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ヤンデーノでのガラスをスキルで呼び出したら、一路船でゴンスンデの近くの漁港のある村へ移動する事になった。
その方がチンタラ馬車で来た道を引き返し、ポンタ村からゴンスンデを目指すより早いのだ。
馬車は大公様の紋章が入っているので、この馬車での移動では盗賊などに襲われる心配が無い。
王族の馬車を襲う馬鹿は捕まれば一族郎党が斬首になるし、普通王族の馬車なら腕利きの護衛がいるのが当たり前だし、現王なら政権転覆を狙ってイチかバチかってのはあるだろうけれど、王位継承権は持ちつつも老人の大公様を襲っても政治的にもあまり意味が無いらしいので、よっぽどの物好きでなければ襲わないだろうとのこと。
後、大公さんが抱えている御者さんたちが実は護衛も兼ねる凄腕さんらしいので、よっぽどの人数差が無ければ普通に安全らしい。
例えばヤンデーノで馬車だけ空で陸路移動した場合、ゴンスンデから貸馬車が必要になるけれど、その場合は霊験あらたかな大公家の紋章が入っていないので、護衛などを多数頼まなくてはいけなくなり、護衛の移動用も必要になり馬車は最低でも2台になってしまう。
なので馬車も船に載せてもらっているのだけれど、問題はゴンスンデ近くの漁港だ。
喫水が大型船の乗り入れを許す程ない小さな漁港なのだ。
それを心配していたら、漁港近くで筏に載せて運ぶとのことなので、大変ではあるが無理では無いと聞き、ちょっと安心しちゃった。
結局大きな船を借りて馬車も載せ、漁港近くで筏を用意し、ゴンスンデから王都までの物々しい護衛の手配をする事なく移動する事になった。
だって護衛を雇うとしてもちゃんとした冒険者が来るかどうか賭けの要素が高いし、それを避けるなら乗合馬車になるが、そうすると村々で何度も停車するので移動日程がぐ~んと長くなってしまうしね。
ゴンスンデでもガラスは呼び出しをするけれど、まだ工事は始まっていないので、屋根付き倉庫だけを現地の大工に頼んでいるそうだ。
モリスン村の吹き抜けのガラス窓の様に、自分の思い違いで必要なガラスが抜けていたら問題なのだけれど、学園もあるし、そんなにしょっちゅう工事現場へ行ける訳ではない。
落としたりして割れる事も考え、他の現場でも少し大目にガラスを呼び出していたんだけれど、ゴンスンデはそれ以上に予備を用意した。
今回も勇者様の家を訪ねる事なく、ちゃっちゃとナイトル村へ移動する。
ガルフィールドさんは馬車の移動でだけれど、必要となるレールの総延長を体感しながらの移動なので、段々顔色が悪くなって来ている。
だって、国土の南北と東西それぞれ端から端までだもん、そりゃぁ、すごい長さだよ。
一度に敷設なんて無理に決まっている。
だから、ダンテスさんも交えて馬車の中で話した所、まずは街道の整備が満足にされていないモリスン村とヤンデーノ間から始める事になった。
こういう話も乗合馬車だったら他の乗客がいるだろうから無理だっただろうけれど、自分たちだけの馬車だったら話題を選ばなくても意見交換できるのでありがたい。
土地の取得は大公様が進めてくれるので、まずはそこから始めないとだね。
一区画でも土地の取得が出来なければ、鉄道自体を敷設することが出来ないからね。
そういう意味では現王の伯父という立場は可成り有利らしい。
これが侯爵だったり、辺境伯とか中途半端な高位貴族で派閥争いをバリバリにやってる家だったりすると敵対する派閥の土地は買えないと言う事態も考えられるんだけれど、大公様は王位継承権を持っているので派閥に入っていても派閥にテコ入れ等はしてはいけない地位の方だし、後継者もいないので変な色気も持っていない。
でも、王族ということで力はあるので、よっぽどでない限り土地は売って貰えるハズとのこと。
ダンテスさんが、私にも分かる様にそう説明してくれた。
馬車はナイトル村へ到着した。
工事はまだ土台部分までしか進んでいないが、モリスン村の工事をほぼほぼ終えた後に着手したとしたら、やっぱりすごいスピードで工事が進んでいる事になる。
「これはこれはダンテス様、ギジェルモ様」
髭もじゃもじゃの棟梁が私たちが乗って来た馬車を見て、駆け寄って来た。
「棟梁、こちらが各ホテルの責任者のアウレリア様です。ギジェルモ様の御令嬢でもあります。幼いですが大公様の精鋭のお一人です」
「これはこれは」
「アウレリアです。よろしくお願いします」
貴族と対する事が多いのか、髭もじゃもじゃのくせに腰が低い棟梁だ。
私の背丈に合わせてしゃがんでニッコリ笑ってくれた。
「モリスン村の工事を拝見しました。とても丁寧に作って下さって、ありがとうございます。これからこのナイトル村、そしてその後、ゴンスンデのホテルもこのチームで建設して頂けるとのことで、とても楽しみにしております」
「はい、ありがとうございます。しかし、小さいのに大人顔負けですなぁ」
「ありがとうございます」
「流石、大公様の精鋭のお一人ですなぁ」と、棟梁が尊敬の眼差しをガルフィールドさんと私へ向けて来た。
前に大公様の館であった精鋭の晩餐会でも聞かされた事があったんだけど、大公様の精鋭と言うだけで物づくりの職人たちには憧れの的らしい。
学園では味わう事のない大公様の精鋭という看板の旨味を、今回初めて肌で感じる事が出来たと同時に、その看板の重みに思いを馳せた。
この高級ホテルチェーンも大公様の精鋭だから、大公様からの援助だけでなく、関わっている職人たちの意気込みが他の一般的な工事とは違うと言う事も棟梁が教えてくれた。
「大公様の精鋭の皆さま方は例外なくその道で成功されていらっしゃいます。アウレリア様の様な年端も行かない方であっても既に国内で一番の食堂を経営されていらっしゃいます。私はそこで食事した事はありませんが、憧れの食堂なんですよ。ウチのばあさんなんかも死ぬまでに一度くらいフローリストガーデンの食事を食べてみたいって言ってますよ。まぁ、だからと言って連れて行ったとしても着て行く物すらまともに持っちゃいませんし、テーブルマナーも知らないのでその事が気になって味なんて分からないでしょうけど・・・・。それでもフローリストガーデンの料理が国一だってことはみんな知ってる事ですからね。夢見るのはタダですしね・・・・。あはははは」と棟梁に言われ、一般の人たちがフローリストガーデン光とそこで提供される料理をどう思っているのか、期せずして知る事が出来た。




