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「ここのところ考えていたんだが、明日の鑑定の儀、もし魔法スキルだったらアウレリアを実家に頼むしかないと思うんだ」
明日、私は館の人たちに内緒で、鑑定の儀を受ける予定なのだ。
「そうねぇ。あなたの言う通りだと思うわ」
「ポンタ村であれば伯爵の領地じゃないので安全だと思うし、私の実家は宿屋だから人手が足りない事はあっても余る事はないだろうし・・・・」
ポンタ村とはシエラアスール伯爵の寄子、カメリア子爵の領地にある、私の両親の出身村で、王都から馬車で1日半の位置にあるらしい。
らしいと言うのは、私はこの王都で生まれ、一度もポンタ村へは行った事がないからだ。
若い頃父さんは、村を出て王都まで仕事探しに来て、この縁も所縁も無いモンテベルデ伯爵家が丁度庭師を探していたので、園芸スキル持ちということで幸運にも庭師助手として雇ってもらった経緯があるのだ。
今は庭師頭だけどね。
無事、職を得た事もあり、その後母さんを村から呼び寄せて結婚したとのことだ。
「ポンタ村までの移動はどうするの?」
「冒険者ギルド経由でミルコたちのパーティに依頼して村まで送って行ってもらおうと思うんだ。実はミルコたちには既に話をつけている。明日、朝一番でここに来てもらって、家の親爺が怪我をしたから世話をしてもらう人が必要だって伝言を届けてもらう様にする算段になっている」
「?」
「つまり、私の実家から誰か送ってくれって言う伝言を受けた様に細工すれば、アウレリアが魔法スキルを授かった場合、田舎へ行かせやすくなるだろ?」
「なるほど!それならモンテベルデ伯爵家の誰にもアウレリアが魔法スキルを持っているって知られなくて済むということね」
「そうだ。で、魔法スキルでなければこのままここに住んで、実家には人を送る代わりにお金を送るってことにすればいいしな」
「ミルコたちだけで大丈夫かしら。私もここを辞めて一緒に村へ行く方がいいんじゃ・・・・」
「本当は親子3人で村へ戻るか、ここを辞めて他の仕事を探す方がいいんだが、ここ程よい条件の職場はそうそうないのはお前も知っての通りだ」
「そうね。ここはお給料だけはいいものね」
「お金があればアウレリアに良い物を着せてやれるだろうし、食べさせてやれるから、離れ離れになるのは辛いが・・・・。それに実家も生活がキツキツだから子供1人くらいなら嫌々でも引き受けてくれるだろうが、家族3人だと断られるだろう。お前だけがついて行ったとしても、お前に出来るのは給仕。そうなると・・・・」
高級でない宿屋や食堂の給仕は売春婦を兼ねる事が多いので、すんごい美人の母さんが給仕なんてしたら、本人にその気はなくとも客が放っておかないだろうということを父さんは言いたかったんだと思う。
「そうね・・・・。元々村では仕事が無かったからこっちに出て来たんだし・・・・」
「本当は親子3人で暮らしたいが、現実的な面を見ると、アウレリアが魔法スキルを授かった場合は難しいな・・・・」
「本来なら、魔法スキルを得る事は喜ばしい事なのにね・・・・」
「ポンタ村への移動は、ミルコ達にとっても歓迎できる仕事だと思うんだ。報酬を貰って自分たちの実家に顔を出して親兄弟の顔が見れるんだし、幼馴染だから本気で私たちの子を守ってくれると思うしな・・・・。定期馬車に乗っての移動だし・・・・」
「子供1人で村へっていうのは、やっぱり心配で。どこの家も余裕なんてないし。あっちへ行ってあの子が苦労するんじゃないかと心配で・・・・」
「でも、ここにいたら旦那様か長男のヘルマン様のお手付きにされて、子供が生まれたら子供だけ取り上げられるんだぞ。私たちの子は平民だから側室にすらしてもらえず、何の補償もないまま一生使用人で、何かあったら追い出される可能性さえある。そうなると自分が生んだ子供とは二度と会えなくなるんだぞ。私は娘をそんな境遇に貶めたくない」
えええええええ!!!この家ってそんな家なの?って、本当は私もちゃんと知ってたんだ。
5歳にも満たない子供だと思って、私が傍にいても大人たちが気にせず伯爵家の事情を赤裸々に話す事が結構ある。
だって、これだけスキャンダルのネタが満載な家なのに、主人たちの噂を外で漏らす事なんてできないから、自然と伯爵家の使用人同士で噂話に花を咲かせる事が多かった。
でも、前世と前々世の記憶が戻って大人の知性を得た私には、使用人たちのヒソヒソ話の意味がばっちり分かっちゃってたんだ。
この国の貴族は爵位継承の条件として魔法スキルの所持が求められる。
たまに魔法スキルの無い子が生まれても、何人も子供を作れば1人くらいはスキルを持っているのが普通なのだ。
しかし、このモンテベルデ伯爵家には、子供は二人しかいない。
第一夫人の産んだ長男ヘルマン様と、側室の一人である第二夫人が産んだ長女のファティマ様だ。
しかし二人とも魔法スキルを持っていない。
貴族が爵位を継がせる子供は魔法スキルを所持しているだけでなく、両親ともに貴族でなくてはならず、魔法スキルがあるからと言って平民や使用人に産ませても意味はないのだ。本来ならば・・・・。
だが、伯爵家では確実に魔法スキルを持った子供が欲しいため、伯爵は一部のスキル持ちの使用人にまで手を出している。
もし、彼女たちに子供でもできたら、秘密裡に貴族出身のいずれかの側室の子として届け出をするつもりらしい。
だけど、肝心の伯爵が数年前流行病に罹って、どうやら子種が出来なくなってるんじゃないかと屋敷の人たちは疑っているみたいなのだ。
なので後継ぎを作るのは魔法スキルを持たないヘルマン様に託される可能性もあると言われている。
そうなるとお相手はヘルマン様に近い年ごろの女の子も視野に入るわけで・・・・。
まだどんなスキルを授かるか判明する前から、父さんと母さんは私が主家に都合良く使われない様にと、色々な対応を考えてくれているみたいだ。
明日の鑑定の儀の結果如何では、両親とはしばらく会えなくなるかもしれない。
5歳で親元を離れて、一度も会った事のない爺さんの家に行くというのは、大人の記憶を持っていても結構キツイ。
どっちにしても私のスキルが魔法でなければこのまんま王都での生活だし、今からオタオタする必要はないのかもしれない。
でも、なんとなく予感があるんだよね。私、魔法スキルを授かるって。