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料理魔法なんて魔法あったんだぁ  作者: 花明かり
天色の章 <後半>
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 モナミは成人してから、同じ年に成人となった孤児院仲間と狭いアパートを借りていた。

 でも、夜働いている子が殆どなので夜中にモナミが痛がってもアパートには誰もいないだろうということで、その夜は孤児院の空いているベッドで寝かせてもらう事にした。


 モナミの事は気になるけれど、私は明日の夜には学園に戻らなくてはいけない。

 何から手を付けた方が良いのか?


 モナミの様態は孤児院の院長が責任を持って落ち着くまで預かり、様子を見てくれるとのこと。

 となると、モナミたちがやっていた屋台の問題がある。

 ハミラとモナミで火を扱う作業をしていたのだ。

 モナミがいなくなるとハミラ一人で調理する事になるのだが、それだと作業量が多い。

 キャパシティを超えた作業量になると、今度はハミラが疲れから注意散漫になり怪我をしてしまうかもしれない。

 また、今度、近くで喧嘩する様な人が出て来たとしても、まだなんの対策も取れていないのだ。

 同様の惨事が起きないとも限らない。

 これも大きな課題だ。


 モナミを手伝ってホットドッグの屋台を一緒にやってた子に確認すると、屋台そのものを辞めると言うのもありかもしれないが、孤児院に定期的に入って来る収入源でもあるので続けたいとのこと。

 

 私は、屋台は辞めるべきだと思った。

 そう、屋台ではなく、小さなお店を作ろう!

 

 屋台だと、日によっては良い場所を取る事が出来ず、いろんな意味で安全性が確保できない場所での営業になる事もあるかもしれない。

 事実、今回、一緒に居た小さな売り子のモンチャに聞いた所、屋台の背後には壁があったけど角地であったため、男たちが争った左方向には壁が無かったとのこと。

 両脇に別の屋台があれば今回の様にはならなかったかもしれない。


 この問題を解決するには、調理中、誰にもぶつかられる事のない場所を確保するしかない。

 屋台くらいの大きさの店で良いのだ。

 いつも彼らが屋台を出す辺りの空き家の一部を何とか購入して、ホットドッグ屋として営業する様にすれば良いのだ。


 もちろんその費用はウチで出す。

 社会奉仕の一環だしね。

 同じ様な事をいつも大公様が私にして下さっているので、私たちも出来る範囲で別の人に同じ様に力になる事で、大公様の御厚意に少しでも報いる事が出来ればと思ってる。

 うん!親切の連鎖だね。

 父さんなら絶対反対しないはず。


 となると、今度はモナミの将来の事だ。

 右手が使えないとなると料理は出来ないだろうし、もちろん裁縫も出来ない。

 彼女のルームメイトたちみたいに夜の店で働くと言うのも火傷した手を見られたらお客に気持ち悪がられるかもしれない。

 顔に痣があるだけで不吉とか言われる世界だもの、そういう事も十分考えられる。

 何より、夜の商売をするのは昼の仕事に拘っていたモナミには酷だ。


 右手が十分に動かなくても出来る仕事って何だろう・・・・?

 ウチのレストランで雇ってもいいけど、料理も出来ないだろうし、給仕も無理、クロークは出来るかもだけれど、お貴族様が火傷を負った手を見て何を言うか分からない・・・・。

 庭仕事も利き腕が使えないのなら・・・・っ!!!!そうよ!ホテルの掃除係!

 お客さまの目に直接入る事はなく、確かに指が開かなければ不自由だろうけど、道具を工夫すれば掃除は出来ると思う。

 よっし、これだ!


 今、モナミは医者が処方した薬を飲んで寝ているので、起こしてまで話す内容ではない。

 だって寝ている間は痛みから少しでも離れていられるんだもの。

 寝れるだけ寝させてあげたい。


 私は院長先生と院長室へ行き、話し合いの場を設けてもらった。


「先生。ホットドックの屋台ですが、孤児院の収入源として可成りの金額を稼いでいると思っておりますが、間違いないですか?」

「ええ。ありがたい事にそうなんですが・・・・今回、こういう事が起こってしまうと、子供たちに火を使う仕事をさせて良いものかどうか・・・・」


 良かった。

 子供たちの事を第一に考えてくれる院長先生で。

 

「火、そのものを使う事に問題は無いと思っています。年長組さんや成人して孤児院を離れた人の中から調理担当をと言うのは今まで通りで良いのではないでしょうか。問題は、屋台です。どれだけ自分たちで安全に気を付けていても、今回の様に向こうから災難がやってくると怪我や火傷、もしかしたら盗難とか色んなリスクがありますよね」

「え、ええ・・・・」


「まだ、私個人の考えで父の意見を待たなければいけませんが、小さなお店を購入し、孤児院で使ってもらえたらと思っています」

「ええ!」

「屋台くらいの本当に小さな店であっても、安全に調理できれば良いので、小さなお店を購入するか、宿屋などの端っこのスペースを借りて、そこを専用のコーナーとして使わせてもらうかというのを考えています。コーナーであるのならば、周りは木とかレンガで覆って、火を扱っている人にいろんな人が干渉できない様にします」

「それが出来たら大変ありがたいのですが・・・・」

「社会奉仕も兼ねていますので、父さえOKしてくれ、適当な物件があったらこの話は進めたいと思っております」

「あ、ありがとうございます」

 院長先生の目にはキラっと光る物が見えた。


「モナミさんの事です。これからは調理は出来ません。なのでホットドッグのお店はハミラと後もう一人成人に近い子に調理をしてもらう様になると思います」

「それは問題ないと思います。料理の出来る子が増えて来ておりますので、新しい人員はおります。でも、モナミが・・・・」


「モナミの怪我が治ったら、私が今進めている新しい事業、高級宿屋で掃除の係として雇います」

「えええ!?本当ですか?」

「はい。モナミは今まで真面目にホットドッグの屋台をやってくれたのを知っているので、人物として信頼出来ます。掃除なら利き腕があまりスムーズに動かなくても、道具を工夫して掃除出来る様に出来ますので安心して下さい。ただ、宿屋の開店が夏以降であることと、王都ではなく田舎の村が職場になります」

「そんな事何でもない事です。あの様に利き腕が使えなくなった、しかも後ろ盾のない孤児がまともな仕事を得られるだけで奇跡の様なお話なのです。本人も喜ぶと思います」


「先生、私は明日の夜、学園に戻らなければいけません。モナミには先生の方から伝えて頂けますか?」

「もちろんです。ありがとうございます」

 院長先生は何度も頭を下げた。


「お店の方はまず父の了承を得てからになりますし、物件を探さなければいけないので時間が掛かります。その間、ホットドッグの屋台から上がっていた売上げは入らなくなりますが、大丈夫ですか?」

「はい。蓄えがあるので1月とちょっとくらいでしたら問題ありません」

「分かりました。では、今日はこの辺で。モナミが痛がるかもしれません。気を付けてやって下さい」と言って、ナスカたちと一緒に家に帰った。

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