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闇王様とセシリオ様はクリサンテーモの青の制服でミスターコンに出るそうだ。
フェリーペは一張羅を着るらしい。
実家が布も扱っているので、さぞ素敵な服を持っている事だと思う。
そう言えば、ダンスパーティの時もちゃんとした服だったな。
勇者様はアドリエンヌ様が作ってくれたダンスパーティの時のドレスに、自分でデザインしたカスミソウ風のブローチを付けて出るそうだ。
重くならない様に控えめに作ったみたいだ。
そうしないとリボンだけ重さで下を向いちゃったりしたら、ドレスの価値が下がっちゃうものね。
マリベルは女子の候補者を集めるべく東奔西走しているらしい。
それは彼女だけでなく、イベントクラブに所属しているメンバー全員が同じ様にあわただしく動いているとクラスの誰かが言っていたな。
まぁ、自分のクラブのイベントではないので私は関係ない。
気にせずランチに行きますかぁ。
いつもの5人で学食へ向かうため教室を出ようとしたら、マリベルがナナを引き連れてやって来た。
「アウレリア、あなたにお客様よ」
「え?誰?」
「廊下にいらっしゃるから早く行きなさいよ」
マリベルが敬語を使う相手・・・・。
とっても嫌な予感。
教室のドアの所から廊下を見ると、案の定、皇子とディアナ様が居た。
うわぁぁ~。めっちゃ嫌だ。
気づかないフリをしてそのまま学食へ行っちゃぁダメかな?
学食へバックレてもまた来るだろうから、嫌々ながらも皇子たちの所へ行くしかない。
残りの4人もゾロゾロと私の後ろをついて来てくれ、とっても心強い。
「やぁ。久し振りだね。おや、あややクラブのメンバー総出で来てくれたのかい?」
「こんにちは。何か用があるとのことですが・・・・」
「ああ、もう、君と同じクラスの女子がお願いしたと思うんだけど、ミスコンの候補者になってもらえないかなと思って」とにっこり微笑みかけて来た。
その横に立っているディアナ様は相変わらずこっちを睨んで来てるよ。
人にお願い事をする態度じゃないよね。
「申し訳ございません。私人前に出るのが苦手なんです。なので候補者にはなれません」
「そこを何とかできないかな?ステージに立つ時間は出来る限り短くする様にするから」
「あの、横からすみません」
目を三角にしたフェリーペが間に入ってくれた。
「なんだい?」
「本人が嫌がっていますので、候補者にするのは諦めて下さい。本人が望んで参加する心算があるのなら、俺も横から口を出したりはしませんが、この前から可成りシツコク勧誘を繰り返されているので、これはちょっと・・・・」
「無理強いをしている心算はないんだよ。お願いに来ているだけで・・・・」
「でも、何度も断っているでしょう?そして何で断っているかもちゃんと説明しているんだから、これ以上シツコクしないで頂けたら嬉しいですね」
皇子は私の方を向いて、「君のお友達は君の気持を代弁してくれている心算みたいだけれど、実際の君自身の意見や気持ちはどうなの?」と聞いて来た。
さっきから嫌だって言ってるのに、まだ私の気持ちを聞くんかいっ。
「先ほども申し上げましたが、出場する気は一切ございません。お力になれず申し訳ございません」
再度お断りすると、ディアナ様の目は更に吊り上がり、一歩前に出た。
彼女が口を開く前に、皇子が左腕を彼女の体の前に出し止めたので、それ以上は何もされなかったが、雰囲気は更に悪くなっちゃったよ。
ランチの前なのに・・・・。
美味しく食べられなかったらあんたたちのせいだからねと心の中でだけ悪態を吐いた。
「分かったよ。でも、もし気持ちが変わったら何時でも声を掛けて下さいね」と皇子がやんわり言って来たが、出る気は一切ない!
ないったらない!
5人で学食の席に座ると、「なぁ、女子の候補者が少ないならイベントそのものが成り立たないんじゃないか?」とフェリーペが小声で言い出した。
確かにそうだよね。
「お貴族様、特に女子が参加しないなんて思ってもみなかったよぉ~」とメグたんも少し困惑顔だ。
「平民も投票するから、平民なんかに選ばれるかどうか競うって言うのがダメなのかなぁ?」
「でも、俺、何となくその気持ち想像できるぞ」
「え?フェリーペが?」
「おい、リア。お前、俺を何だと思ってるんだ」
「え?あ、いや・・・・。今回の事はお貴族様でも女子だけの事だから、男子のフェリーペに想像がつくのかなぁって」
「考えてもみろよ」
フェリーペがそう言うと5人の頭は学食のテーブルの真ん中に更に集まった。
小声で話しても聞こえる様にだ。
「貴族って政略結婚してなんぼだろう?」
みんなが無言で頷く。
「男子は家を継げなければ何れ貴族籍から外されるから、自分で生きていく道を探さなくちゃいけないけど、女子は違うだろう?結婚してなんぼだ。それも貴族家を継ぐ男の所にだ。中には魔力持ちの子供を複数持つために、側室を何人も娶る家まであるんだ。容姿が良ければ寵愛も受ける事も可能だけれど、何か夫の気を引く長所が無いと悲惨な結婚生活が待ってるんだよ」
なるほどねぇ。
「一番手っ取り早いのが容姿が良いって事なのは、みんなも分かるよな?」
全員が無言で頷いた。
「実生活でも容姿を問われるのに、学園のたかがイベントで他の女子と容姿を比べられる。優勝すれば箔が付くけど、そうでなければ反対に不名誉になるじゃないかな?」
「「「「なる~」」」」
「2位であっても優勝でなければ7位と一緒だしな」
ランビットがボソっと言った一言に思わず頷いちゃったよ。
綺麗な貴族の娘でも、誰か一人でも自分より綺麗な娘がいれば、その子は2位になってしまい、2位なら4位や5位と一緒で順位が無く、ただ単に負けたと言う事実だけが残るのかぁ。
そりゃぁ、出場を断るよね。




