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ワンタンスープはみんなにとても喜ばれたので、今夜のメニューとして出す事にした。
ラスクは固いパンがある程度の量、溜まった時にということになった。
「カミーロ、今夜のスープは熊のまどろみ亭特製スープだぞ」
カランコロンとベルが鳴り、伯父さんの幼馴染で常連客のカミーロさんが、今夜は1人で来店した。
「なに?煮豚以外にもか?」
「ああ。煮豚以外にだな」
「じゃあ、そのスープをくれ。あと、煮豚がまだあったらそれもくれ」
「おう!」
伯父さんはいそいそと大鍋からスープを一人分小鍋によそい、そこへワンタン5つを入れ温めた。
続いて煮豚を皿に盛り、付け合わせの野菜を添え、ソースを掛けてトレイに置いた。その横にはパン二切れとエールが入った木のコップが並べられた。
3分もすれば、小ぶりに作ってあったワンタンが浮き上がって来る。
それを器によそい、白髪ねぎをのせて、煮豚の横に置かれ、それら全部が載っかっているトレイが、配膳係の伯母さんに手渡された。
「ずずずーーー!」
こっちの世界では音を立てて食べるのはお行儀が悪いとされるのだが、平民の中にはそんな事を気にしない人も結構いる。
カミーロは気にしない人の筆頭だ。
口の周りについた汁なんかも、袖口で拭う奴なのだ。
まぁ、家の食堂にはナプキンなんて洒落たもの、ご用意がございませんので・・・・。おほほほほ。
「おい!これうめぇな」
「だろう?」
「肉も入ってるのな」
「おう!」
「マジでうめぇわ」
伯父さんがドヤ顔すると、いつもはそれをヤジるカミーロさんなのだが、今回はそんなこんなを全部すっとばして、目はもっぱら皿に向かっている。
ワンタンスープは思ったよりも作るのが大変だった。
ワンタンの皮を成形し、肉をミンチにするのが大変だったのだ。
普通のスープならば、ミンチにする事はないし、切って少し炒めた具材に水をドボドボ入れ、煮込むだけだ。
はっきり言って、こっちの世界の人は灰汁をあまり取らない。
だから一旦水を入れた鍋を火に掛けると、具材が煮えるまでは手間いらずなのだ。
しかしワンタンスープだと、ワンタンの皮がたくさんいる。
伯父さん希望のくず肉を使ってはいるが、そのくず肉はミンチにしなければならない。
煮豚なんかで最近お客様の数も増えているので、多めに作っておく必要がある。
体力があるのでミンチは伯父さんにしてもらったが、量が量なので途中で爺さんも参戦してくれた。
ワンタンの皮は私が成形しているのだが、それでも一皿5つくらいは入れてあげたいので、結構な数になる。
同時にガラスープ作りと、煮豚作り、野菜の下拵え、ステーキの付け合わせの調理、ワンタンの皮で具材を包むと言った結構な仕事量を、伯父さん、爺さんと私の三人で熟しているのだ。
伯父さんたちに隠れてミンチを魔法でやろうかどうしようか悩んだのだが、ワンタンスープを甚く気に入った伯父さんが「これも名物料理にしよう!」と言い出した。
そうなると今後かなりの頻度でワンタンスープを作るんだよね?
ずっと隠れて魔法で準備するのは難しいかぁ。
となればやっぱりナイフとまな板を使って作るしかないよね。なら、体力仕事は熊さんの領分だね~。
と、スルッと一番大変な所は他人に擦り付けてしまった。おほほほほ。
ワンタンの皮で具材を包むのは餃子程手間ではないので、そこはあまり時間が掛からなかったが、皮を作るのに時間が掛かるのだ。
均等に薄い皮を最低でも二百、用意しなければならないのだから・・・・。
まぁ、それでも餃子の皮の様に丸く成形しなくていいだけ楽だけどね。
実は麺棒をこっそりスキルで作ったのだ。
均等に伸ばすのに絶対にいるものなので、裏庭に積み上げてあった薪の一つから作ったのだ。
私がどこからか持ち込んだ麺棒を見ても、「こりゃあ、便利な物があったなぁ」と伯父さんはただ喜んだだけだ。
王都から持って来たとでも思ったのだろうか?
怪しまれないなら問題はない。
ちゃっちゃと使って大量のワンタンの皮を作ろう。
苦労した甲斐あって、ワンタンスープは瞬く間に人気になった。
こちらは限定10名ではなく、毎週水曜の夜のみの提供とした。
もちろん、売り切れ御免での営業だ。
ポンタ村界隈から『売り切れ御免』という言葉が広がった。




