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「おい、お前ら、今日のおやつはなんだ?」
新学年になってからガスペール先生があややクラブの部室に来る事は無かったのだけれど、何故か今日は顔を見せ、しかも当然の様に自分のおやつを要求して来た。
ブレないね、このおっさん。
「先生、新学年になって全然顔を出さなかったのに今日は何ですか?」
闇王様も容赦なくガスペール先生を詰問調で追い詰める。
「まぁ、嫁さんが待ってるからな。放課後はさっさと家に帰ってるんだよ。結婚はいいぞぉ~」
なるほどね。結婚したから早く奥さんと一緒に居たかったって事ね。
それはウチのクラブにとっても朗報なんだけど、じゃあ、どうして今日は顔を出したんだろう?
「アウレリア、まず、おやつな」
本当に、ガスペール先生はぁぁ・・・・・。
みんなの前には既にスイートポテトと色とりどりのおかきが並んでいる。
そして今日のお茶は緑茶なのだよ。ふぉふぉふぉふぉ。
ガスペール先生の前にも同じ物を出してあげると、「おっ、すまん」と言い終わるかどうかのスピードで口いっぱいにスイートポテトを突っ込んでいた。
おやつを出してお礼を言われたのは初めてかも?
結婚して人間が丸くなった?
「うむ。相変わらず旨いなぁ。少しウチの嫁にも包んでやってくれ」
いや、全然変わってなかったよ・・・・。
ボブが錬金術クラブの部室の方へ行っているので、後から持って行ってあげようと脇によけていたスイートポテトをガスペール先生の奥様用に包んであげる。
ボブには他のおやつを持って行ってあげよう。
新入部員が今の所4名入って来たけど、まだまだ部員数を増やしたいと頑張ってるからね。
ボブは当分あっちの部室からは出られないもんね。
「先生!そろそろ何で来たのか説明して下さいよぉ」
闇王様はちゃっちゃとガスペール先生を追い出したいのか、来訪の目的を言わせるのに待てない感じだ。
「ああ、イベントクラブの方からな、あややクラブのイベント一覧を見て知らないイベントがあったので、どんな中身か知らせて欲しいという要望があったんだ」
「「「はぁ?」」」
「いやな、向こうも新しいイベントを考えているらしいんだけれど、同じ様なイベントは避けたいらしく、障害物競争だっけ?魔法なんちゃってやつ、あれについて教えて欲しいって事らしい」
「いや、似た様なイベントでも全然構いませんよ。何なら、ウチより先にイベントをしてもらったら万が一似たイベントであっても向こうにとっては損は無いはずです」
おやつを食べ終え、美味しそうに緑茶をすすっていたガスペール先生は、最後にほっと息をついて正しい日本茶の飲み方を見せた。
「まぁなぁ。お前たちはそう言うだろうと思ったよ。じゃあ、言われた通りに伝えるから、それでいいな」
「はい、それでよろしくお願いします」
「おう。あ、これ、ウチの嫁へのお土産か?」
ガスペール先生は私が差し出した包みに目がロックオンされている。
「はい、どうぞ」
「おっ!すまんな」
そう言ってお土産をふんだくって部室から出ようとしたガスペール先生の背中に向かって闇王様は「先生、今日はおやつが多めだったからお土産もお渡ししましたが、基本このクラブで出るおやつはここで食べる物だけです。お忘れなきよう」と釘を刺していた。
グッジョブ!闇王様。
そうだよね。ガスペール先生にはそれくらい言わないと、毎日お嫁さんのおやつまで集りに来そうだもんね。
土産の包みを持った手を上にあげ少し振り、ガスペール先生はそのまま部室から出て行った。
私たちはダイニングテーブルから作戦会議室へ移動した。
「これで、イベントクラブもオレ達に絡んで来る事はないと思う。みんなも皇子やディアナに何か聞かれたら、まだ検討中なので詳細は決まっていない。似たようなイベントをしてくれて問題は無いし、何ならオレ達より先にイベント開催してもらって構わないと言ってくれ。それでも四の五の言う様なら、学園に話を通してくれてで会話をぶった切っても良い。分かったな?」
「「「はい」」」
昨年我慢して王子やディアナ様に対応したのだ。
オブザーバーという地位しか与えなかったので、多くを伝える事はしなかったが、しっかり舞台裏まで確認できていたのだから文句は無いはずだ。
「んじゃあ、障害物競争の話をしようか」と闇王様が話し合いに本腰を入れそうになった時、玄関前で番をしてくれている使用人の一人が部室へ入って来た。
「アドルフォ様、お客様でございます」
「誰だ?」
「ひよこチームのペペ様だそうです」
ひよこチームは昨年の鳥人コンテストの優勝を飛行部門でも仮装部門でもかっさらって行ったチームだ。
そのリーダーのペペ君は当時背の低い1年坊主だったけど、去年まではお姉さんが音楽クラブにいたはずで、自分たちのテーマソングまで作っての参戦だった。
すごくエンターテイメントを分かっている子だ。
闇王様もすぐに誰の事か分かったみたいで、ちょっと考え込んだみたいだけど、「よし、分かった。中に入る様に言ってくれ」と使用人に言った。
使用人の背中を見ながら「お前たちもそれでいいな」と私たちに確認した。
もちろん、何の話なのか興味津々なので、否は無いよ。
それは他の皆も同じみたい。
「こんにちは。お邪魔します」と背の低いままのペペ君が使用人の後ろから部室に入って来た。




