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婚約お祝いが終ると、私はモリスン村のホテルへ寄って、ダンテスさんと父さんと一緒にヤンデーノへ向かった。
あ、王都からモリスン村まではダンテスさんと一緒だったよ。
もちろん一人でなんて移動しませんよ。
ふふふふ♪
鉄道、乗ってみました。
まだ、ヤンデーノまでは繋がっていないんだけれど、ヤンデーノの町が見える所までは既にレールの敷設が終っているので、そこまでは鉄道を使うのだ。
鉄道用の車輛の付いた台車の上に、大公様の紋章の入ったいつも使わせてもらっている馬車を載せ、落ちない様にあっちこっちを台車に括り付けての移動だ。
動力は馬。
レールにかませた台車は滑りが良く馬も楽々と馬車を引いてくれている。
後ろにつなげられた台車の車輪は脱輪することもなくスイスイと移動し、私たちやその荷物を楽々と運べているみたい。
まぁ、陸路を行く時程は馬の負担にはなっていないっぽい。流石鉄道だ。
「はぁ、これは揺れないなぁ。移動も早いし、すごく便利だ」
父さんがすごく感心した感じで、馬車の窓から外を何度も覗いていた。
「本当に、アウレリア様の発想は素晴らしいですね。この鉄道はホテル間で必要な物を運ぶ為に設置されましたが、貴族だけでなく商人なんかも是非乗せてくれって言って来そうですね」
「単線なのでそれをしてしまうと、行きと帰りの便の間が数日間とかになりそうなので、クレームが出そうですね」
「単線と言うのはどういう事ですか?」
ダンテスさんだけでなく父さんも不思議そうにしている。
「2つの馬車がすれ違うにはレールは2セット必要なんです。1セットしかなければ、駅にレールを2セット設置して、駅でもう一方が到着するまで待って、線路に他の馬車が来ないのを確認してからでないと、移動の途中で反対方向の馬車が向かい合ったまま止まっちゃいますよね。1セットだけのレールしかないのを単線、2つ以上あるのを複線って呼ぶといいかなぁって」
「なるほど!将来複線にするつもりはないんですか?」
う~ん、ダンテスさんとしては鉄道を人を運ぶ手段と考えているのかな?
「大公様がこういう移動手段を使えれば、今よりお体の負担が少ない形で旅をする事が出来ると思ったんですよね。やはりお年を召していらっしゃるので、この様に揺れないし早い移動手段は素晴らしいです」
「一般のお客さんを乗せる事は考えていませんが、大公様であれば専用の車輛を用意して、事前に運行計画を立てれば鉄道で移動してもらえると思います」
「そうですかっ!それは大変良いですね」
ダンテスさんも大公様の事を本当に尊敬されているみたいで、大公様に鉄道を利用してもらえるかもというだけで、すんごい喜び様だ。
「将来的には複線にするか、先ほどアウレリア様がおっしゃっていた様に駅を複数作って、そこだけでも複線にすれば旅客も運べますね。多少高くても利用される方は多いと思いますよ」
「そうですね。鉄道は本来貨物だけでなく人も運ぶためのモノと言えるかもしれませんね」
「是非、人も運べる様にして頂きたい」
結局は、土地を取得せねばその計画は成り立たないし、まだ最初のナイトル村-ヤンデーノ間すら工事が終っていないので、とりあえずはヤンデーノから王都を挟んでゴンスンデまでの単線敷設が終ってからになるよね。
途中で2回程馬を替えて、いつもの1/2の時間でナイトル村からヤンデーノまでの移動が終り、とても快適だった。
夕方に到着しそうな場所には、線路脇に水が汲める井戸が掘ってあるキャンプ場の様なスペースが用意されているのですごく便利なのだ。
もうちょっとしたら、この駅の様な所には料理をする事ができる掘っ立て小屋みたいな物を建ててもいいかもしれない。
そうすれば屋内で寝る事もできるし、鉄道の御者も仕事をするのが楽になるだろう。
そう思っていたらダンテスさんと父さんが、「将来的には夜宿泊する所に宿屋を建てたら良いですね」「美味しい料理を出す食堂が付いていると尚良いですね」なんて言っていた。
二人の頭の中には既に旅客を運ぶ鉄道が浮かんでいるんだろうねぇ。
う~ん、人まで運ぶとなると馬の負担がどれくらいになるか分からないので、簡単には手が出せないなぁ。
取り敢えずこの世界で初の鉄道に初めて乗ってみたけれど、かなり良い感じ。
明日の昼にはヤンデーノに着くらしい。
ヤンデーノ側の工事現場にガルフィールドさんがいたら、色々話せるんだけどなぁ。いるかな?
朝起きて馬車型の車輛に乗り、昨日最後に交換された馬に引っ張ってもらってヤンデーノが見える丘まで来た。
本当に後2~3グロでレール敷設も終わるね。
今度はモリスン村から王都へ、それが終れば王都からナイトル村へ、そしてゴンスンデまで敷設できたら終了だね。
途中、夕方になってキャンプする所、村とかあったら商品を卸して商売できるんだけどなぁ。
小さな駅と宿とお店くらいは設置しても良いとは思うけど、それも近くに集落があればなんだよね。
こっちの村から村の間には何~んも無い土地がただただ広がってるんだよね。
で、最短距離でレールを敷いているから、わざわざ集落がある所へ寄り道していないんだよ。
勿体ないっちゃ勿体無いんだけどね、鉄道のなんたるかを理解できる領主が少なくて、何にもない土地しか買えなかったらしい。
でも、王都とかゴンスンデとかヤンデーノに駅が出来たら、鉄道のありがたみが分かると思うんだよね。
まぁ、それまでは放置だね。
新しい駅うんぬんて言われたら、村とか町の方が移動してくればいいよ、うん!
ガルフィールドさんはいなかったけど、工事の現場監督が居て、駅をどの辺に建てるのか確認してみたところ、城壁の外側なんだそうだ。
街をぐるっと城壁が囲んでいるから、ヤンデーノの町中には線路を敷けないらしい。
で、もちろん鉄道駅はウチのホテルから一番近い門の真ん前に建設するとのこと。
そりゃそうだ。
貨物を搬入しやすい様にしてもらわないとだもんね。
ウチのホテル建設用地が東南門から近いから問題ないけど、これが港の方に建設してたらエライこっちゃ。
どこの門からも遠くなっていた所だった。
それに、高台になってるから、他の村や町から貨物を運ぶのはまだ良いとして、ヤンデーノのホテルから他のホテルへ荷物を運ぶ時はえっちらおっちら高台に向けて運ばなくちゃいけないなんて、考えただけで大変そう。
港を見下ろす城壁のすぐ横で良かった~。
さぁ、明日からはヤンデーノのホテルのグランドオープンに向けて、工事の最終チェックや、スタッフの研修の成果を確認したり、従業員寮を確認しないとなんだよね。
従業員寮は敷地内には無いから、ちょっと離れてるんだけど、今夜からもう泊まれるらしいから、私たちも従業員寮に泊まるのだ。




