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「アウレリア様、ギジェルモ様、今夜はナイトル村では宿泊致しませんので、視察は昼食の前後となります」
「ダンテスさん、ナイトルで宿泊しないのは貴族向けの宿泊施設が無いからですか?」
父さんは今回の視察旅行では私が主になって調査するということを踏まえ、必要最低限の事しか口を挟んで来ないけど、単純に疑問に思ったのだろう、私がダンテスさんに確認する前に質問してくれた。
「ええ、そうなんですよ。だからアウレリア様、昼食をナイトル村で摂りますので、昼食前と後の数時間を効率良く使わないと見たいモノが見れなくなります」
「分かりました」
「ちなみに何を見たいですか?」
ダンテスさんが効率よく見たいモノが見れる様にこちらの意図を確認してくれた。
「そうですね。まずはホテルの建設候補地、湖、現在ナイトル村にある食堂と宿屋。村人の生活水準が分かれば更に嬉しいです」
「生活水準ですか?」
「はい。お金持ちが多いのか、少ないのか。王都に比べて各家庭がどれくらいの家具や服を持っているのか、日常的に何を食べているのか。そういった事ですね」
「分かりました。では、天気が良いので、先に村の周辺を囲む様にして広がる麦畑とその先にある小さな湖を見て、食堂への行く途中に事前にアウレリア様から頂いている案を元にこちらで検討を付けている建設候補地をご覧に入れます。そして昼食後には村長との会見がありますので、それを村長の家の中でさせて頂きましょう。そうすれば、村で一番地位のある者の生活水準が分かるでしょう。店は、パン屋と食堂が2軒しかありません。その内一つは雑貨屋を兼ねています。我々が昼食を摂る食堂はもう片方なので、雑貨屋を兼ねている食堂もチラっと中を見せてもらいましょうね。乗合馬車はナイトル村にも止まる事は止まりますので、馬車駅とも呼べない乗降場しかありませんが見て見ましょうかね」
「はい。それでお願いします」
私が元気よく返事する後ろで、父さんはダンテスさんに頭を下げている。
朝食は大公様と同じテーブルで頂いた。
父さんは例によって例の如くカッチカチになっていた。
「今回の視察では見なければいけないものをちゃんと見れているか?」
「はい、大公様。今回は態々同行して頂いて、本当の貴族の方々がどの様に旅をされているのか身をもって体験させて頂いているので、大変参考になっております。後、ダンテスさんがいつもの様に何くれとなくお世話して下さるので、要領良く見たいものを見て回る事が出来ております。ありがとうございます」
「うむ。なら良かった。後、高級ホテルを複数建てるのだが、ホテルの紋章を考えておいた方が良いな。確か、以前儂の館で話し合いをした時にも、食器とかリネンにもその紋章を入れたいと言っていた様に記憶しているが・・・・」
「はい、実はフローリストガーデン光の紋章を色違いにしたものをホテルの紋章にする心算です」
「ふむ。ではホテルの名前もフローリストガーデンにする心算なのか?」
「はい、その心算です」
「うむ」
この瞬間に、ホテルチェーンの名前が決まった!
ダンテスさんが大公様に先ほどの日程を報告してくれたので、すぐナイトル村へ向け出発だ。
2時間くらい馬車で揺られると一面収穫前のたわわな麦畑が広がる野原が目に入る様になり、程なくナイトル村へ到着した。
馬車で湖まで移動なので、残り2台の馬車は村でお留守番だそうだ。
村を出て、湖に行くまでの道は全然整地されていなくて、石ころがゴロゴロ。
スピードを出すと車軸に負担がかかりそうなので、本当にゆっくりとした移動になった。
歩いた方が早いかも?
まぁ子供の私の足だと遅いから、やっぱり馬車でないと大人たちにはストレスかもね。
「ここが湖です」
ダンテスさんが御者に言って馬車を止めたのは、湖の際に近かった。
湖の周りもぐるっと麦畑だ。
品種にもよるのだろうけれど、ポンタ村もナイトル村も今が収穫の時期なのだ。
青き衣をまとった少女が歌に合わせて歩いていそうな風景だ。
村の近くの麦畑はもう収穫が終わっている所もあったけど、この辺まで来るとまだの様だ。
「湖はとても小さいですね。対岸が見えるのですね」
「そうですねぇ。ただ、ここは平地なので対岸が見えやすいということもあります。道が無いのでお薦めしませんが、湖をぐるっと回ってみますか?」
ダンテスさんが親切にそう言ってくれたけど、今夜の宿泊場所が違う村なら、移動の時間を確保しないといけないので、視察も取捨選択が迫られる。
湖の大体の大きさは分かったので、これで良しとした。
またゆっくりと馬車で村に帰り、大公様がいらっしゃる食堂へ入ると、お貴族様が食べる様な食堂でないのは一目瞭然だった。
それなのに大公様は奥の席にゆったりと座り、私たちが湖視察から戻るのを待ってて下さった。
申し訳ない!
まず、そんな気持ちが浮かんだが、大公様はこちらのそういう感情も汲取って下さっている様で、「視察は楽しかったか?」とにっこりと笑って下さった。
何でこっちの気持ちが分かったのかなぁと思ったら、「お前は全てが容易に顔に出ておる」と言われ、「カカカカ」と笑われてしまった。
食堂の人たちはとても恐縮しており、お貴族様の、しかもその中でも特に位の高い大公様を迎え入れる事に恐れに近い感情を持っている様で、「お・おつ・つれれれれ・・・・お連れの方がぁぁぁ戻られたのでぇぇぇぇ、お・おおおお・・・・お食〇▼②・-+◆・・・・」と最後の方は何を言っているのか分からないくらいに緊張していた。
『熊のまどろみ亭』で最初に大公様が予約された時、同じ様な気持ちになったので私はこの食堂の人たちを温かい眼差しで見守った。
うんうん、そうだよね。
お貴族様が来られるって、椅子やテーブルから、お皿、料理、給仕とあまりにもハードルが高くて、何から手を付けていいか分からないよね。
それでもお店の人は一張羅を着て大公様をお迎えしている様で、継が当たってない服を着て調理し、給仕をしてくれていた。
そういうちょっとした所が大事なんだよね。
相手のようこその気持ちが透けて見える以上のウエルカムはないんだよ。
料理は残念ながらとても美味しいとは言えなかった。
例によって例の如く、スープとパンの食事だった。
フルーツすらなかったよ。
後でもう一つの食堂に入り、そこの一角を占めていた雑貨屋コーナーでは塩は置いてあっても食料品は置いてないことを確認した。
次に入ったパン屋でもパンしか置いてなかった。
恐らくだが、先ほどの食堂がフルーツを出したくても入手先がなかったのだろう。
普段、取引のある所なら掛買いもできるだろうが、全然取引の無い相手に掛買いは出来ないからしょうがなかったんだろうね。
パン屋さんは一種類のパンしか焼いてなかったよ。
形はバケットの様な細長いパンだ。
しかし固さはバケットより数段固い。
歯が折れそうだよ。
次は村長さん宅だね。
どんな感じか楽しみだよ。




