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「では、よーい、はじめっ!」
ひよこクラブ副部長のベレンちゃんの掛け声で、あややクラブチームが右側のレーン、ひよこクラブチームは左側、そしてドナルド先生がゴール付近で10分砂時計2台をひっくり返した。
レーン脇の観覧席には可成りの数の生徒が座って、この試技を見ている。
立ち入り禁止で紐を張っていたはずなんだけどなぁ・・・・。
だって、私たちの試技を見ると攻略のヒントになるかもしれないので、わざわざ紐に『立ち入り禁止』という紙を何枚か張っていたのに・・・・。
スタートしてすぐに細長いと言っても横幅がレーン幅ギリギリまで広がっている落とし穴が口を開けている。
なのでレーンから外れない限りはこの落とし穴の中か上を行くしかない。
アドリエンヌ様がレーンの右側に積まれている土を半分だけ魔法で運び、落とし穴の中へ入れた。
皆が飛び降りて落とし穴に移動されて少しだけ固められた土の上を走る。
半分だけ土を入れるのは昨日の作戦会議でランビットが提案した手法だ。
ウチのチームで土魔法を使えるのはアドリエンヌ様しかいないけど、土魔法を使う障害物は他にもあるので、魔力消費を抑える意味で半分だけ移動させたのだ。
半分の深さになったので、飛び降りる時も衝撃が少ないし、出口の方は少しだけ厚めに土を盛ってくれているので、男子なら問題なく落とし穴から這い出る事ができる。
女子は外から男子に手をひっぱって貰えば良いので、この作戦、結構いい感じだ。
落とし穴を出て5~6歩程歩くと業者の人が作った木製の平均台が据えられた通路があり、その細長い平均台を縦一列になって渡らないといけない。
アドリエンヌ様はレーン右外に積まれている残り半分の土を使って平均台の上に土の板を作りだした。
幅は70センツくらい。
1マートルくらいあると安心だけど、歩くだけなら70センツで十分。
魔力温存です。
隣のひよこクラブの先頭が私たちより数歩前を走っているのが見える。
恐らくひよこクラブは土魔法の人が多いのかもしれない。
それかあっちの方が女子生徒が少ないので体力的に有利なのかも?
でもそれを言ったらこっちの方が1学年上なので、実年齢も上の人が多いんじゃないかな。
だとすると条件はどっこいどっこい?
「負けられん!」と言う闇王様の一言でみんなの走る速度が少し上がった。
平均台から落ちたら落ちた人だけだけど、また平均台の最初からやり直さなければならないので、ここでは土魔法が必須だね。
平均台が終ると次は水地獄だ。
プロの工事の人たちが、レーンの真ん中に縦長の柱を4本立てその上にプールを設置してくれており、その中に水が入っているのだ。
水地獄ゾーンの入口にはレーン幅いっぱいの板が渡してあり、かならず踏まないと先には進めない様になっている。
そして、その板を踏むと上の水槽部分のストッパーが外れ溜めてある大量の水がザァっとプールから降って来る仕組みを作っている。
セシリオ様が板の所に立ったまま上空に向けて風魔法を大盤振る舞いしている。
少しポツ、ポツっと雫は落ちてくるけど、びしょ濡れにはならない感じ。
私たちが渡り終わると、水槽の中は空になっており、セシリオ様は水を気にせず走って来ようとした。
隣のレーンは土魔法で頭上に板状のモノを呼び出してその下を走っているみたいだ。
あっ!一人すってんころりんって転んでる。
ん?何でかなと思ったので衝立の方へ走りながら隣のレーンをチラっと見た。
床がどろんこになっているのだ。
ウチのチームは水を外へはじき出しているから足元はあまり濡れていないけれど、ひよこクラブの方は板の横から板の下へ水が入り込んでいて足元の土が泥と化したのだろう。
水地獄も細長いエリアなので、エリアの初めから終わりまで移動するのに少し距離があり、水はそのエリア全体に同時に水を落とすので、終わり付近に到着する頃にはその辺りの土が泥となっており足を取られたんだと思う。
こっちのチームは今フェリーペが皮を焼き切り、昔のサーカスで猛獣たちがやった火の輪潜りの感じで皮があった所を走り抜ける。
すぐに水路が待っていたが、私達より先に進んでいた闇王様が水魔法でレーン右にある貯水池に水を全部移動させ、アドリエンヌ様が水がなくなって顔出した土の部分を土魔法で固めてくれた。
アドリエンヌ様も隣のレーンで一人が転んだのを見てたんだと思う。
足元がしっかりしてるのはありがたいっす。
「最後だ。走り抜けるぞ!コケるなよ!!」
闇王様の号令でセシリオ様が振り子を風魔法で外へ向けて圧を掛けている。
ここも水地獄と同じで振り子を機械的に止めていたストッパーが振り子地獄ゾーンの入口にある板を踏む事で外れるのだ。
もう一人の風魔法の使い手であるボブを優先させ彼が出口付近に到着すると、今度はボブが魔法を発動させ、走る為に魔法を止めたセシリオ様が全力で走り抜けた。
「ゴール!」
ドナルド先生の楽しそうな大声が響いた。
観覧席に居た生徒たちから拍手が起こった。
左のレーンを見たら、ほぼほぼ同時にゴールしたみたいだった。
10分の砂時計は残り僅かではあったけれどまだ全ての砂は落ちていなかった。




