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 フローリストガーデンホテルチェーンを経営するにあたり、ポンタ村には、言い換えれば『熊のまどろみ亭』の営業には支障の無い様に色々考慮することについて、事前に大公様から許可を頂いている。

 だから今までも、ちゃんとランディたちの生活に響かない様に、つまりポンタ村の現在の宿泊客数にあまり変化が出ない様にホテル建設地を選んで来たつもりだ。

 しかも客層が違うから大丈夫だと思っていたんだけれど、何か影響が出たのだろうか?


「ランディ、『熊のまどろみ亭』のお客さんが減ったの?」

「いや、今の所変わった事は無いぞ」

「えっとね、ウチの宿を造る時、大公様から『熊のまどろみ亭』に影響のない様にする事についてはちゃんと許可を貰っているのね。だから、色々考えて宿を建てたんだ。お客様もウチはお貴族様主体でここは平民が主体だから被らないと思ってるし・・・・。だから、これからも影響は無いと思うんだけど、どうかな?」


「え?ちゃんとウチに影響が出ない様にって考えてくれてたんだぁ」

 ランディがホッとした様に肩から力を抜いた。

「もちろんだよ。私が一番大変な時、受入れて大事にしてくれた親戚なんだよ。もちろん考えるよ」

「ああ、良かった」


 ランディが私に詰め寄るのを、爺さんも伯父さんたちも止めなかったんだけど、私や父さんが『熊のまどろみ亭』を守るつもりがあると分かった途端話し掛けて来た。

「ウチの事まで考えてくれてありがとうねぇ。あんたぁ、良かったねぇ」

「そうか、そんな事だろうと思ってたから、心配はしてなかったぞ」

「自慢の孫じゃ」


 つまりは一番聞き辛い事は従兄妹同士と言う事でランディが、それも子供同士という事でこちらに遠慮解釈なく突っ走ったのを容認して、様子見をしてたって事ね。

 ふう~~ん。

 大人って汚い・・・・。

 まぁ、私も大人になってこういう状況なら同じ事をするけどね。ニヤリ。


「今回ね、伯父さんたちに少し相談があるんです」

「え?相談?」

「取り敢えず、調理場のアイドルタイムの時に話し合いをさせて欲しいんです」

「分かった。今、丁度客が少ないし、夕食の仕込みはそんなに時間が掛からないから、今話し合おう。家の方が良いか?それともこの調理場で話すか?」

「家の方が良いと思います」

「分かった。じゃあ、ランディ、すまないけれど、お前がここに残ってくれ」


 ランディが不服そうに席を立ったけど、「話し合いについては後でちゃんと知らせる」と伯父さんに言われると渋々宿に残った。

 いつもはフェリシアが手伝いに来ているらしいんだけれど、昼のピーク時が終ったので一旦家へ戻ったそうだ。

 次は夕方の仕込み時間に戻って来るらしい。


 話し合いが長引いた場合は、簡単なスープを作る様にランディからフェリシアに伝えてもらう様に手配して、伯父さん夫婦、爺さん、ダンテスさんと私でランディの家の居間に移動し、雁首揃えて座った。


「で、何を相談したいんだ?」

「伯父さん、鉄道って知っていますか?」

「大公様がヤンデーノとモリスン村の間に作った2本の長い鉄の馬車道で、大公様というかお前ん所の宿だけが使えるって奴だろう?」

「はい。その認識で大体合っています。それで、実はこれからはその鉄の馬車道を使って、有料で人も運ぶ事にするかもしれないんです」

「「「え?」」」


「まだ実現するかどうか分からないので村長さんも含めて誰にも言わないで下さいね。で、人を乗せるとなると高額な移動手段になります。普通の馬車で移動する倍以上の速さで移動できるんです」

「そ・それは、塩とか油なんかの商品も運べるって事か?」

「あ、それはまだ考えていないです。ウチの宿の食材のみを考えていたんですが、今後はお金を払ってでも乗りたい人たちを運ぶ事だけ考えていて、他の商店の資材まで運ぶ事は考えていません」

「そうか・・・・」


 伯父さんも鉄道を敷設した土地の領主たちの様に、鉄道が何を齎すのか、ちゃんと理解できていないみたいだ。

 それは爺さんも、伯母さんも同じ様子だ。

 ここは親戚と言う事もあって、色々私からレクチャーしても罰は当たらないと思うので、ちゃんと説明しちゃおう。


「伯父さん、鉄道って好きな所で乗り降りはさせない心算なんです」

「ん?というと?」

「乗合馬車の様に駅を作って、そこだけで乗り降りさせる様になります」

「ほう」


 乗合馬車がこの村にも駅を持っているので、想像が付きやすいのだろう。

「つまりですね、お金持ちしか乗っていない馬車がその駅にしか止まらないと言うことは、夜になったら乗客は駅の付近で一夜を明かさないといけないって事なんです。つまり、鉄道の駅がある所はお金持ちのお客様が来るって事です」

 伯父さんは左掌に右手をグーにしたのを叩きつけ、「おおお!」と言って席から立ちあがった。

 どうやら分かってくれた様だ。


「で、この鉄道ですが、どこに敷設して、どこに駅を建てるかというのを私も決定できる地位にあるんです。だから、『熊のまどろみ亭』に有利な場所に駅を建ててもらう様に大公様と鉄道の工事をされているガルフィールド様にお願いしようと思うんですけど、それには伯父さんたちがお貴族様をお客としたいかどうかが関係してくるんです。王都からポンタ村までは普通の馬車だと1日半の所ですが、鉄道で移動すれば半日ちょっとで到着出来る様になります。今は、お貴族様に食事を提供する機会は増えているので経験をお持ちですが、宿泊に関してはあまり受入をされていないですよね?」


「そうだな。ウチの人数では料理だけで手いっぱいだ」

 私は無言で伯父さんに頷いた。

「今後も家族経営、つまり爺さんと伯父さんたち、お手伝いでフェリシアだけでやって行く心算との理解でいいですか?」

「ああ。実はランディとフェリシアが結婚するって話が出ているんだけれど、結婚して子供が出来たらフェリシアは家の中の事を中心にやってもらう事になるだろうし・・・・。人手を増やすといっても誰でも良いわけではないし・・・・」


「分かりました。もし良ければウチの父さんが資金を出しますので食堂の部分だけ広げませんか?」

「それは今の食堂を潰すって事か?」

「伯父さんの質問に答える前に、鉄道の駅をポンタ村へ建設する事について少し説明させて下さい」

「お、おう」


 ここから鉄道の利点について長々とした説明が始まった。

 伯父さんたちは出来るだけ理解しようと尋常ならざる集中力で、私の説明を聞いてくれた。

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