村店を出る時はスティーブ伯父さんとフェイ伯母さんには挨拶して来たんだけれど、パンクの姿は見えなかったので、そのままホテルを出たのだ。
でも、父さんの話によると、パンクは王都のレストランでクロークをしていただけあり、常連客がウチのホテルに来ていたら顔と名前が頭の中で繋がるらしく、支配人さんに重宝され、支配人研修を請けながらレセプションで仕事を始めたらしい。
結果、顧客帳を作ったりする裏方の仕事も任されるなど、大いに役立ってくれているみたい。
まだ若いので支配人になるには最低でも後7~8年はレセプションとかベルボーイをしながらホテルの仕事に慣れてもらう予定になっている。
現ナイトル村の支配人も貴族の子息だった人で、50代後半の優しそうな雰囲気のオジサン、トリスタンさんだ。
で、元々とある伯爵家所縁の人物なので、家を継ぐ事が出来なくても貴族教育はみっちり受けているし、平民に開放される前の学園も卒園しているとのこと。
ただ、一旦は王城の文官の仕事に就けたのだけれど、上司が実家と敵対する派閥の人だったらしく、何か仕掛けられ王城を離れざるを得なかったらしい。
その後、仕事らしい仕事を得る事もできなかったので、この歳になるまで独身だったんだと。
う~ん貴族の世界も中々にハードやな。
で、パンクは見所があると張り切って育ててくれそうなのだけれど、パンクが支配人になった暁には、トリスタンさんには全てのホテルの宿泊部門の長になり、各ホテルの支配人を纏めてもらう心算である事は伝えているので、現職を手放す事が怖くてパンクに必要な事を教えないという事態にはならないと思う。
で、スティーブ一家は従業員寮の一番上の階に家族で住める様に大きな夫婦用の寝室とパンク用の寝室、それに繋がる彼ら専用の居間と簡単な台所、風呂やトイレが他人の目に触れる事が無い様に設えてある。
部屋も他の使用人に比べれば広いのだ。
「兄さんたちは自然に囲まれて生活できるので嬉しいって言ってたのと、早くもパンクがトリスタンさんに評価されているのが誇らしいって言ってたよ」
「じゃあ、義兄さんたちは、あちらで満足して生活されているのね」
「ああ。あのパンクがちゃんとお客様に丁寧に説明しているのを横から見てたんだけど、本人もかなりヤル気になっていて、ここでは見せなかった積極性を持って働いていたよ」
「ああ、なら良かった。ちょっと心配していたの」
「レティシア、いつもウチの実家の事まで心配してくれて、ありがとうな」
母さんはちょっと顔を赤くして、それを誤魔化すかの様に少しだけ早口で「で、『熊のまどろみ亭』の方はどうですか?」と今度はポンタ村の事を質問しはじめた。
先日私が鉄道の駅について話した後、王都へ帰りがてら父さんが『熊のまどろみ亭』に泊まって、話を詰めて来てくれたはずなのだ。
どちらの伯父さんの家も私にとっては大事な事なので、ナイトル村につづいてポンタ村についても聞き耳をダンボの様にして聞いていた。
「隣家の土地を無事買えたので、今は元あった建物の取り壊しをしてもらってるんだ。それが終ったら駅とレストランの増築を始める予定だ。で、元からあった建物は2階から上はそのままにして、1階は増築する部分とドッキングさせるから、すごく広いレストランになるらしい。今から村人を2人雇って給仕を手伝わさせてたよ」
「ランディとフェリシアの結婚はいつになるんですか?」
「駅が出来る前の方が良いけど、二人ともまだ若いからなぁ。レストランの増築が終る前ならウチで披露宴をしてくれてもいいんだけれど、増築後ならあっちも仕事が忙しくなるだろうから王都まで出てくるのは難しいだろうなぁ。何よりお前ん所のセレスティーナ婆さんが足が悪いから、やっぱりポンタ村で式を挙げる事になるだろうなぁ」
「ねぇ、あなた・・・・」
「分かってるよ。私たちもエイファが旅に耐えられる様になっていたら家族でお祝いに行こう。ウチの爺さんやそっちの婆さんにもエイファを見せたいからなぁ」
母さんは嬉しそうに頷いている。
「父さん、その頃までに鉄道が開通していたらポンタ村まで鉄道で移動したら、エイファの負担も少なくて済むよ」
「おおお!そうだな。前にも言ったかもしれないが、鉄道で移動すると揺れが殆ど無いし、あっと言う間に目的地に着くんだよ」
「そう言われてましたねぇ。私も鉄道に乗るのがとても楽しみです。アウレリアが発案した交通手段ですしね」
「ああ。私もアウレリアの発想とか実行力には舌を巻いていて、同時にとても誇らしく思っているんだ」
「ええ、分かりますわ。私はこのレストランしか知らないけれど、とても良く考えて造られている上に、綺麗ですものね。私たちの娘なのに、どうやってこういう物を考え付けるのかとっても不思議で、そして誇らしいです」
本人を前に遠慮なく娘を褒める両親を前に、私はあわわわわと焦る事しか出来なかったよ。




