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父さんはホットドッグのお店の事は任せてくれと言ってくれた。
本当に小さなお店になるだろうが、安全だけは確保できる様にするとのこと。
ウチのホテルチェーンで自身も忙しい中、嫌な顔をせずに対応してくれるところが、とっても優しい父さんらしい所だ。
モナミの将来も、ホットドッグ屋も暫く時間を置けば解決する目処が立ったからか、ウチの店で働いてくれているナスカたち孤児院組も大分落ち着いた様だ。
ナスカからは、アイドルタイムになる度に孤児院へ顔を出したいとのことだったので、仕事の時間までに帰って来られるならどこへ行っても自由だよと言うとすごく感謝された。
休憩時間は自由なんて当たり前の事なんだけれど、この世界ではそうでは無いのかもしれない。
でも、私は日本での就業環境しか知らないので、こちらの奉公人からしたら戸惑うところもたくさんあるのかもね・・・・。
モナミの事は心配だけれど私がウチに残っても何も出来ないし、明日、月曜にはこの週末外注に出していた魔法障害物競争の2レーンが出来上がっているはずなので、それこそ安全性とか色々チェックしなくちゃいけない。
だから、学園を休むと言う選択肢は私には無かった。
この週末は本当に色々あったし、可成り疲れてしまったけど、家のエイファが初めて「ねーね」と言ったのでそれで一気に心が晴れた。
まだちゃんとした言葉は喋れないので、たまたま偶然「ねーね」に聞こえる声を発しただけかもしれないけど、姉としてはとっても嬉しいのだよ。
家のエイファは可愛いしね。
髪は薄いけど・・・・でも、顔は母さんに良く似そうで、つぶらな瞳が可愛いのじゃよ。おほほほ。
家族全員で3階で夕食を摂って、お風呂に入って、父さんが手配してくれた貸馬車で学園寮へ。
あああ、モナミも心配だし、エイファと離れるのは寂しいけど、お姉ちゃんはちゃんと学園へ行ってくるよ。
日曜の夜はいつも出来るだけ遅い時間に寮に入るので、メグたんは部屋に居るだろうけど、顔を見るのは何時も月曜の朝、寮の食堂でだ。
ということで、自室に入ったらすぐに寝る支度をして、寝ちゃった。
翌朝、食堂には既に全員揃ってた。
「おはよう、リア。今日は少し遅かったのね。もう少し時間が掛かる様なら、上まで迎えに行こうかと思ってたところだよ」と、ひまわりの様な明るい笑顔を勇者様が向けて来た。
「うん、週末に色々あってちょっとお疲れ気味なのよん」
「「あはははは」」
「今日は、あややクラブの障害物競争のレーンの確認があるぞ」と何時になくワクワクしているフェリーペが朝から無駄に元気だ。
「あああ、僕は錬金術クラブの方を外せないからなぁ~」
「まぁ、ボブの代わりに俺が見て来てやるよ」とフェリーペがボブを慰める様に肩をポンポンしている。
「寮から教室棟への移動の時、どうしてもレーンが目に入るから、他の生徒たちのリアクションが楽しみだよな」
ランビットは魔法障害物競争、本気で楽しみにしてるんだね。
心の底からワクワクしているのが、その落ち着かない様子の体の動きとほほ笑みが引っ込む瞬間が無いその表情から伝わって来る。
「安全チェックは面倒くさいと言えば面倒だよねぇ~」なんて愚痴がついつい口から出ちゃう。
「でもさぁ、どこで何の魔法を使うんだろうって想像しながらチェックするの面白くねぇ?」
「なんか、フェリーペは自分も選手として参加したいんじゃない?」
「おお!俺は自分が参加したいぜ。メグは違うのかい?」
「う~ん、どっちかって言うと参加したいけど、裏方が忙しそうだしね~。参加するとしたら来年?」
「そうなんだよなぁ。俺、鳥人コンテストにも実は参加したかったんだよな。お前らは違うの?」
「あ、僕は参加してみたい。来年、みんなで参加してみる?来年ならイベントは全部僕たちの手を離れてるから出場チームとして参加できるしね」
「俺も参加したいけど、魔法障害物の方は魔力が無いから参加できないかな~」
ランビットが寂しそうに言うモノだから、私は別に参加したいとは思ってなかったんだけど、「チーム全体で障害物を乗り越えるんだから、魔力うんぬんは関係ないと思うよ」と言うと、ちょっと嬉しそうな顔になっていた。
でも、こうして話してみると、実はイベントには自分たちが参加したかったという気持ちを抑えて裏方を手伝ってくれてたんだなぁ。
何か少し申し訳ない気持ちになったよ・・・・。
「でもさぁ、私、あややクラブに入ってなかったら、イベントってどうやって考え付いたり、運営するのか知らなかったから、すんごい経験をさせてもらってるんだな~って思うよ」
うううう、勇者様、ありがとう!
「そうだな。この前さぁ、闇王様と二人で作戦会議室で話してたんだけど、闇王様の父さんにイベントの企画は勉強になるから本気でやりなさいって言われたんだって」
「「へぇ~」」
フェリーペはよく作戦会議室に居るから、同じ様に作戦会議室大好き少年の闇王様と二人キリであそこに居るもんね。
二人で話す機会もあったんだね。
「さて、皆食べ終わったか?じゃあ、レーンを横目に見ながら教室棟まで行こうぜ」
フェリーペに先導されて私たちはレーンの全容を見れる様、少し早めに寮を出た。




