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「今回はゴンスンデまで同行させて頂いてありがとうございました。貴族の方々がどの様に旅をされているのか、しっかり体験させて頂きました」
「うむ。で、視察前の予定と視察後で変わった事はあるか?」
「はい、大公様。モンテベルデーノには今の所ホテルは作らない方向でと思っております。その他の候補地は全てホテルを建てる予定ですが、まずは村の方を先に建てて、その後にゴンスンデやヤンデーノ、王都と作って行こうと思っています」
「何故、モンテベルデーノを候補地から外したのかのぉう」
「ヤンデーノとモンテベルデーノの間は陸路より海路の方が移動手段としては頻度が高いと言う事が分かりました。貴族の方でも船での移動の場合、港の近くの高級な宿泊施設があれば事足りると思いました。ヤンデーノの方は高級宿が無いのですが、モンテベルデーノの方は大きな高級宿泊施設がありましたので、同じ様に港の傍に高級ホテルを建てても、2軒で既存の客を分ける様になるので利益がそれ程見込めないと思いました」
「なるほど。では、村の方を先に手を付ける事にしよう。ダンテス」
「はい、旦那様」
「ナイトルとモリスン村の建設予定地は確認しているな?」
「はい」
「では、土地を購入し、工事の着工を手配してくれ。モリスン村の方は元々宿場町なので、大工たちを王都やモンテベルデーノから派遣しても寝泊まりする所はあると思うが、ナイトル村の方は大工たちの宿泊はどうするつもりだ?」
「先にモリスン村から着手し、その間にナイトル村に簡易宿泊施設を作ります」
「うむ。では、アウレリア。以前に渡してもらっている施設の絵の最終チェックをダンテスとする様に。庭についてはギジェルモとだな。お前がスキルで呼び出す建材についてはダンテスと打ち合わせて、工事に間に合う様に各所へ送る様に」
「はい、分かりました」
「ああ、お前の絵にもあったが、大きな1枚ガラスはフローリストガーデンの特徴の一つでもあるから、どこのホテルもそれをデザインに入れる様に」
「大公様、それは既にアウレリア様にお伝えしておりますので、頂いている設計図や完成図の方にはちゃんと1枚ガラスがたくさん入っております」
「うむ、ならば良い。ダンテス、頼んだぞ」
「はい、大公様、お任せ下さいませ」
王都に帰って来てから、学園が始まる前にと大公様の館で打ち合わせだったのだが、ダンテスさんがかなりの部分を事前に大公様に報告してくれていたので、今回はお互いの意思の確認で終わった。
ナイトル村の方は湖が見れる様にロビーに入ると一面柱の間は一枚窓ガラスになっていて、建物に入るなり湖の全景が見渡せる様に設計したので、私のスキルで1枚ガラスを何枚か作らないといけないのだ。
だがそれは冬休みに現地へ再度視察する際、その場でスキルで呼び出し予定だ。
大きなガラスを長距離運ぶのは傷がつくかもしれず、或いは割れるかもしれないのでとてもリスキーなのだ。
湖までは散歩道を作り、水遊びが出来るところに広場を作り、BBQを楽しんだり、更衣室や、出店で食べ物が買える様に整える予定で、その事については視察の時父さんが色々アイデアをメモっていたので大丈夫だと思う。
1階には湖が見れるところをロビーとし、簡単な食事や紅茶を飲める様に鉢植えの間にコーヒーテーブルとソファをいくつか並べる。
もちろん1階にはコンシェルジュデスクも置くよ。
建物に入ってすぐはレセプションだし、その奥は簡易コンビニ。
2階と3階は客室で、4階に食堂とバー、カードルームやベビーシャンプーとベビーオイルの簡易エステ、タロットカード占いの小部屋を用意するつもり。
先に建設を始めるモリスン村の方は景色に拘る必要はないので、大きなガラスはあまり必要ないデザインにしたので、食堂の一部に1枚ガラスを数枚入れるだけだ。
ただ、こちらは4階に大きなカジノを作るので、ステンドグラスをところどころに設置しても良いかなと思ってる。
ナイトル村との違いとして、こちらはプールか足湯を作るつもりで、バーはそのプールの横に作るつもりだ。
1階にはロビー以外にも食堂を作って、4階はほとんどがカジノにするつもり。
もちろん、簡易エステや占いの小部屋も作るよ。
で、どちらも厩舎は離れた所に作り、御者はそちらで寝泊まりしてもらう。
従業員の住まいも敷地内にするけど、客室からは見えない所に建てる事になっている。
植木などを上手く使って、客室棟からあまり離れていない所にする心算だ。
一番悩んだのが、医者の配置だ。
村はどちらも医者はいなかった。
となると、どこかの町から医者を派遣し、そこに住んでもらわなければならなくなる訳で、これはちょっとハードルが高い。
現代の地球程の医学がある訳ではなく、半分シャーマン的な職業だとは思うけど、病人が出た時、医者がいるかいないかは、客から大きな違いだ。
例え家族が医者に掛かって死んだとしても、医者が診てくれた上で寿命だった、或いは手に負えない病気だったというのと、医者すらいなくて何も出来なくて亡くなったというのでは遺族の印象としては全然違うハズだ。
もちろん、手当をして大事に至らないのが理想的だけどね。
ただ、医者は特殊な職業で誰でもがなれる訳じゃないし、都会で稼げるのに田舎へ行ってそこに住む医者はめったにいないだろう。
しかも、客は貴族が多いはずなので、変な医者は雇えない。
で、雇えたとして診療所をどこに設置するかも問題になってくる。
ホテル内に診療室を造るか?
それとも各客室へ往診してもらうか。
村の人たちの病気も診てもらえるのか?
もし、診てもらえるのなら村の中に診療所があった方が良くないか?
その辺の事はダンテスさんに前から相談していたので、王都の医師会に問合せしてくれているのだが、なかなか田舎へ行っても良いよって言ってくれる医者はいないらしい・・・・。
まぁ、あれば嬉しいけど無くても良いサービスとして捉えるべきか?
「アウレリア様」
「はい、何でしょうか、ダンテスさん」
「医者の派遣は難しいと思うのですが、ちょっとした傷の手当とか、常備する薬を揃えるだけで良ければ医者でなくても良いと思うのですが、いかがでしょうか?」
「え?素人が医療を行うということでしょうか?」
「いえ、ウチの従業員の何人かを医師会へ派遣し、腹下し、熱さまし、切り傷の時の手当の仕方を教えてもらうのと、その時使うであろう薬を常備薬として備えておけば良いのではないでしょうか?或いは・・・・薬師様を雇うという手もあるかと。つまり、医者に拘らなくてもと言う事です」
「なるほど!そうですね。医者がいるのが最善ですが、簡単な手当が出来れば最低限のサービスは提供できている訳ですものね。ホテルは病院ではない!そうですよね。分かりました。ナイトルとモリスン村のフロントを担当する従業員2名を医師会へ派遣する様、手配して頂けますか?同時に薬師様で田舎へ行っても良いという奇特な方がいらっしゃるかも当たって欲しいです」
「もちろんでございます」
これで、ホテル内の大体のサービスが決まって来た。
カジノのルーレットやホテルの紋章入りのお皿とかリネンとか、時間の掛かるモノの手配も始めてもらった。
グラスは全部私のスキルで作る事にした。
ガラスの質が外注とは全然違うし、カクテルのグラスは私でないとまだ作れないからね。
本当は従業員の制服も誂えたかったのだが、まだ従業員全員の面接が終ってないのだ。
制服は雇う人がある程度決まってからだね。
ああ、学園の3学年が始まるのに、まだまだホテルに関してはやらなければいけない事が山積みだよぉ。




