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「まず、今のままでいたいと言う事であれば、ポンタ村に駅を造らないという手もあります。その場合は、ポンタ村近くの別の村か、何も無い所に駅を作る事になります。そうなるとポンタ村には鉄道を使うお金持ちの客は来ないと言う事になります。つまり、『熊のまどろみ亭』の客は増えないか、或いは少し減る事になります。まぁ、私たちはフリアン伯父さんが作ってくれている野菜や果物をウチの宿全部に運ぶ時に鉄道を使いたいので、他の場所に駅を造ると言うのはちょっと難しいんですけどね」

「減る?」

「はい。恐らく減ると思います。何故なら、鉄道が便利で楽と言うことが知れ渡れば、大勢の貴族や金持ちの商人は鉄道を使う様になります。だって、多少高い運賃でも移動の日数が減るのです。それは、移動の途中で泊まらなければならない回数が減る。つまり宿屋に係る費用、そして移動の間に食べる食事の回数が減り、それに係る費用も必要なくなるのです。しかも、移動先へは見込みより数日早く到着出来るとなれば便利ですよね?お金に余裕のある人はゆっくり移動したいと言う様な特別な理由が無い限り、鉄道を使いたがる様になるのは火を見るよりも明らかです」


「「「「ほぉ」」」」

 ちょっとぉ。ダンテスさんまで私の話に驚いた顔をしてるよ。

 気づいてなかったのぉ?

 まぁ、日本でも多くの人が新幹線の駅が自分の町にあるかないかが町の発展に大きく関係する事を、駅が実際に出来るまで想像できた人は少なかったものね。

 

「で、鉄道を使いたい人が増えれば、便数を増やすか、一度に運ぶ人の数を増やすしかありません」

 今や声も出さず頭だけを縦に振っている大人が4人、私の前に座って居る・・・・。


「で、大量の金持ちが駅で降りたり乗ったりする訳です。夜ならば宿泊先を求めます。自分たちで野営するとしても温かい料理を目の前で売っていれば、お金は持っているわけですから、料理は買うわけです。翌朝も朝食を買うでしょうし、移動中の昼ご飯やおやつ、飲み物も買うでしょう」


 全員まだ頭を縦に振っている。

「そうなるとお金の臭いに敏感な人たちは駅の周りで商売を始めるはずです。そうなると、鉄道の駅がポンタ村の外にある場合、そちらにたくさんの店が出来便利になります。徒歩で移動したり、普通の馬車で移動する人たちはそこまでの道があれば、そっちへ流れるでしょう。だから、ポンタ村近隣の別の村に駅を作ってしまえばポンタ村、そして伯父さんの店もお客が減る可能性があります」

「おおおお!それは困る!」


「となると、やはりポンタ村の中か、すぐ横に駅を造る事になります。その場合、私は伯父さんたちへ便宜を図りたいので『熊のまどろみ亭』の真ん前とか横に建設すると思います」

「「「おおおお!」」」


「そこで伯父さんたちがこれまで通り家族だけで経営するのか。一般客用の宿を続けながらお貴族様もお食事できる様、食堂を一つ増やすのか、人を雇ってお貴族様も泊まれる宿屋にするのか、或いは一切鉄道の客は相手にしないで今のままにするのかという点を話し合いたいと思ったので、今、ここでお話をしているんです」

「なるほどぉ・・・・。これは良い話だけれど、じっくり考えないといけない話でもあると思う。お前はどう思う?」

 伯父さんは伯母さんの方を見た。


「あんたぁ、食事は今もお貴族様に良く利用してもらっているので、このままの流れでお貴族様用の食堂があれば対応は出来ると思うんだよ。今だって、お貴族様用に2階の客室を2部屋、専用の食堂にしてるんだから、広い食堂を1階に用意してもらえるんならその方が階段の上り下りも無くなるし、仕事の量的には減るくらいじゃないかねぇ」


 伯母さんはまだ鉄道の客数について予想がついてないみたいだ。

 でも、それはダンテスさん以外の大人も同じ様なもんだと思う。

 流石にダンテスさんは普段から大公様のお仕事をされていたり、ウチのホテルの規模を知っているから、ある程度の予測は付けてくれていると思いたい。


「伯父さん、伯母さん、爺さん、貴族専用の食堂を造らなくてもお貴族様は伯父さんの店で食事をしたがると思いますが、今のままなら鉄道事業が軌道に乗って乗客が増えてもスペースと人手が無いので1日2組だけ受入れで後はお断りするという毎日になる可能性が高いです。仕事の量はそんなに増えません。その代わり鉄道のお客様は他の食堂や宿へ流れます。で、貴族用の食堂を増設した場合は、最終的にはお客が増えるので人手を増やす事になると思います。人手を増やすのが前提ならば、宿もお貴族様が泊まれる様にすれば更にお金が入って来ると思います。ただ、それだと人をたくさん雇って家族だけの温かな雰囲気の店では無くなります」


「う~む」

「もう一つ、別の案があります」

「何だ?」

「食堂だけ経営する事です」

「え?」

「鉄道の客が増えたら、食堂だけを経営すれば伯母さんも宿の方に手を取られないので、人手を増やすにしても村の顔見知り1~2人で対応出来るんじゃないですか?」

「でも、ウチにも馴染みの宿泊客がいるので・・・・」

「宿もするか、食堂を広げるか、広げないか、今のままにするかは、伯父さんたちで良く話し合ってください。もし、ポンタ村に鉄道は必要ないと思ったら、早めに言ってくれれば他の場所に駅を造りますし、ポンタ村で良いが『熊のまどろみ亭』とは反対方向の方に建ててくれと言われれば、その様にします。その時は、村の他の食堂や宿にはお金が入ってきますが、伯父さんのお店はあまり儲からないかもしれません。よく考えて、どうするか決めて下さい。もしまるっきり建て替えるとか、新しく土地を購入するとか、今の建物に増築するとしても、それらの資金は一旦私の父さんが出します。儲けが出て来たら、月々少しずつ返してくれれば問題ありません。鉄道がこの村に停まる様になれば、利益が出るのは分かり切っているので、返済に関しては父さんも問題にしないと思いますから」


 そろそろ夜の仕込みギリギリの時間になったので、私はランディの家にまだ私の部屋として確保されている部屋へ、ダンテスさんは宿の部屋へ、伯父さんたちは仕事へ戻って行った。

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