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「アウレリア、くず肉料理って何かないか?」
調理場の隅でランディと一緒に昼食を食べてる時に伯父さんが聞いて来た。
煮豚がヒット商品になって、伯父さんの中で私の『調理スキル』への信頼度がグンと上がった様だ。
最近は、色々と相談されてる。
実は『調理スキル』は持ってないんだけどね。
「くず肉料理ですかぁ」
私は前々世ではそんなに本は読まなかったが、平成・令和の時はいろいろ読み漁っていた。
口語体になってから読みやすくなったからねぇ。
玉村先生をはじめ色んな先生の本も結構読んでいて、日本の料理だけでなく、世界の料理や、料理の歴史なんてのも面白おかしく学ばせてもらっていた。
どちらかというと雑学系の本が多かったかも。
そこでくず肉料理と言えば、キドニーパイ!
パイは中身が見えないので、色んな物を詰められる。
産業革命時代のイギリスでは、口に出しては言えないとんでもないものまでパイに詰めて売っていた事例があったらしい。
それくらい中身が分からないって話だ。
まぁ、そんな猟奇的なケースは置いておいて、くず肉ならパイしかないよね。
もっと香辛料があったら煮ものや焼肉でもいいんだけどね。
でも、パイを作るとなると、どうしてもいる物がある。
バターだ。
私は今までこの世界でバターを見た事がない。
農家などで作って自分たちで消費しているのかもしれないが、伯爵家でも見かけた事がないので、商業ベースでは取り扱われていないのだろう。
フェリシアの家で、乳を集めてる家畜がいるかどうか聞いてみようかなぁ。
もし、乳があるなら、バターを作ってるか聞けるしね。
「伯父さん、くず肉を煮込みにする事は出来るけど、一番いいのはパンの中に詰めちゃう事だと思うんです。外から見えないし・・・・」
「パンかぁ・・・・」
「家、天火はないですよね?」
「うん。パンはガストの所から買ってるからな」
「あ、ガストはラーラの父ちゃんだよ」とランディが横から口を挟んだ。
おシャレ大好きラーラの父さんかぁ。
「この村では子豚の丸焼きとか大きい鳥の丸焼きの時はどうやってるんですか?」
「それは、ガストの所の天火を使わせてもらうんだよ。1回1000ペリカだったかな」
1ペリカは1円くらいの価値だ。
「その価格は回数で決まってるんですか?焼く物の大きさとか、焼く時間とか?」
「天火の使用回数だな。焼くものの個数ではないな。薪もこっちが提供せにゃならん。で、もちろんガストがパンを焼く時間は使わせてもらえないぞ」
「う~ん。となると、いっぱい作って一度に焼けば、元は取れるかもしれないですね」
私がうんうん唸って悩んでると、まずはどんな物か説明して欲しいと伯父さんと爺さんから要望があった。
「あのですね、パンって言いましたけど、パンに似たパイと言う物で具材を包んで焼くものです、パイには動物の乳で作ったバターが必要になります。でも、牧場をやってる人に聞かないとバターが作れるかどうか分かりません」
どうしてもダメなら、パンで包むって事もできるかもだけど、パンだとフィリングの量が少なくなりそうだし、詰めるのもパイの方が簡単だと思う。
爺ちゃんが顎を人差し指で軽く叩きながら考えていた様で、ポツリと言った。
「バターかぁ。聞いた事はあるけど、家では使った事ないな」
「え?聞いた事があるんですか?」
「ああ。牛だったかな?ヤギだったかな?乳を取って、発酵させた物を食べてた気がするよ」
「え?それはチーズでは?」
「あ、チーズって名前だったかもしれん」
まぁ、名前は私も知らない。地球での呼び方しかしらないから、今も日本語で発音したけど、この世界にあったとしてもきっと別の名前だろう。
しかし、チーズがあるならバターもあるかも!!
これは今度フェリシアの家に遊びに行く時に聞いてみよう。
学校じゃない日にも婆ちゃんの家へ行かせてくれるって言ってたものね。
「今週末の学校の日に、バターについてフェリシアに聞いて来きますね。それとも急ぎなら明日にでも行ってみますが・・・・」
「お!そうだったな。セレスティーナに会いに行かせてやりたかったからな。丁度良い機会じゃな。マノロ、明日の夕方あたりに行かせてやったらどうだ?」
「まぁ、父さんが野菜の下拵えをしてくれるなら、俺はそれでいいが・・・・」
「ああ、下拵えは儂がやるぞ。よかったな、アウレリア。遠慮せずに行っといで」
「ありがとう。爺さん」
そう言うと、爺さんが私の頭を撫でた。
これでバターについては一歩前進だよ。
果たしてバターはあるのか!!




