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ポンタ村には教会の他に村人や旅行者が立ち寄る建物がもう一つある。
学校で紹介されたランディの友達パウロのお父さんが村長で、その役職にある者が所有する『役場』というものがそれである。
村長としての書類仕事を熟す事務所と、冒険者及び商業ギルドの出先機関としてのスペースが用意されている。
通常、ここで働く職員は1人だけ。
ガリシアさんだ。
結構年齢がいっており、色白の痩せたおじさんだ。
村役場職員、冒険者ギルド受付、商業ギルド受付という1人三役なので、オールマイティに仕事の出来る人ということで採用されたらしい。
優秀なのだろう。
戸を開けると、「カランカラン」とカウベルが鳴った。
「こんにちは~。冒険者ギルドに用があって来ました」
「おっ!ドローレスかぁ。麦畑のみんなが村に帰ってるのかい?」
「ガリシアさん、こんにちは。ゴンスンデまで仕事に行く途中に寄ったんです」
「そうか。で、今日は何だ?」
「こっちの嬢ちゃんが私たちに依頼を出したいそうなんです」
ガリシアさんはこちらをギロッと睨む様に見た。
「あ、お前はマノロんところの居候だな」
今まで見た事もないし、言葉を交わした事もないが、あっちは私の事を知っているらしい。
「ガリシアさん、こんにちは。アウレリアと言います。ギジェルモとレティシアの子です」
「そうかい。これは丁寧な自己紹介をありがとうよ。で、どんな依頼なんだい?」
「はい、ここからゴンスンデまでの往復の間に、料理に使えそうな植物の種とか、実とか、差し木に出来そうな物を採集して来てほしいんです。これは料理に使うのではなく、育てるために欲しいんです。支払いは、父さんからもらったお小遣いからになるので、高額な料金は支払えません。どんな感じで依頼をすれば良いですか?」
ガリシアさんはこの突飛な依頼をどう捌くかしばらく悩んでいたが、「そうだな。ギルドの買い取り表の値段を適用して、上限の金額を設けるってのはどうかな。通常の依頼は実の収集なんだが、種であっても実と同じ値段で良いか?」と提案してくれた。
「はい、それでお願いします」
「で、お前が欲しいのは具体的にどんな物だ?」
「何でもいいんです。果物でも、野菜でも、香味野菜や香辛料、本当になんでもです。ゴンスンデまで移動するのなら重い物や嵩張る物は避けたいんじゃないかと思うので、運べる物だけでいいです。種類は多い方が良くて、種の形での入手が難しければ、実のままでいいです。珍しい物大歓迎ですが、ありきたりのものでもいいです」
「ふむ。では、一つの種類は2つまでで、できるだけ多くの種類を。最低採集数は決めず、上限金額を超えないこと。期限はお前たちがゴンスンデからこの村に帰ってくる時まで」
と言いながら、それを板2枚に書き付けて行く。
別の板には、買い取り表の中から主な植物だけを書き出し、値段が分かる様にしてくれた。
ガリシアさんが書いてくれた依頼書2通にサインすると、一部はギルド保管となり、もう一部は麦畑の誓が所持することになった。
「よろしくお願いします」
「ええ、分かった。たくさん採取してくるから、楽しみにしててね」と言って、ドローレスは再び私の手を握り、『熊のまどろみ亭』に戻った。
私達が戻る頃には、残りのメンバーも既に昼食を済ませており、すぐに出発して行った。
私は短くなったお昼寝時間を有効に使うべく、さっさと部屋に戻った。
まず、父さんたちからの手紙を読んだ。
こちらから出した手紙の返事が書いてあった。
私が元気にしているかどうか心配してくれていた。
父さんも母さんも変わりないみたいだ。
館のみんなの事も面白おかしく書いてくれていて、封筒の中には銀貨が2枚入っていた。
何かの時には使う様にと・・・・。
こういう親心もありがたく思うし、触れば中にお金が入っている事が分かっているのに、麦畑の誓のみんなは封を切る事なく、ちゃんと私に配達してくれていた。
その事にも感謝の気持ちでいっぱいだ。
ベッドに入り、お昼寝するべく一息つくと、嬉しさで「ククク・・・・」と笑いが漏れた。
無事、麦畑の誓に依頼が出来たからだ。
この依頼は、彼らにいろいろ採集してもらうのが狙いではない。
本当の目的は、彼らが採集して来た物の中に、自分のスキルで作り出した苗や種を混ぜることにあるのだ。
これなら見慣れない植物を育てていても、誰も不思議に思わないだろう。
我ながら良いアイデアだと思った。
支払いは父さんから貰っていたお小遣いからなので、頻繁に依頼することはできないが、王都を離れる時にも結構な金額をもしもの時にと貰っていたのだ。
今回の手紙に入っていた銀貨もある。
季節毎に麦畑へ同じ依頼をするくらいは出来るかもしれない。




