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「「「「「おめでとう!」」」」」
アドリエンヌ様は顔をちょっと赤くし、闇王様はいつも通りな感じで「「ありがとう」」と2人仲良く声を合わせた。
仲良しだね。
「美味しそうだな」
ボブの目がランランと輝いている。
「どうぞ、召し上がれ」
全員が料理に手を伸ばし、婚約の正式発表のパーティがどんな感じだったのか冷やかす様に聞くのだけれど、闇王様は照れないのでちょっぴりつまんない。
反対にアドリエンヌ様は耳まで真っ赤なのにね。
どうやらまだ社交界にデビューする年ではないので、両家の親戚が集まっただけらしい。
まぁ、高位貴族だから錚々たるメンバーだろうとは予想してるけどね。
「何時、結婚するの?」
おーい!勇者様、質問が直接的ぃぃ。
「13歳から16歳頃だと思う。オレはそれまでに領地の運営を学んだり、外国へ留学する可能性があるんだ」
そうなのだ。この学園の入学が5歳から許されている理由の一つに、高位貴族の総領息子の中には海外へ留学する習慣があるからと聞いた事があるよ。
ウチの国だと高等教育はされないものね。
これも、最近平民も勉強させる事になった影響かもね。
父さんたちの頃は平民は勉強なんてさせてもらえなかったらしいからね、お貴族様の事情だけ考えれば良かったんだろうけど、平民も学校へ通う様になり、その中でも優秀な生徒は学園へ入園するシステムになっちゃったものね。
「アドリエンヌ様は留学はされないんですか?」
勇者様を見習って、私もちょっと不躾な質問をぶつけてみた。
「えっと・・・・可能性としてはありましゅ。でも、今の所は家に居て結婚のための準備をしゅる事になっていましゅ」
「お前も留学していいぞ。見聞を広めるのは良い事だと思うぞ」
「はい・・・・」
おおおお!婚約者同士って感じのやり取りやね。
中身が大人なので、ついつい親戚のおばはん的な幼い子を慈しむ感じな視線になっちゃうよ。
それにしてもこの男尊女卑の国の中で、闇王様は女子の可能性を摘み取るタイプではなく、ちゃんとチャンスを提供するその姿勢は好意が持てるよね。
そういう風に考えてみると、リーダーシップがあるから自己中心的に見える時もあるけど、ちゃんと周りを見ていたり、イベントをする度に黙って学園との調整や終了後の報告書作成をしてくれているから、仕事を厭う感じではないところも良いよね。
うん、アドリエンヌ様には闇王様と幸せになって欲しい。
そこから皆の夏休みの話になった。
「俺は店の手伝いが主だったんだけど、リアん所のホテル?宿への出店で結構忙しくしてるんだ」
「何を売るの?」と勇者様は少し不思議そうにしている。
「リアの方からリクエストがあるのでそういう物を揃えるのと、ウチで売れそうと思ってる物も置く様にしているんだ。例えば部屋着とかタオルとか、皿とかもあるな。村人用の塩とかもあるぞ」
「大公様の所のホテルは、ウチの親もグランドオープンに呼ばれたけれど、なんかすごく上等な宿で、カジノ?あれって前にお前が持って来たルーレットとかトランプとかをする所なんだよな?」
闇王様ん所の御両親も来て下さってたんだね。
「はい」
「あれがすごく面白かったらしく、旅に出る予定がなくてもカジノで遊ぶために大勢の貴族がホテルに逗留するだろうって言ってたぞ。後、コンビニ?フェリーペん所の店はガウンとか相当上等な物を置いていたので荷物を持たなくても宿泊するのに必要な物が揃うって言ってたぞ」
「おおおお!そのスリッパとかガウンやパジャマっていうのはリアん所がデザインや品質を特定して来た物で、かなり売れたらしいです。ウチとしては読書用の本とか下着とかを用意しているんですが、本はまだ売れていない様です」
「フェリーペん所がこちらの要望に沿って商品を揃えてくれているので、とっても助かってるよ」
「お、おう。ウチもリアん所のホテル全店に出店させてもらえるので、父さまも喜んでいたよ」
「Win-winな関係だね」
「え?何それ?どういう意味?」
「えっとね、お互いに利益がある関係って意味」
「相変わらずリアは耳慣れない言葉を良く使うなぁ~」
「あはははは」
「セシリオ様はこの夏休みどうされていたんですか?」
「ん?実家で読書だよ」
「いつもと変わらなかった」と勇者様が笑う。流石怖いモノ知らずだった!
「ランビットはどうなの?」
「あ、ランビットはもうウチで研修を始めてるぞ」
「ということは、ボブももう研修を始めているの?」
「うん」
私としてはランビットの動向が気になるので、色々と質問を重ねた。
結局、スイカズラ工房が受注している商品を作っている訳ではなく、工房の職人の補助をしているらしい。
材料を倉庫から持ってくるとか、一旦作業が終わった所の掃除とかだね。
この1年でスイカズラ工房で錬金術師として必要な事の触りだけでも学んでもらって、再来年からはウチで働いて欲しいなぁ。
「で、メグは夏休みどうしてたの?」
「ゴンスンデに帰っていたよ。研修は王都だから、家族の顔を見たかったしね」
「そっかぁ。私はあっちこっちのホテルへ行かないといけないけど、王都に戻って来たらまた一緒に遊ぼうね」
「うんうん」
アドリエンヌ様とも遊びたいんだけれど寮ではなく家に帰られているので、多分平民の私達と一緒に遊ぶ事は許されない気がするんだぁ。アドリエンヌ様のお家の方がって事ね。厳しそうだもの。
でも、お花の好きなアドリエンヌ様がご実家ではガーデニングをする事が出来ないと思うので、偶にはウチの店で集まっても良いかもしれない。
そうすれば珍しい花を愛でる事は出来るものね。
今度、落ち着いたらウチの店で女子会でも良いかも?
最後に婚約おめでとうのプレゼントを渡した。
セシリオ様はご自分で用意されていたプレゼントを例の親戚だけが集まって行った婚約式に出席した際、既に渡されていたそうだ。
まず闇王様にフェリーペが代表して渡した。
綺麗に包装されていた包みをびりびり破いて出て来た箱の中には渋い色の皮で作られたスタンドに例の紋章の入った羽ペンとペン置き、インク瓶、メモ帳、そしてミニミニ馬車の模型が見栄え良く配置されていた。
「おおおお!スミッソン工房の新型馬車!カッコいい」
ご満足頂けた様だ。
次いでアドリエンヌ様には勇者様から渡してもらった。
こちらも包み紙をびりびりにして開けた箱の中にこの部室でアドリエンヌ様が一番時間を過ごした衝立に囲まれた釣り椅子とコーヒーテーブル、パラソルがドールハウスになっており、並んだ衝立が扉になっており、それを開けるとスコップとか剪定はさみなどのガーデニングツールが入っている。
もちろん例の紋章入りだよ。
「あ、ありがとう・・・・」
そう言って震えた声を出したアドリエンヌ様の瞳に浮かんだキラキラした水玉がとても綺麗だった。




