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「コンシェルジュのお仕事は全て前準備に掛かっています。お客様からの質問が何についての質問か予測できないからです。例えば、息子が急に具合が悪くなった。医者や薬師はどこか?といった内容から、ドレスを買いたいから店を教えてとか、部屋が小さすぎるから替えてくれなんて言う質問やお願いをされるかもしれません」


 大公館の一室でかなりお年を召した元執事だった人達5名を前にして、ちみっ子である私が偉そうに講義をしている。

 

 コンシェルジュ教室だ。

 今まではダンテスさんが時折教えてくれていたのだが、私が考えるコンシェルジュとダンテスさんが想像しているコンシェルジュに差異がないか確かめたい。確かめるなら講義の形で皆にその知識を伝えて欲しいと言われ、今、急遽のコンシェルジュ教室だ。


 夏休みに入ってすぐなのに・・・・。

 エイファと遊びたかったのに・・・・。


「質問してもよろしいでしょうか?」

 綺麗に白髪になっているゴンスンデで働く事が決まっているコンシェルジュさんが聞いて来た。

 聞きたい事を直ぐに口に出すのではなく、質問して良いかどうかを訪ねるあたり、すごいと思う。

 執事として働いていた経歴は伊達ではないね。


「どうぞ」

「前準備が重要とおっしゃいましたが、具体的にはどの様な準備が必要でしょうか?」


「今からこちらのファイルを回しますので、私の話を聞きながら順番に見て下さいね。そのファイルの中には、店舗関係、飲食関係、医療関係、移動関係と言ったインデックス、つまり耳の様にはみ出ている紙が挟んであります。店舗関係という耳を引っ張って開くと、まず店舗関係の目次があります。ホテル近辺の主なお店の一覧です。一覧表を見てもらうと分かりますが、最初の行に被服関係が来ています。淑女用、紳士用、子供用、次に皮革製品、つまり靴やカバンですね。それも紳士、淑女、子供に分けて書いてあります。その次は宝石店、その次は書店と言った具合に種類別に店舗名と住所、営業時間または定休日が書いてあるはずです」


 最初にファイルを手にとった男性とその横の席に座って居た男性は一緒になって私が説明しているページを見ている。


「で、住所が書いてあっても大まかな住所しか分かりませんよね。一覧表の中に各店舗の番号が書いてあります。①番は、スミス洋装店とあります。一覧表の2行目に来ている店は②番と上から順番に番号が打ってあります。店舗関係の一覧表を1ページめくって下さい。一覧表が続いている場合もありますが、今回はすぐに①番の店舗の簡単な地図が載せてありますね」


 男性二人は激しく頭を縦に振っている。


「①番の地図は右上に①と番号も振ってあります。もう一度1ページ前の一覧表を見て下さい。紳士服だけでなく、淑女の服、子供の服の欄にも①という番号が振ってあると思います。これはスミス洋装店がこれら3種類の服を全部扱っている店舗なので、同じ地図になるのです。これが、次のインデックスである飲食関係やその次の医療関係、そして移動関係で同じ事が繰り返されています。ちなみに移動関係は馬車とか船ですね。後徒歩で移動の場合は大体ここから何日掛かると言った情報が書き込まれています。例えば馬車も乗合馬車の時間割、各主要駅までの日数、料金、座席数、乗り場等が地図を含め書かれています。貸し切りもそうです。どこに貸し切り馬車を扱っている業者がいて、それぞれの馬車の保有数や料金など、場合によっては何日前には予約が必要といった注意事項まで書き入れています。今、みなさんがご覧になっているのは、私が作った王都の資料です。みなさんにはご自分が担当していただくホテル周辺の似た様な情報ファイルを作って備えて頂く事になります。これを指して前準備と言っています」


「はぁ、これは本当にすごいですなぁ。欲しい情報が全部網羅されている」

「ありがとうございます。今、ご覧頂いているのは、一つの例です。場所によってはお客様がされる質問の傾向が違う事もあります」

「それは町と村の違いと言うことでしょうな」

「はい、そうですね。後、王都と港町では自ずと町の在り方が違うというのもあります」

「なるほど~」


「例えばカジノがあるホテルであれば、カジノの営業時間を聞かれる事もあるでしょう。もしかしたら周辺の観光地は無いかなんて質問を受けるかもしれません。観光地があっても日帰りは出来ないかもしれませんが、泊まりならあると言った幅広い情報が手元にあれば、聞かれた時その情報を思い出せなくても、そのファイルを見れば分かります。だから、こういうファイルは必要なのです。見本のファイルを見終わったら、後ろの方へも回してあげて下さいね」


 最初はいくら大公様の精鋭でも、幼い女の子が大の大人に向かって何を話すんだろうと少し馬鹿にされていたけれど、掴みはばっちりの様だ。

 後、前世のファイルを錬金術で作ってみたのだが、それもすごくありがたがられた。

 もちろんファイリングするために、穴開け用のパンチも作ってるよ。


 書類の大きさも全て同じ大きさにする様に、ペーパーカッターも錬金術で作った。

 だってこっちの紙って大きさが大体しか決まってないんだもの。

 だから錬金術の装置も設計図を入れる箱の大きさが何種類かあるくらいだからね。

 各ホテルにも置くけれど、文房具用品は纏めて一か所で製造するつもり。


 ランビットがウチに来てくれたら、最初は文房具を作りまくってもらう心算。

 長さ、重さ、時間を測る物はホテル間で全て共通のモノにしたいのだ。


 さて、今日はコンシェルジュ教室だったけど、明日はウチの店で料理人の研修だ。

 はぁ・・・・。

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