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「鉄道はもう少し時間が掛かると思う。この宿屋のオープンに間に合わせたかったんだがなぁ。如何せんオープンが早すぎるよ」
ガルフィールドさんがぶちぶち文句を言っている。
モリスン村-ヤンデーノ間の鉄道がまだ開通していないので、王都-モリスン村間は着手すらしていない。
まぁ、客を乗せる訳ではないので、別に開通していなくても問題は無いのだが、大公様には乗って頂きたかったんだよね。
土地の取得は問題なかった。
単純に整備されていない土地だったので、鉄道敷設の前段階にめちゃくちゃ時間と手を取られたのだ。
しかし、モリスン村のホテルはもう従業員の教育も終わっているし、建物は可成り前に出来上がっているので、もういつオープンしても良い状態だったのだ。
しかも、大公様が早くオープンしてくれととっても楽しみにされているので、鉄道を待っていられなかったのだ。
今日はオープンに先立って大公様がホテルにお着きになる予定だ。
明日からは大公様がお声を掛けた貴族等が続々ホテルに押し寄せる事になっており、オープニングのセレモニーは明後日の夕方だ。
お客様たちには二泊三日の宿泊を体験してもらい、リピーターになってもらうのだ。
こういう時、ペペ君が4年生か卒園していて、自分でイベント会社を立ち上げてくれていたらと何度思った事かっ。
まぁ、まずは宿泊とお食事にクレームが出ない様、そしてカジノが受け入れられる様に祈るしかない。
だって、私はホテルもカジノも素人なんだよぉ。
そうこうしている内に大公様の馬車が正面玄関前に停まった。
従業員総出でお出迎えだ。
本来は高位貴族の方がお客様でも総出でのお出迎えはしないけれど、大公様は実質的にはオーナーですからね。
そうでなくてもホテルのトップである私の恩人ですから、スタッフ総出でのお出迎えはデフォでしょう。
「ようこそいらっしゃいました。漸く、宿題の一つをお見せする事が出来て嬉しいです。道中、問題はございませんでしたか?」
「ああ、大丈夫だ。しかし、綺麗な建物だな」
「ありがとうございます。お疲れと思いますので、早速お部屋の方へご案内いたしますね」
「ああ、頼む」
大公様の対応はもちろん私だ。
ご一行の荷物をポーターへ運ぶ様目で合図し、大公様の斜め前を歩く。
客室は全て2階なので2階へ上がって頂き、眺めが一番よいスイートルームへお連れする。
2番目に大きなスイートなので、執事もメイドも全員スイートに入りきった。
「こちらが大公様のお部屋でございます。寝室が6つございますので、お好きなお部屋をお選び下さい」
大公様がご自分の寝室をお決めになると、さっそくメイドたちがポーターから受け取った荷物を大公様の居心地の良い様に整理しはじめた。
ダンテスさん、父さんと私はスイートの居間でウェルカムドリンクとスイーツの用意をし、大公様へお出しした。
「うん、旅をして来て宿の部屋に入ると落ち着くが、直ぐに冷たい飲み物と軽食が出てくると言うのは今までなかった。良いものだな。とても落ち着くな」
「ありがとうございます」
明日や明後日、オープニングセレモニーに参加する大公様が選別した貴族たちの対応はダンテスさんや父さんになるけれど、大公様だけは私が直に対応をしている。
何故なら、大公様なら私がまだ子供だからと言って侮る様な事はされないからだ。
そして、私が対応しても不快に思われないからと言うのもある。
本来はレセプションでしか手に持つ事ができない館内案内票を、今回は特別に大公様用として持って来ているのでコーヒーテーブルの上に載せた。
「こちらがこのホテルの館内案内図でございます。客室は全て2階にあり、1階はレセプションを始め、レストラン、薬局、コンビニという簡易的な店舗などがあります。建物の外には足をお湯につけながらくつろげるバーもございます。3階はカジノという賭け事をするコーナーがございます。以前、お屋敷にお持ちしたルーレット等がございます。もしよろしかったら遊んでみて下さい」
「ここは外の景色を楽しむ場所は無いのか?」
「建物の外のバーから放牧地を見る事が出来ますが、後はお庭の散策とかでしょうか。かなり広いお庭になっておりますので散策のし甲斐があると思います」
「うむ、そうか。まずは風呂にでも入って、夕食を楽しもうかの。この宿は風呂があるのだろう?庭の散策は明日かのぉ」
「かしこまりました」
大公様のメイドにお風呂の場所をお教えし、仕度をしてもらう。
私は今夜の大公様のお食事の用意に取り掛かった。
賄いは料理人たちに作ってもらうけれど、大公様への料理は私が全て作るのだ。
先ほどお風呂の用意の説明をした時、メイドさんが大公様の今日の体調とかを教えてくれた。
ご高齢なので馬車の移動ではそれなりに疲れていらっしゃるみたいだけれど、ホテルを体験できると言うことで気分が高揚されていらっしゃるのか、ご自身としては疲れを自覚はされていらっしゃらないとのこと。
馬車の中では魚が食べたいとおっしゃっていた事まで教えてくれたので、用意していた肉料理の他にも魚料理を出す事にした。
暑いのでまずは柚子のシャーベット。
アペリティフを飲んで頂いて、アミューズはミニ卵焼き、ミニパプリカの肉詰め、焼きプチトマトを綺麗に横長のお皿に盛りつける。
サラダは夏のグリーンサラダ。
ドレッシングはさっぱりしたイタリアンドレッシング。
少しだけ玉ねぎとニンニクのみじん切りも入っているので、ちょっぴりピリっとした味に仕上がっているのだ。
スープはガスパチョ。
トマトと夏野菜をブレンダーで粉砕したスペインの飲むサラダである。
濃厚なので量は少しだ。
これは前世で友達に教えてもらったのだけれど、ガスパチョにクミンパウダーを心持ち入れると味が引き締まるので、今回も少量だけれど入れている。
メインのお肉は豪快にステーキなんだけど、お魚も出す事にしたので量は当初の予定の半分。
筋切りも丁寧にやっているので焼いているだけだけど、柔らかく仕上がっている。
濃い味のモノが続いていたので、味付けは塩コショウのみだ。
でも、この国有数の牧草地帯で育てられた牛の中でもとびっきり上等な肉を焼いたのだ、美味しいはず!
魚はタラの切り身に野菜の餡かけというメニューにした。
切り身になっているのでカトラリーを使い易いと思うんだ。
最後はこの地方の濃厚な牛乳を使ったアイスクリームと同じく濃厚な卵を使ったプリンを同じお皿にのっけたなんちゃってプリンアラモードだ。
お年を召した大公様の負担にならない様に、フルーツは少な目です。
「うむ、美味い!」
大公様から美味いを頂きました~。
明日の朝食も楽しみにして下さいね。




