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ナイトル村店のグランドオープンから2か月半。
漸くポンタ村からゴンスンデまでの鉄道の工事が終わった。
ゴンスンデ店の建物も出来上がったのだが、まだデパートの部分だけはテナントが揃っていないので、内装が終っていない。
この世界、電気は無いが、錬金術で作られる魔石が動力の灯りはある。
でも、やっぱり主な光源はお日様の光なのだ。
だから日本のデパートの様に窓の少ない建物なんて考えられないのだ。
外から燦々と陽が入る様に、私のスキルで呼び出した強化大型1枚ガラスを外壁にしなくてはいけないし、内装であるデパート階の通路に面した店々も希望があれば大きな一枚ガラスを壁する。
商品の搬入がしやすい様に、また、各店舗の店員の為のスペースとして外壁からも内側の通路からも見られない普通の壁で作られたスペースもある。
そういう普通の壁のスペースは隣りあわせの店舗で続けて配置する様にしている。
つまり日本の集合住宅の賃貸で良くある、隣りあわせの物件は全く同じ間取りなのに間取りその物は左右反転している感じだ。
多分あれは、寝室の横は寝室の方が寝室の横が台所と言うより騒音問題が少なくて済むとか、水回りを纏めて、主配管へつなぐ各戸からの細い配管の長さが少なくて済むし、そもそも主配管の数が2本必要な所1本で済ませられるというのが理由だと思う。
だから、デパート階もその考え方を踏襲した事になる。
王都のホテルも可成り工事が進んでいるけど、駅の方を先に仕上げる様にしてもらっている。
最悪の場合は、ホテルが開業していなくても、鉄道だけは先に開通させるつもりなのだ。
だって、ゴンスンデのホテルの方が先に開業する予定なのだから、王都のホテルはもっと後でいいけど、食材なんかを運び込むためにも鉄道は全線開通している方が私たちにとっても便利なんだよね。
「ダンヒルさん、デパートのテナントって後どことどこがまだ決まってないんですか?」
ダンヒルさんが書類の束の中から1枚のリストを取り出し、私が作業している机の上に載せてくれた。
「予定では、宝石店、カバン・靴店、女性用洋装店、男性用洋装店、本屋、香水店、コスメ店、コンビニ、土産物店が入店予定ですが、その内私共の直営店が土産物店とコスメ店、ご学友のフェリーペ様の御実家がコンビニを開店されます。で、現在他に出店が決まっているのが、宝石店、香水店、本屋です。カバン・靴店は靴は出来合いのモノという発想がございませんので鞄のみならOKとの回答を頂いております。洋装店はまだ候補店のいずれからも返事が来ておりません」
「と言うことは、カバン店としてテナントして入ってもらえば、そちらは直ぐに問題が片付くけど、洋装店はこれから希望店を募らないとダメと言うことですね」
「そうなんです」
「最終的にはお店の入らないスペースも出来るという可能性があるのですね?」
「そうです」
「なら、最悪、そのスペースには休憩用のベンチなどを置いておけば、デパート階をお客様へ解放出来ると言う事かぁ・・・・」
「なるほど。買い物疲れの方に座って頂いて、後日テナントが決まればそこだけ工事すれば良いということですか。考えましたね」
いやいや、それって地球のデパートとかショッピングセンターが普通にやってる事だからね。
それにしても、靴の作り置きって普通じゃないんだね。
と言うことはもしかして服もそうなのかしら?
ダンヒルさんに聞いたら、それが理由で出店を渋っているのだとの答えが返って来た。
「なら、普通に採寸して作った物を後日お客様に渡すか、ある程度のサイズを決め、半製品を前もって作ってもらって、来店したお客様にはその場で試着してもらい、細部を調整するって言うやり方を受け入れてもらえるかどうかって事ね」
「え?お嬢様、少々お待ち下さい。今おっしゃった事ってどういうことですか?」
「お貴族様はフルオーダーメイドの服しか着ないって事だよね?」
「はい」
「なら、男物のシャツとかって結構ダボっとしていて、ピタっとしていないといけないのは、上着の方だから、シャツだけを扱う店にするの。基本のシャツのデザインだって5つくらいだと思うので、大中小とかシャツの大きさを大まかに5つくらいに分けて先にシャツを作っておくのよ。で、水色とか白とかクリーム色とか定番の色を揃えておけば、その中からお客様にお好きな色の中から自分のサイズに一番近いサイズを店で試着してもらい、常に控えておいてもらうお針子に袖口とか肩の位置の調整とかを測ってもらうの。そうしたら2~3日でシャツも仕上がるでしょう?」
「なるほど!微調整はするので誂えた物とそんなに変わらないクオリティでものすごく短い時間でシャツを手に入れる事が出来るのですね!」
ダンヒルさんの目がランランと輝いている。
「ちょっと大公屋敷に行って来ます。この案なら直ぐにテナントが決まると思います。行って来ます」
いつも落ち着いた佇まいのダンヒルさんが呆れるくらいソワソワして大公屋敷に向かって行った。
そうか・・・・2~3日で服が出来るのって、こっちの世界ではとっても短い時間って感覚なんだぁ。
そうだったのか・・・・。




