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昼寝から起きました!
ガラスープが心配!
とっとこと走って調理場へ。
「アウレリア、調理場で走ったら危ないでしょ!」と伯母さんに怒られつつ、ガラスープを確認する。
黄金色の綺麗なスープができていた。
伯父さんに言って、漉してもらう。
少し塩を入れてみる。
う~~~ん。美味しい!
これはこれだけでも美味しいよ。
小さな鍋に少量のスープを入れてもらう。
玉ねぎをみじん切りにして、にんにくをおろし、油も少し足して火に掛けた。
別の大きな鍋にお湯を沸かしぶつ切りにした豚肉を入れた。
午前中の下拵えで出た玉ねぎの屑と、焼酎を少し入れ、落し蓋という文化が無いみたいなので、小さ目の皿の糸尻を上にして肉の上に被せた。
肉に火が通ると鍋から取り出し、水気を切り、小さ目にカットした。
さっき作ったソースをちょっと味見して、肉のゆで汁を少し足してみた。
肉にソースを掛けて見て、更に味見を。
うん!美味しい!
肉に塩を振りかけて焼いただけの肉料理ばかりだったから、とっても新鮮だよ。この味!
それに力を入れなくても噛み切れるのもいいよね。
伯父さんも、爺さんも私が味見をしているのを、固唾をのんで見守っていたが、「おい。俺たちも味見していいか?」と、味見してもらうのが目的で作ったのに、態々聞いてきた。
黙って皿を突き出すと、待ってましたとばかり二人が味見を始める。
「ん?結構いける」
「油がないと不味いと思ったけど、そこまで淡泊じゃないな」
「ソースに油を入れてるからね」と種明かしすると、二人ともパクパク食べ、あっと言う間に皿は空になった。
「材料が野菜くずとか骨とか捨てる物がほとんどだから、コスト的には煮込むための薪くらいか・・・・」
「でも、これで他の食堂と全く違うメニューがあるとなれば、客が増えるんじゃないかのぉ」
私は大人二人が相談するのをニコニコしながら見守っていた。
伯父さんはしばらく悩んでいたが、小さな寸胴鍋分だけだが、ソースのためなら十分な量のガラスープが既にあるのを見て、「今夜、このメニューを出してみようか」と言った。
「伯父さん、このメニューの良いところは、あらかじめ肉を煮ておいても問題がない事なんです。ステーキならお客さんの顔を見てから焼くけど、これはお客が来たら切って、ソースを掛けただけで出せます」
「おおお!」
結局、今夜のメニューはスープと煮豚になった。
午後の下拵えをちゃっちゃと済ませ、私は煮豚のソース作りに入った。
ドドドドドッ。
ランディがどこかから調理場へ駈け込んで来た。
「父さん、何かいい匂いがする。ズルい!何か味見してたんだろう?俺にもくれ~」
「私もね」と、ランディの後ろからゆっくりと伯母さんも入って来た。
豚肉を湯がいたお湯がそのまま入ってる鍋に、今夜客に出す用の豚肉を入れ煮た。
少し冷ましてからソースを掛けて二人に差し出した。
もきゅもきゅ。
もぐもぐ。
「「美味しい!」」伯母さんとランディも気に入ってくれたみたいだ。
客用に豚肉を煮ているのを見て伯父さんの眉間に少し皺が寄った。
「アウレリア、肉を煮るのに焼酎は絶対に必要なのか?お湯だけじゃだめなのか?」
「はい。絶対に必要です!肉の臭み取りに絶対にいります。入れないと臭くて食べられないです。お肉もしっとりとなります。一番安い焼酎でいいので、少し入れておいた方がいいです」
酒は結構高いので、伯父さんとしては焼酎を使わない方向で料理したかったんだろうけど、使う量も微々たるもんなのでこの際使っていただきましょう。
「定食2つ」
夜の最初のお客さんが来た。
客を待たせる事なく、すぐに定食はサーブされた。
「何だ?変な肉だな?俺は焼いた肉がいいんだが・・・・」
「美味しくなかったらステーキと取り替えますんで、まずは食べてみてはくれませんか?」
伯父さんの自信ありげな様子に、しぶしぶお客が煮豚を食べる。
「ん!!」
思っても見なかった味だったのだろう。
お客二人は固まった。
固まって、すぐに再起動し、煮豚を食べ始めた。
「親仁!これ美味いなぁ。スカスカ、パサパサじゃなくって、しっとりだぞ」
「肉の上に掛けられたこの汁が美味い!」
「へいへい。これは家の名物料理なんすよ」
「名物料理?何ていう料理なんだい?」
そこで伯父さんはパタッと動きがとまり、ギギギギと音がしそうな感じで調理場の奥で夕食を食べていた私を振り返った。
「煮豚だよ、伯父さん」
「お、おう!」
伯父さんはお客さんの方を向いて「熊のまどろみ亭煮豚料理です」と答えた。




