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結局その日、私はスイカズラ工房へ寄る事は出来なかった。
ダンテスさんが直ぐに奥の私室にいらした大公様にお伺いを立て、私が大公様へ鉄道の説明をしている時、急遽精鋭の何人かを呼び出してくれていた。
製鉄業のトップ、ガルフィールドさんや、漁師のペドロさんをはじめ、今王都にいる精鋭全員に招集が掛かった。
大公様へは鉄道の何たるかよりも、鉄道がどの様に利益を生むかについて力説させてもらった。
だって、鉄道を作る話になると、精鋭の先輩たちが来てから二度同じ話をする事になるので、まずは鉄道が何を齎し、実施する際の問題点は何か、そして鉄道で利益が出たら高級ホテルで出してもらっている初期投資の返済に充ててもらえないかについて話させてもらった。
「儂はもうこの年じゃ。そう何年も生きてはおれんじゃろう。だから返済に拘る必要は無い」
大公様には、彼の財産や地位を引き継げる者がいないと言う事もあり、返済にはあまり食指が動かない様だ。
「それよりも、儂が死んだ後でも精鋭の者たちが苦労する事のない仕組みを作れる事の方が重要なのじゃ。大公精鋭社とでも名付けた商店を立ち上げ、その鉄道事業とやらに精鋭全員が参加し、国内の運輸を一手に引き受ける様にすれば、誰にも侮れないであろう?」
「それは、運輸を掌握すれば、物資や人の運搬だけでなく、郵便事業や新聞事業なんかもできちゃいますしね。経済の殆どを握る事が出来ます」
「ん?郵便とはなんじゃ?それに新聞とは?」
この世界にはまだ無いサービスなのだ。
「お金ではなく、手紙や小さな包みを一定の料金で届けるサービスです。重さと距離によって値段が決まります。安全であればお金も運べますが、最初からお金は取り扱わないと明言しておけば、野盗などに襲われる心配もありませんから、スムーズに手紙を運ぶ事が出来ると思います」
「手紙とな?」
「はい、商人などは違う街の商人と取引しやすくなるので、利用者は大いに見込めると思います。それに鉄道を使えば通常より早く届ける事が出来る様になるので、更に便利です」
「ほほう。で、新聞とは?」
「鉄道の駅がある町や村で事件が起きたらそれを記事にするのです。何時、どこで、誰が何をした。儲かった。倒産した。事故が起こって何人怪我人が出た。どこどこ地方の例えば羊毛は今年は不作だとか、そう言った細かな情報を集め、一か所でそれを纏めて紙面に書き込みます。同じ物をたくさん印刷して、それを売ります。つまり情報を売ると言う事です」
錬金術の装置で印刷と同じ事が出来るので、印刷そのものはこの世界にもあるのだ。
「ほほう。貴族や商人には情報は価値あるものだから、皆こぞって買うじゃろうな」
「はい。商売の事だけじゃなく、社交界のゴシップとかも載せるとセンセーショナルな記事が増え、ゴシップ好きの貴族なんかにも売れるかもしれません」
「ふむ。これは鉄道とやらを成功させる事ができれば、精鋭たちの将来は安泰になるな」
「はい。ただ、王権や貴族等平民より上に立つ者に取り上げられなければですが・・・・」
「それは儂が甥に良く言って聞かせるから問題はない」
「ははっ」
甥って現王じゃん。
今更ながら王家の方なんだなぁと実感したよ。
この様なやり取りをした後で、大公様と一緒に精鋭の皆さんが待つ会議室の方へ移動した。
「なんと!この方法だと魚を早く輸送できますな。氷が解けるまでの時間は同じとして、運べる距離が延びると言うことか・・・・。うん、いいな」
「鉄を加工するという事なので、俺が作る事になると思うが、このレールというのがツルツルなくらい研磨されてなければいけないというのがちょっと難儀だな」
ガルフィールドさんは、もう作る者の視点で考えてくれているみたい。
「あのぉ・・・・」
「なんじゃ、アウレリア、言うてみぃ」
大公様のお許しを得て、「問題は、鉄道を敷くには土地が必要で、それは今のところゴンスンデからヤンデーノまで必要という事です。間には別々の領主が管理する土地が複数横たわっています。今後の事を考えると土地は借りるのではなく買い上げが一番です。それが出来るかどうかが、レールを作ると言うよりも前に大きく横たわる問題と言えます」
「ふむ。細長い土地を国の端から端まで購入できる資金を用意できるかと、異なった派閥の者から土地を如何にして購入することが出来るかと言う事じゃな」
「そうです」
「となると、そこは儂の仕事と言う事じゃな」
用地取得の目処が立たなければ何も始まらないけれど、鉄製造業のトップを走るガルフィールドさんが既にレールや列車を作る気でいてくれて、帰宅次第試作品を作るとの事。
とっても楽しみだ。
精鋭の皆も一致団結して商店、まぁ、地球で言うところの会社を立ち上げ、利益は全員にその作業量等を考慮しつつ分配する事や、その会社の存続のため、力を貸すという言質を取る事が出来た。
土地取得や資金集めの部分は、大人な精鋭の皆さんも大公様の指示の元、色々伝手などを頼ってくれるとのこと。
「鉄道が出来れば、儂の旅も頗る楽になりそうじゃ。これは本腰を入れて甥と話し合わんとじゃな」といつになく元気そうに会議室を後にされた。
大公様が退室されると皆三々五々と散って行った。
夜も遅い時間だったので、ボブには明日会いに行こう・・・・。




