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「それじゃあ、ドッジボール大会についての説明はこれで終わるが、ここからは新しいイベントの『魔法障害物競争』についてが議題となる」
今回の第二回の会議では、闇王様の進行に合わせてランビットが板書している。
ボブは錬金術クラブの方に顔を出しているので、その代わりなのだが、この会議の内容は議事録にしてボブにも渡す予定だ。
一つのクラブの部長になるということは、こんなに大変な事なんだなぁ。
そう言えば、イベントの様な遊ぶ事しかしていないあややクラブだって、イベントの企画立ち上げの時、何かを借りたり、工事を発注したり、イベント終了後の報告なんかは全て闇王様が一人でしてくれているものね。
まぁ、時々セシリオ様もお手伝いされているけれど、やっぱり対外的な事は闇王様だものね。
だから新入部員、結局はあれから1名増えて5名になっているが、その子たちの指導は先輩部員で持ち回りにはしているけれど、全体的な部分はどうしてもボブが見る事になるものね。
ボブの心配をしている間も、部内会議はどんどん進んでいた。
「これはオレ達にとっても全く新しいイベントで、ひよこクラブの皆には新しいイベントを立ち上げる時に必要な事を学んでもらえる良い機会だと思う。まぁ、オレ達も手探りで進めているので、オレ達のやり方が正しいとは言えんがな。まぁ、取り敢えずはこの『魔法障害物競争』について説明する。フェリーペ、お前に頼んで良いか?」
「はい」
ここからフェリーペは魔法障害物競争の目的や特徴、その安全性について説明していった。
「複数の手段で一つの障害物を克服できる様にするのと、けが人が出ない様に人に対して魔法を使わない設定にするのが一番大事と受け取りましたが、それで正しいですか?」
流石、ペペ君。
一番押さえておいて欲しい点を一度の説明を聞くだけで、ちゃんと理解してくれた様だ。
「そうなんだ。一つのチームで全属性のメンバーを揃える必要が無い様に、各障害物の克服方法は複数必要なんだ。対人で魔法を使わないのは、イベントクラブがやった様な決闘形式だと怪我人が出る確率が高くなるので、それを避けるという意味合いもある」
「分かりました。で、障害物については、みなさんが今からアイデアを出されると言う事ですが、ウチのメンバーからもアイデアがあれば出しても良いですか?」
闇王様が横からズイっと体を前に出して「もちろんだ。というか、たくさんアイデアが出る事は歓迎するよ」と前のめりに回答していた。
ひよこクラブの面々は1学年下なのだけれども、全員下級貴族なので、平民であるフェリーペからは色んなお願い等はしづらいという事もあり、闇王様もその辺を考慮してくれたのかもしれない。
あ、でも、アイデア大歓迎の気持ちが先走った可能性も無きにしもあらずだね。
そこで、みんなから出て来るアイデアをランビットが板書してくれた。
・落とし穴通路
形状:長めの通路を深さ2メートルくらい掘る
対応:①何かで落とし穴を埋める(落とし穴通路の横には穴を掘った時の土を積み上げておく)
②落とし穴の中を進んで、最後に地表に出る
・水路
形状:長めの通路を水路として作る
対応:①泳ぐ
②水を魔法で除く⇒取り除いた水を溜める場所要確保?
・網地獄
形状:何重にも張られた網と土の間の狭い空間を通路とする。
対応:①網を取り除く(燃やす、切る)
②這って進む
③地面を土魔法で掘り下げる
・細く高い通路
形状:高い所に幅10センツの通路。※通路そのものの破壊は失格
対応:①土魔法で通路の幅を広げる
②風魔法などで推進力を持たせ、アッと言う間に渡る
③遅くなってもゆっくり着実に進む
・スプーン運び競技
形状:スプーンより大きく円形のモノを運ぶ通路
対応:①風魔法で運ぶ物を安定させる
②土魔法でモノをスプーンに固定させて運ぶ
③落としても何回でも慎重に運ぶ
・振り子地獄
形状:通路に複数の振り子⇒当たると通路から押し出される
※振り子を壊すのはNG
※怪我防止のため、振り子は柔らかい布などで包んでおく
対応:①土や風魔法で振り子との間に障壁を作る
②土や風魔法で振り子のリズムを調整する
③上手くタイミングを計り、通り抜ける
・突風地獄
形状:風魔法で強い突風が常に吹いている通路
対応:①土や風魔法などで障壁を作りながら進む
②より強い風魔法で突風の向きを変える
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みんな、夫々考えて来たアイデアを次々と発表し、最後に黒板に書かれたアイデアをじぃっと見た。
「色々考えて来てくれてありがとう。ひよこクラブのみんなもありがとうな。で、一つ気になったのが、突風地獄なんだが、これって風魔法の使い手が複数必要な気がするんだが、そうなると園外の魔法使いを雇うって事か?」
闇王様が言うのも最もな事で、私は振り子もちょっとどうなのかなと思っていたのだ。
人にぶつけるくらいの振り子なら大きなモノでないといけないけど、そういう大きなモノを作るとなるとお金が掛かるのではないかということと、振り子にぶつかって怪我をしないか?という言う事。
突風地獄のアイデアを出したのはフェリーペで「突風にあおられて服が脱げかかったり、変な顔になったりするのが面白いと思ったんですけど、確かにかなりの人数の風属性の魔法使いが必要ですね」とちょっと残念そう。
「う~ん、水が降って来るとかでもいいかも?」と、勇者様。
「ん?どういうこと?」
闇王様の質問は、他のメンバーの疑問でもあったみたいで、みんなの意識はメグに集中した。
「通路の上に水槽を作り、その下を人が通る時だけ、その水槽の水を落とすのなら、常に魔法で風を起こすより、水槽に水を溜める時だけ魔力が必要なので、水属性の魔法使いの数は少なくて良いかなって思ったんですっ」
「なるほど!メグのアイデアだと、魔力の消費は少なくなるな。では、突風地獄を水地獄に変えた場合、どんなクリア方法が考えられると思う?」
闇王様の問に、傘を持って来るや、土魔法で屋根を作るなど、潔く濡れるというのまでいろんな回答が出て来た。
ここで傘など、道具を持って参加できるのかという疑問が湧き上がった。
「道具を使って良いのなら、網地獄でもハサミとか使える様になるし、できたら道具は禁止の方向が無難な気がします」
ランビットの意見に私は賛成だ。
なんなら、松明を持って来て網を焼いたっていいんだもんね。
「うん、オレもやっぱり道具は禁止の方が良いと思うが、みんなはどうだ?」
皆も道具使用が認められれば、いろんなやり方がありすぎて、纏まりのないイベントになると言う意見に固まった。
「火魔法の活躍の場面が少ないが、まぁ、火事が怖いからしょうがないのかな?」
セシリオ様が言うのも尤もで、火魔法を使うと火事という副産物について考えないといけないのが玉にきずなんだよね。
「ならさぁ、通路の真ん中に布か皮でできた衝立を置いて、それを壊さないと先に進めないって言うのを作れば、火魔法が使えるのでは?火事が怖いなら、すぐ横には水魔法のスタッフを用意すれば良いと思うし・・・・」
「ランビットの案も良いとは思うが、水属性の魔法使いばかり用意するのもなぁ・・・・」
フェリーペの言う事も尤もだ。
でも、「それなら、水路と水地獄の間にその衝立を置けば、水属性の魔法使いは1つのレーンに1人で済むのでは?」と言ってみた。
「なるほど!アウレリアが言う通りだ。障害物の性質を考えて、土属性は土属性で纏めて、水は水。演技者と違って障害物を整えるだけだから、複数の属性はいらないしな」
ひよこクラブの面々を交えての会議は段々とヒートアップして来た。




