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週明け、火曜、あややクラブの部室には、全員が揃っていた。
ミスコン男子の部で優勝を果たした闇王様に誰も「おめでとう」と言っていない。
恐らく男子の部では不正は行われていないだろうけど、女子の部は確実に不正があった。
そんな大会で優勝と言われても誰も嬉しくはない。
おやつを前にみんなでダイニングテーブルに着くと、「あれは辺境伯の娘で、皇子がダンスパーティの時エスコートしていた娘だ。一人しか貴族の女子を出場させなかったのは、他の貴族に遠慮なく彼女を優勝させるためだったんだろうなぁ」と闇王様が説明してくれた。
へぇ、皇子がエスコートしていた子だったんだ。
コンテストの時、どこかで見た事があるとは思っていたけど、ダンスの時は2年生の子なのかと思っていたから頭の中で記憶と全然繋がらなかったよ。
「どういう事ですか?」
いつもの様に勇者様は分からなければナチュラルに質問をするそのスタイルを貫いていた。
「複数の貴族家から女子の候補が出たとして、美しさだけで競うと言うのは主催者としては悪手なんだ。身分が関わってくる。特に貴族家当主から見て、自分の娘が優勝でなかった場合、例えば優勝したのが男爵家や子爵家の比較的地位の低い家の娘なら許しがたい事だろう。だから、候補者を募った時、貴族の女子は皇子が優勝させた貴族の娘一人だけ出場させ、いかさまをしてでもその娘を優勝させる。そうすれば、他の貴族は自分の娘が出場した訳ではないので気にならない。ましてや出場は辞退できるのだから、貴族の娘が平民に選ばれるなんて不名誉な事は許さないとかなんとか理由を付けて出場させなければ良いだけの事。これは皇子が仕組んだであろう壮大な茶番だな」
「でも、何でそんな茶番を?」
闇王様の説明は分かっても、まだ疑問があった勇者様は続けて質問した。
「問題はそこだよ。何故、辺境伯の娘なのかだ」
「アディの言う通りだな。辺境伯の娘はダンスパーティでも皇子本人がエスコートしていた。それまで自分を陰に日向に助けていたディアナ嬢は無視してだ。これは何かあるよ」
「そうだな。辺境伯にゴマをすりたい何かがあるのだろう。辺境伯の領地は帝国とは反対側の国境なのに、ゴマをすって何か利があるのだろうか・・・・」
「とりあえず、父にはこの事を手紙で知らせておくよ」
「ああ、オレもそうする。何かきな臭い」
「だね」
「それにしてもイベントクラブはあんないかさまをやって、来年も同じイベントをやる心算だろうか?」
「フェリーペの言う通りだよ。ってか、ミスコンだけでなく、学生は誰もイベントクラブの催し物には参加したくないんじゃないか?」
「あ、それはあるかも」
ザ平民ズの男子がイベントクラブの話をし始めた。
「皇子の留学って何時まででしたっけ?」
このフェリーペの質問に回答できる者はここにはいなかった。
元々あまり付き合いたい人ではないので遠巻きにしていたのもあり、あまり情報収集をしていなかったのだ。
平民ズにはあまり有益な情報でなくともザお貴族様ズには必要な情報だったはずなのに、闇王様たちも皇子があまり好きではなく、向こうからグイグイ来られていたから、避けたいという気持ちの方が大きかったのだろう。
皇子がどうして留学して来たのかとか、いつまでなのかとか、何の情報も無い様子。
「鳥人コンテストをちゃんと成功させないと、学園のイベント全体が衰退するかもな」
闇王様のその意見に皆無言で頷いた。
結局、その週からひよこクラブも入れて、鳥人コンテストの準備が始まった。
それにしても私達のイベントの前に、学生たちのやる気を下げる様なイベントはして欲しくなかったなぁ。
そう言うと、ペペ君が「今まであややクラブのイベントは全て成功しているし、面白いから大丈夫ですよ。学生もみんなそれはちゃんと分かってますから」と慰めてくれたけれど、機体を作ったり仮装をしたりする鳥人コンテストは出場者の準備も相当煩雑なのだ。
やる気が低下した状態で開催しても良いイベントにはならない。
「アドルフォ様。鳥人コンテストで出場者を募集する直前、何かやりませんか?」
気づいたらそんな事を言っていた。あう~。
「例えば?」
「例え・・・・例えばですねぇ・・・・例えば・・・・そう!クイズです!」
「クイズぅ?」
「はい。問題を出してyes、noで答えて貰うんです。そうですね実際にみんなでやってみましょうか。広い所が必要なので、作戦会議室の机を全部こちらへ寄せて下さい」とダイニングテーブルの横を指定した。
作戦会議室は何もなくなって広くなった。
「みんなここに立って下さい。この紐、この紐のこっち側がyesです。であっちがnoです。私が質問を出します。みんなは10数える間にどっちが正解か、正解だと思う方へ移動して下さい。では第一問!学園の現学園長は第1代目学園長、さぁ、正解はどっち?1、2、3、・・・・。時間です。そこまで!」
みんなNoの方に入っている。
正解だ。
「そんなのみんな知ってるぞ」と言うフェリーペを無視し、「では第二問です。学園長は第4代目ですが、第2代目学園長の名前はフェリーペ!さぁ、正解はどっち?1、2、3、・・・・。時間です。そこまで!」
段々と正解者の数が少なくなる様に質問の難易度を上げて行き、最後の2人になる頃にはみんなノリノリだった。
「こういうのを鳥人コンテスト出場者募集の声を掛ける時にやってみるんです。これなら長い紐と予め用意した質問だけで行えるイベントですから。どうですか?」
「先輩!僕、先輩はイベントの女神だと思います」
闇王様の返事の前に、ペペ君が異様に瞳を光らせて憧れの眼差しを私に向けて来た。
あちゃ~。




