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錬金術の工房視察は、ランビットが狂喜乱舞してあっちこっち見て回るのは想像がついていたけれど、これ程ザお貴族様ズが興味津々で見て回るとは思わなかったなぁ。
部室の2階の錬金術コーナーは工房らしさはゼロで、お洒落な空間になっている。
壁の薬棚しかり、ソファーコーナーとの間のシェルフしかり、そして最近加わったシェルフに飾られているあややクラブ部室をまんまドールハウスにしたものとか、製図机だってとってもお洒落で機能的。
でも、普段そういうのを見慣れているザお貴族様ズには、この整理整頓はされているのだけれど、どこか雑然とした工房は想像すらできなかった様で、キョロキョロしっぱなしだ。
職場でもあるので純然たるヒエラルキーがあり、上司が醸し出す雰囲気や、部下がせかせかと作業しており、上司とは異なったリズムで時が流れている所なんか、そんなモノが一々気になるご様子。
工具や機械はちゃんと掃除されてあるべきところに格納されていたり、設置されていたりだが、常に使っている物は消耗も早い。
錬金術の機械も複数台あっても、使い込まれた感が半端ない。
端っこの塗装が剥げているとか、どこか一カ所凹んではいけないところが凹んでいたりと、何度も使用して来たそういう感じが珍しいみたいだ。
闇王様が錬金術機械の凹んだところを何故か無意識にサスサスと摩っている様がとても可愛い。
倉庫はもう、男の子たちにとっての冒険すべきジャングルと化し、お花が好きなアドリエンヌ様はそれ程でもなかったけれど、男子はなかなか倉庫から出て来なかった。
「うぉ~!」という意味不明の叫び声はランビットの口から出た。
男子って元気だよね。
今日ここ、5つ目の視察先なのに、本当に元気だよね。
際限なく倉庫を見て回りそうな男子は置いとくとして、女子にその体力は無い。
ましてや、勇者様と私はここは初めてではないしね。
男子が満足できるまで待つとして、その間、アドリエンヌ様と勇者さま、そして私は事務所の2つある応接コーナーの一つで、ゆったりとソファーに座ってお茶を頂いていたりした。
親方であるボブ父は、今、とても忙しいみたいで、我々が到着した時、ちょろっと挨拶をしただけで、作業に戻って行った。
必然的に工房の説明はボブがする事になった。
しかし、ランビットって本当に錬金術が好きなのね。
倉庫へ入った途端、「これは何?」「何に使うの?」「どうやって」とオウムの様に同じ質問を繰り返しながら、せっせとメモを取っていた。
ボブだって全ての質問に答えられるわけではないけど、錬金術クラブの部室にはない素材があるだけで、ランビットの目はランランと輝いた。
途中までは私たち女子も一緒に倉庫を見学していたんだけど、1m進むのに何十分もかける勢いで質問しまくるランビットにはついていけず、早々に応接コーナーへ避難した形だ。
今日一日で平民サイドと闇王様の所の実家の様子が少し垣間見れ、何となく皆が近くなった気がする。
前からそこそこ仲良しだと思う。
でも、今回のお家訪問でかなり仲良しになれた気がする。
今回、セシリオ様やアドリエンヌ様の御実家へ行く事はなかったけど、どうやら厳しい貴族家らしく、平民が尋ねて行っても気ばっかり使う様になるとのこと。今後も行く予定は無い。
だって、あの闇王様をして「アドリエンヌん所は知らんけど、セシリオんところは結構煩いからなぁ。平民のお前たちにはあそこの使用人と顔合わすだけでもしんどいと思うぞ」と言わしめたのだから、相当なモンなんだろう。
君子危うきに近寄らずだ。南無南無。
夕食前までには各自の家に到着しておきたいので、そろそろ解散だよねと言う時になってもランビットはまだ倉庫の中をじっくり見学していた。
エイファーがまだ小さく、出来るだけ菌に接触するのを避けたい事もあり、今回、勇者様はウチにお泊りではないので、学園寮の食堂の時間に間に合う様に帰してあげないとと言って、漸く見学を切り上げる事が出来た。
「今日は時間を割いて下さり、ありがとうございました。生まれて初めて工房というモノを見た部員も何人かおります。とても勉強になりました。本当にありがとうございます」と闇王様が締め括り、闇王様とアドリエンヌ様の所の馬車2台で帰る事になった。
ボブはここが自分の家だし、フェリーペは裏道を通れば徒歩で十分帰れるので、セシリオ様とランビットを闇王様の馬車に乗せ、男子と女子で分かれて帰宅した。
「アドリエンヌ様、馬車に乗せて下さってありがとうございました」と、ウチの店の前でお礼を言うと、「美味しいお食事をありがとう」とにっこり笑って、勇者様と二人を乗せた馬車で去って行った。
1日で5箇所も回るってどんなハードなツアーよとは思うけど、とても楽しかった。
何より、普段は見る事のない皆の側面を見る事が出来て面白かった。
今度は各自の家ではなく、アドリエンヌ様のお好きなお花畑とかもありかもしれない。
うん、クラブメンだけで遠足。いいね。
何はともあれ疲れてしまったので、早めに夕食を摂って、お風呂に入って寝るかぁ。
賄いはもうみんな食べ終わってる時間なので、私は自分の食事だけを持って3階で食べ、今日の話を母さんにした後、お風呂に入ってバタンキューだった。
夢も見ずに眠てしまいましたとさ。
 




