2
「僕が部長のボブだ。みんなよろしく頼む」
錬金術クラブで新部長となったボブがそう挨拶したのが、新学年初日の昨日のこと。
オスカル先輩から指名があったのは昨年度の内にみんな知っていたから、特に驚いている人もいなかった。
これからボブは私たちの新学期より数日遅れで入園してくる新入生獲得とか、即売会の売り上げと言った煩雑な業務が待っているけど、もちろん私たち全員でサポートしていく心算。
そして新学年2日目の今日、「今年はクラブ活動最後の年だから、イベントも今年で最後になる。まぁ、イベントクラブも立ち上がったのであっちのクラブで色々するだろうな。後、皆も知っている様に、ボブが錬金術クラブの部長になった。引き続きあややクラブでも活躍してもらうけれど、部長である以上、錬金術クラブの方を優先しなくてはいけない時もあると思う。だから、ボブ、あっちへ行かなければいけない時は遠慮なく言って欲しいし、皆にもボブを良くサポートする様頼みたい」
新年度最初のあややクラブでは、闇王様がそう宣言した。
「お気遣い、ありがとうございます」とボブが闇王様にお礼を言ったのを筆頭に、残りのメンバー全員が「「「もちろんですっ」」」と返事をした。
どのクラブもそうだが、クラブ活動は3年生まで。
生徒の年齢に関係なく、学年でそういう決まりなのだ。
入園する年齢が決まっていないので、7歳の3年生も居れば、12歳もいたりする。
でも4年生は誰もクラブ活動をしないのだ。
何故なら、将来の仕事と直結した研究所、ギルドなどに関する知識を得たり、実際に視察に行ったり、テーマを決めて調べものをしたりと言った事に時間を使うから、学園にいない事も多い。
もちろん、卒園後、研究機関等に入らず実家の稼業を継いだりする生徒もたくさんいるので、実質実家に入り浸りになっている生徒も出て来る。
「まぁ、ウチのクラブは全員が同じ年だし、4年生になっても部室は使って良いと学園側からは許可を貰っているので、ここを部員が好きに使うのは有りだと思う。まぁ、部室自体はウチの家が建てたから、オレが在学中に追い出される事は無いだろう」
「マジでここ、居心地が良いんですよね。リアの美味しいおやつが毎日出るし、俺らの寮には風呂がないので、ここに来れば入れるし、トランプとか花札とか皆でワイワイできるし、本音を言えば、俺は寮ではなくここに住みたいくらいだよ」
「フェリーペが言いたい事は良く分かる。僕だってここに住めれば夜遅くまで錬金術の作業だってできるし、すごく快適だろうなぁって思うよ」
珍しくボブが長い文を言葉にした。
「まぁ、夕食とか朝食までアウレリアさんが作ってくれるなら、僕だってクリサンテーモの寮ではなくここに住みたいなとは思うけどね」なんてセシリオ様まで似たような事を言ってる。
「あなたたち!料理を毎回アウレリアしゃんにやってもらっていて、しゃらにもっと料理をなんて良く言えたものね」
「そういうお前だってできる事ならフローリストガーデン仕込みの料理を毎食たべたいだろう?」
闇王様、お前もかっ!
「まぁ、リアもおやつくらいなら作っても、毎食毎食作るのは大変だものね。おやつくらいで丁度いいと私は思うよ」
流石!勇者さま。もっと言ったって!
「毎食作るのは勘弁下さい。それよりも、今年が最後の活動の年になるんですよね。どのイベントをするかだけでも最初に決めておきませんか?」
私の頭の中には、魔法障害物競争をやりたくないという願望があり、できるだけ例年通りのイベントだけで済ませたい気持ちで一杯なのだ。
この前の視察旅行で、高級ホテルの建設や、従業員の教育、地元との折衝なんかを考えると、デキるだけあややクラブに割く能力や時間は控えめにしたいのだ。
錬金術クラブの方もあるしね。
って言うか、もう冬季も夏季も即売会はドールハウスの販売になるのはほぼ決定なのだが、如何せん作らなくてはいけない部品が多すぎて、手間暇が掛かるのだ。
ここは自分の要望に沿った形でイベントを開催してもらう為に、ちゃっちゃと誘導しちゃうのが勝ちと見た!
「あのぉ、案があるんですけど・・・・」
「何?」
闇王様が案があるなら早く言えという雰囲気になっている。
「えっと、1年生の遠足が終る前に、あややクラブの1年間のイベントカレンダーを校内各階にポスターとして掲示してみてはどうでしょうか?例えば、こういう風にです」と、板書した。
《あややクラブ開催イベント一覧》
★ドッジボール大会 日時:10/10(金)9:00~ 場所:園内特設会場
◎ドッジボール練習試合期間:10/1(火)~10/6(月) 場所:園内特設会場
◎ボール貸し出し開始 日にち:9/15(月) 場所:学園事務所
★魔法障害物競争 日時:2/13(金)9:00~ 場所:園内特設会場
◎参加登録 日時:2/2(月)18:00~ 場所:学食
◎練習場解放期間:2/2(月)~2/12(木) 場所:園内特設会場
※使用の際、要予約
※使用の注意厳守
★鳥人コンテスト 日時:6/12(金)9:30~ 場所:王都の湖特設会場
◎参加登録 日時:6/1(月)18:00~ 場所:学食
◎過去画像鑑賞会 日時:5/27(水)18:00及び5/28(木)18:00 場所:学食
ズラズラと書き終わり、「まず最初に。ここに書いた日時は決定ではなく、ただの例です。皆で話し合ってちゃんとした日程を決めて、これを一覧として教室棟の各階に1枚、ポスターとしてずっと貼っておくと、イベントクラブより先に日程が押さえられる事と、学生たちの方でもいろいろ準備をしやすいという利点、そして学園側も年の初めに予定がある程度立てられるので協力を得やすくなるという利点があると思います。どうでしょうか?もちろん、各イベントのポスターは開催日が近くなったら別途作って貼る事にはなりますけど・・・・」と一気に言いたい事を言ってみた。
「なるほどなぁ。これなら、オレたちも予定を立てやすいし、場所を早めに押さえておけるので良いかもしれないな」
「そうですね。これ、今カレンダーを見たら、日にちと曜日はちゃんと合っているので、この日時そのままで決めちゃっていいかもしれないですね」とフェリーペがすごく感心している。
もちのろん!板書する際に日にちと曜日はチェック済だよ。ふぉふぉふぉふぉ。
「よし!皆に異存がなければ、この日程でポスターを作り、まずは学園側と交渉させてもらいたい。OKが出たら、すぐに各階に日程一覧を張って行こう!」
「「「はいっ!」」」
闇王様の号令の元、みんなでちゃっちゃと作業を開始した。
ん?どんな作業かって?
セシリオ様はロードマップの作製。
フェリーペはセシリオ様のお手伝い。
闇王様は早速学園側に面談の要請の為、部室の玄関にいる使用人の一人を学園長室へ走らせた。
私はおやつを作りに、アドリエンヌ様は空中庭園のお手入れとライフワークと化している良い香りのポプリやドライフラワー作り、それを手伝う勇者様、ボブとランビットは錬金術コーナーへと、いつものクラブ活動風景が始まった。
 




