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挨拶をしながらも作戦会議室は図書コーナー等、興味深げに目をあっちこっちにやっているペペ君。
「まぁ、そこの椅子に座ってくれ」と闇王様に促され、作戦会議室の空いてる机に着いた。
「君の事は覚えているよ。鳥人コンテスト、優勝おめでとう」
「ありがとうございますっ」
「それで話とは?」
闇王様にそう促され、ちょっとモジモジした感じになったけど、ペペ君はクっと首を持ち上げ、堂々と闇王様を見て「来年以降も鳥人コンテストを続けさせて下さい」と言い切った。
そう、言い切ったのだ。
態度は若干モジモジしているのだが、彼はコンテストを続けたいと言う事は迷いなく闇王様に伝えたかったのだろう。
短い言葉の中に決意みたいなものが見え隠れしていた。
「ん?今年も鳥人コンテストは開催するし、日程についてもイベント一覧で公表しているが?」
「はい。でも、みなさんは来年は4年生。クラブ活動はされませんよね。そして再来年にはどなたも学園にはいらっしゃらなくなります」
「そうだな」
「でも、ドッジボールも鳥人コンテストも今年までではなく、この学園の伝統として続けていくべきだと僕は思っています」
「ほう・・・・。べきだと?」
ペペ君は闇王様の圧に一瞬俯いたけれど、すぐに頭を上げ闇王様の目を捉えた。
「はい。べきです」
闇王様以下あややクラブの面々が聞く体勢に入ったのを見て、ペペ君はここぞとばかり熱弁をふるい始めた。
「姉によると、あややクラブが発足する前の学園では、1年の遠足以外では文科系クラブの即売会くらいしかイベントらしいイベントはありませんでした。それがみなさんの入園で、次々と楽しいイベントが開催されました。このイベントを通してクラスの仲間がより近しい存在になり、友達となりました。これは、僕たちだけの年代ではなく、今後、この学園に入学してくるだろう生徒たちにも同じ様な機会を与えるべきだと思いました」
「ふむ。特に貴族クラスはホームルームのメンバーと各教科のメンバーが変わるから、顔見知りにはなれても友達にまではなかなかなれないと言うのは分かる。が、貴族とはそもそもそういうものではないのか?」
「はい。アドルフォ様のおっしゃられる通りです。貴族たるもの、不用意に人を信じてはいけません。でも、学生時代の間にしか利害関係を越えた人間関係を構築する事は難しいと言う事もアドルフォ様ならご存知でしょう?」
「まぁ、それはそうだな」
「で、ありがたいことに、あややクラブの皆さんが在学中、学園で勉強する機会のあった者たちはイベントを通して親の所属する派閥とは別の友達を作りやすい環境を与えて頂きました。新しい習慣です。そして良い習慣でもあります。これは後輩等を通じ、後世に残していくべき習慣だと思います」
「んで、お前は結局何が言いたいの?」
「結局、僕が言いたいのは、僕と僕のチームのメンバーをあややクラブに入れて下さいと言う事です。今年もあややクラブでは部員を募集されていらっしゃらないのは存じております。でも、先輩たちの仕事を今年1年手伝い、来年以降、僕たちや、僕たちの後輩にあたる者たちにこの活動を引き継いで行きたいのです。どうでしょうか?」
闇王様は一瞬、ウチのクラブの面々の顔をぐるっと見回して、またペペ君に視線を戻した。
「これらのイベントを伝統とするのは良いとして、それを担うのが何故お前なんだ?」
「あっ、僕である理由は一般的に見れば何もありません」
「そうだな。イベントクラブが引き継いでもいいんだからな」
「はい。でも、イベントクラブは他国の皇子が主催されています。ここはオルダル国の王都にある学園です。純然たるオルダル国の学生が引き継ぐべきだと思います。それと、個人的には僕が引き継ぎたい理由はあります」
「個人的とな?」
「はい。家はしがない貧乏子爵家で、子だくさんです。僕の上にも数人兄や姉がいて、僕の下にも弟がいます。つまり、僕は家督を継ぐ事はできません。学園卒園後、何等かの仕事を見つけなければ部屋住みとして実家に留まる事しか出来ません。しかも家を継いだ兄に子供が数人出来るまでという期限付きです」
「まあ、総領息子でなければそうなる可能性は高いな」
「はい。でも、イベントの企画運営の仕方を知っていればどうでしょうか?そういう事業を立ち上げる事だってできるし、みなさんのどなたかが卒園後、そういう事業を立ち上げられるのならば、そこで働くと言う事だってできるのです。勉学だけでなく、あややクラブのイベントに携わる事ができれば、新たな道が僕の目の前には開かれるのです」
「そうだとしても、それはお前の個人としての利点しか語られていないな」
「はい・・・・」
再びシュンとなったペペ君であるが、私はどうしても一言言いたかった。
「アドルフォ様。発言をお許し下さい」
「アウレリアか。いいぞ」
「ありがとうございます。ペペ君は前回の鳥人コンテストで非凡な才能を見せてくれました。イベントに必要と思われる事を本能的に知っている様に思います。そういった人材はあややクラブにとって捨てがたいと思います」
私が言い終わると、ペペ君は目をウルウルさせて私の方を見た。
「まぁ、オレもそれは認める。だがっ」
みんなが闇王様の次の言葉を待って、ゴクリと唾を飲んだ。
「イベントを引き継いでも良いが、あややクラブの部室はオレたちにとって第二の家だから、無闇に中に入る人間を増やしたくないんだ。4年生になってクラブ活動は無くなっても部室の使用は学園から許可が出ているしな」
そう言われてみれば、ひよこチームのメンバー5人が部員として増えたら、今の気安さがなくなり、部室で落ち着く事はなくなる気がして来た・・・・。
「あのぉ、部室が問題であれば、僕たちはこの部室を使わない方向で大丈夫です。なんなら、僕たちはあややクラブのメンバーではなく、別のクラブを立ち上げ、今年いっぱいはみなさんのお手伝いを、来年以降はそのクラブとして活動をすれば問題は無いと思います。7人以上いれば新しいクラブは立ち上げる事ができますし、一旦立ち上げたらクラブ棟に小さくても部室を用意してもらえると思うのでっ。ウチのひよこチーム以外に2名くらいならすぐ探せますっ」
ペペ君も一生懸命だ。
部室が別に用意できるのであれば、お手伝いとして他クラブに参加してもらう事は可能だ。
その例として、既に鳥人コンテストでは乗馬クラブや音楽クラブにも手伝ってもらっているのだから。
「よし!分かった。別クラブを立ち上げ、今年1年だけの手伝い限定で、来年以降はイベントを引き継ぐっていうのは問題ない。お前たちの意見はどうだ?」
闇王様があややクラブの面々の顔を見回し、同意を得た。
「うん、じゃあ、ペペ。そういう事でお前は急いでクラブを立ち上げろ」と指示を出した。
「ありがとうございます」とちっこいペペ君は満面の笑みを浮かべ、元気よく頭を下げ、ウチの部室を出て行った。




