1
「リア、夏休み中の視察旅行はどうだったの?」
メグの質問に答えようとそっちを向いたら、勇者様が3学年初日の朝、寮の食堂でパンを口にいっぱい詰め込みながら聞いて来た。
どうやら喉を詰まらせた様だ。
「ケホケホ」
「もう、メグったら、そんなにパンを口に入れるから詰まるんだよ。はい、お水」
「ゴクゴク・・・・ありがとう」
情けなさそうに眉毛を八の字にした勇者様。
その表情がなんか可愛いのは何故?
あははは。
「視察は色々見る事ができて参考になったよ。予定の村と町は全部回ったの。これ、みんなにお土産」と私がいつものメンバーに渡したのは貝殻を使って作られたキーホルダーだ。
実はこれはモンテベルデーノでザお貴族様ズにも同じモノをお土産に買って来ているのだ。
「「「「ありがとうー!」」」」
「視察旅行はね、前半は大公様がご一緒して下さったので、私までお貴族様になった感じで旅させてもらったの。後、ゴンスンデでもモンテベルデーノでも時間がなかったから、メグにもヘルマン様にも会えなかった」
「うん、夏休み前に多分会えないと思うって言われてたから心配はしなかったけど、私だけじゃなくってヘルマン様にも会えなかったのは残念だったね」
「うん。父さんも伯爵様に御挨拶したかったみたいなんだけど、あそこではホテルを作らない事にしたので、挨拶のしようが無いんだよね」
「え?リア。モンテベルデーノにはホテルを作らないのかい?」
フェリーペが驚いた顔でこっちを見た。
「うん。まぁ、先の事は分からないけど、当面は作らない方向かな」
「へぇぇっぇ」
寮の食堂で授業前のバタバタする時間で、ロードマップやホテルの絵なんかを見せるのは落ち着かないので、これについてはまた、あややクラブの時にでもという事になり、まずは3年生初日ということで3階になったホームルームへ。
いつものメンバーが教室にいる。
マリベルは可成り髪の毛を切っており、ナナは休み前と変わらず。
どうやらイベントクラブにも所属しているらしく、ホームルーム内でも結構大きな声で皇子について話している。
そのちょっと離れた所にはタルボットとその取り巻きがちょっと焼けた肌になっていて、夏休みをさぞかし戸外で満喫したんだろうなぁと簡単に推察できたよ。
私達5人はいつもの様に、教室のちょっと右寄りのスペースに小さなテーブルの様なモノがついている椅子を運び、一緒に座る。
休み前にランビットの家にも遊びに行かせてもらったり、フェリーぺん家のお店も初めて見る事が出来たので、なんか前よりももっと身近に感じる気がする。
教室の中は、みんなそれぞれのグループで固まり、休みの間何をしていたかの話で盛り上がっている。
そして教室の扉を開けて入って来たのはガスペール先生。
あれ?なんか変?
ん?何だろう・・・・。
「先生、髭そってらぁ」
あっ!タルボットの言う通り、無精髭が無い!
え?ガスペール先生ってこんなに若かったの?
髭が無いと全然違って見える。
それに服がシワシワじゃない!
「ん?髭か?嫁が剃れって言うから、まぁ、仕方なくだな」
えええ?ガスペール先生って既婚者だったのぉ?
だって、休み前までは無精髭でシワシワのシミが付いてる服着てたよね?
髪もどっちかっていうと無精な感じで日に日に長めになっていたのに、今は結構すっきりとカットされていっる。
うぉぉぉお。
この世界って床屋も美容室も無いから、使用人や家族に切って貰うのが普通だったりする。
で、ガスペール先生は誰も髪を切ってくれそうな人いないだろうなぁって勝手に思ってたよ。
えええええ、奥さんいたんだぁ。
それはみんながそう思っていた様で、ガキ大将のタルボットが「先生、結婚してたっけ?」とずけずけと聞いている。
「ああ、この夏休み中に結婚したんだ」
「ええ?奥さんってどんな人?人間なの?」
「おまっ!人間に決まってるだろう。ウチのは美人なんだよ」と言いながら、ちょっと顔を赤くするという、ガスペール先生らしくない立ち居振る舞いにみんなが唖然としてしまった。
照れてるよ。この人。
赤くなる事ってあるんだぁ。
「先生、どうやって奥さんを騙して結婚まで漕ぎつけたの?」
「うわぁぁ。三行半突きつけられるまでにどれくらいの期間が残ってると思う?」
「奥さんって何か悪い事して、罰として結婚したとか?」
教室内にはガスペール先生の奥さんが可哀そうだ、騙して結婚したんじゃないかという意見で大盛り上がりで、みんなその気持ちを一切隠さずガスペール先生にぶつけている。
うん、日頃が往生だね。
「幼馴染なんだよ。騙してないよ」と言いつつ、さっさと出席だけ取って、「授業を始めるぞぉ!」と話題の転換を試みたガスペール先生。
3年生にもなると、みんな成長してきており、そういう先生の姑息な手段はしっかりスルー。
未だに先生の奥さんを救わなくてはとか、今度いつ紹介してくれるのかとか、先生の家へお食事に呼んでくれとか、そりゃもう、色んな要望やら危惧やらをいっぱいぶっつけられていたよ。




