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王都のホテルや鉄道の工事は自分の家からちょくちょく進捗状況を見に行く事ができたので、大型建築物の工事がどの様にこの世界で進められるのか分かる所が面白かった。
排水システムの工事はあるのに、給水のシステムは無いのだ。
地球だと考えられないよね?
例えば上下水道のある建物に住んでいる場合、水道料の中には下水処理料も含まれており、下水の方の料金は上水の消費水量を元に計算されているのだ。
つまり、蛇口を捻って使ったお水はダイレクトに排水溝に流れ込む事は無いという考え方だ。
何%は飲料水や料理の一部としてお腹の中に入り、そのお腹の中を排泄するのは自宅の場合もあれば学校や職場、行き帰りの駅、友達と約束して一緒に遊んだショッピングセンターや観光地、映画館の場合もある。
なので上水の消費量イコール下水の排水量とはならないが、その違いは微々たるものだからとこの計算方法が一般的だ。
でも、この世界では上水道が無く、貧しい家庭では井戸水を使い、ある程度余裕のある家庭では魔石を使って蛇口の所で水が作られ流れるのだ。
排水は下水道がある訳じゃなく、建物や地区の一か所に集められスライムで物理処理をするか、魔石を使って浄化するらしいのだが、魔石での浄化は高くつくのでよっぽどの事情がなければスライムで処理するらしい。
ただ、スライムの数もそんなに多くないのが問題点らしく、老衰などでスライムが亡くなったりしたら、新しく活きの良いスライムを生きたまま捕まえて来るのは大変とのことで、冒険者たちの良い収入手段となっているらしい。
私は村に建設されているホテルの下水は敷地からとても離れた所でオキシデーションディッチ、つまり人工ラグーンの中に、排水が流入するところに羽根車を作り付け、流入水がある度にその水が羽に当たり、羽が廻る事で空気中の酸素を水中に供給させる仕組みを作った。
これは前世の記憶を元に造ったのだ。
例の一度だけ浮気をしたらしい元夫の仕事の関係で偶々知っていた技術なのだ。
この技術は特別複雑な装置を必要しない事なのだが、好気性の微生物が濾材と言われる水中に沈められた物に膜を作って汚水を浄化するという工夫なのだ。
そしてそのディッチ、つまり池の底にたまる汚泥と言われる泥を肥料化して、庭園で使うのだ。
所謂コンポスト処理だね。
コンポスト処理は多くの場合嫌気性の処理でめちゃくちゃ臭いのだが、ここは異世界、しかも日本と違って土地は余っているので好気性の微生物でのんびり半年とか1年とか掛けてゆっくり堆肥化させていくつもり。
好気性の微生物なら時間はかかるが臭いはあまり臭くないのだ。
でも全く無臭というわけではないので、汚泥の処理は更に人里離れた所でする予定だ。
そうして得る事が出来る肥料は、肥料とか土壌改良という発想のないこの世界で画期的な技術になると信じている。
でも、これは悪臭がしてもクレームを出す人のいない田舎だから出来る事で、ゴンスンデや王都、ヤンデーノなどの都会では無理だ。
だから、都会型ホテルではスライムが排水を処理をしてくれるのだが、シャンプーとかの排水が混じっても大丈夫かな?と心配していた所、ダンヒルさん曰く、地球で言う所の工業排水の一部までちゃんと分解してくれるので、毒物が混入しているのでない限り大丈夫だとのこと。
スライム優秀!
風呂が各スイートルームに付いているので、宿泊客が居れば居る程、排水の量は増える訳で、スライムの適正数を割り出すのがウチの様な施設では難しいらしい。
ポンタ村のトイレを思い返すと、あの辺は汲み取りだった。
配管で排水を集めて一か所で処理をするというのは珍しいらしい。
たくさんの人が出入りする施設なので、衛生面は厳しいくらい気を付けても気を付け過ぎにはならないだろう。
それと、王都にまとまった日数居られるので、孤児院の近くのお医者さんの所にもちょくちょく顔を出している。
この忙しい中、何故お医者さんの所へ頻繁に行くのか?
それは以前講習を受けた緊急対応の講義内容をまとめた緊急対応ガイドブックを纏めているから、先生に内容をチェックしてもらっているのだ。
例えば『体調不良』のインデックスがあり、そのページを開くと、『部位』とあり、簡単な人体図に体の部位名か書き込んであり、『頭部』『胸部』『腹部』『手』・・・・と言った具合にお客様が不調を訴えている部位を選んで新しいページを開く様になっている。
『頭部』を開くと『怪我』と『疾病』とあり、『疾病』を開くと『頭痛』の欄があり、『慢性』『急性』と別れていて、頭部のどの部分がどの様に痛むかをリストの中から探し当てる様になっており、一旦疑わしい病名に行き当たったら、処方した方が良い薬、絶対に処方してはいけない薬、同様に冷やすや温めるなどの処置についても書き込んであり、更にその下には似た病気一覧が書いてあるのだ。
もちろん全ての病気が載っているわけではないので、大まかな情報である事はガイドブックの1枚目に書いてある。
そして患者が「腹が痛い」と言っても、実際には別の部位が原因の可能性がある事も。
要はレセプションで働いている素人でもある程度の症状であれば、どの様な対応をしたら良いのか書かれている様にしたのだが、中身が間違っていたら目も当てられないので、新しい情報が増える度、そして指摘されて訂正する度、先生に確認してもらっているのだ。
ちなみにこの緊急対応ガイドは地揺れの時や、大雨、火事など災害の対応も含まれている。
我ながら地球の知識も交ぜながらすごく良いマニュアルを作る事が出来たと思っている。
医者先生も、「これはすごいガイドだ。医師や薬師、そして大きな商家やたくさんの使用人の居る貴族家や役場などにも配布したいくらいだ」と褒めてもらっている。
印刷技術の無い世界なので、最終的に先生のお墨付きを貰えたらアルバイトの人を雇ってコピー本をホテルとレストランに置く分を作ってもらう予定だ。




