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ボブ以外は初めて訪ねるフェリーペの実家が所有する店舗。
なんと!3階建ての大きな商店でした。
各階で売っている商品を変えているあたり、小さなデパートみたいな感じだ。
売っているのは布や布製品、装飾品、魔石を使う道具と数は少ないけれど書籍まで置いてあった。
2階と3階に高価な品物が集めてあり、階段を使って上り下りしないと奥まった所にある宝石や高価な道具等は店員に頼まないとお客が目に入れる事もできない配置になっているのだ。
これ程大きなお店ならばザお貴族様ズは来た事があるんじゃないかと思ったけど、お貴族様ってご自分で店に来ることは稀で、店員がお貴族様の気に入りそうな品を持参して、商談はもっぱら当の貴族館内で行われるそうだ。
しかし大きくて立派な店舗にちょっとビビってしまった。
どうりでマリベルとかが最初フェリーペを狙っていたわけだ。
まぁ、本当にその理由でフェリーペを狙っていたかどうかは分からないけど、お貴族様の妾希望のマリベルが大商家の正妻の座を狙う可能性はめっちゃ高いよね。
しかし・・・・フェリーペ君はこんな大きな商店のたった一人の跡取りなのかぁ。
従兄がいるとか色々言ってたけど、それって将来の側近的な立ち位置の人たちなんだよね?
小さな時から大事に大事にされて来たのが分かるよ。
だって、お店に入るなり、店長も副店長はたまた末端のスタッフまで「おぼっちゃま、おぼっちゃま」と、皆の注意がまるっとフェリーペに向いているんだもん。
それと、そういう周囲からの下にも置かぬ扱いを当然の事として受け入れているフェリーペを見ていると、本当のおぼっちゃま君なんだなって再確認しちゃった。
後、平民チームの中ではフェリーペが常にアレしよう、コレしようって先導を切るのも合点がいったよ。
だって、これだけの人たちに傅かれて、自分が意見を言わないとみんなが動けない環境で育っていたら、そりゃぁ、先頭を切る様になるのも当然だよ。
まぁ、これは闇王様にも言えるんだけどね。
フェリーペの場合は、闇王様の平民バージョンって感じかな。
その後で、応接室で対応してくれたフェリーペパパは何と言うか、これぞ大商人って感じの押し出しの強さだった。
きっとフェリーペも大人になったらこんな感じになるんだろうなぁって簡単に想像がついちゃった。
決して太っていて体の大きさで圧を与えるとか、目つきがキツイとかじゃないんだけど、覇気?そう覇気とお愛想が混じり合っている感じ。
だから物腰は頗る柔らかいのに、怒らせちゃだめだと思わせる何かがあるんだよね。
「いつも週末に馬車に乗せて頂き、ありがとうございます。とても助かっております」と、ウチの店で用意してもらったザッハトルテのホールケーキの箱を差し出した。
ランビットも慌ててお礼を言っているけど、ボブは幼馴染だからツルンとしていて、特にお礼を言う風でもないのが印象的だった。
「これはこれはご丁寧に」とフェリーペ父が嬉しそうにホールケーキを受け取り、「以前、お土産に頂いたチーズの入ったケーキがとても美味しかったので、今回のケーキも楽しみです」と、脇に控えていた店長に渡した。
フェリーペが馬車で送ってくれなければ、私の場合路線馬車とか、態々私一人の為に貸馬車を用意するか、近隣の農家から食材を運んでいる荷馬車を改造して人が乗れる様にした物を用意しなくてはいけなくなるので大変なんだよ。だから地味にありがたいのだ。
そういう感謝の気持ちは、ちゃんと相手に伝えないとだしね。
ケーキ一つで円滑な関係が保てるなら安い物だし、本当に感謝しているので単純にウチの目玉商品でもあるケーキを楽しんでもらえるのは嬉しいのだ。
フェリーペ父との挨拶がひと段落付くと、店内の視察を再開した。
店舗は掃除も行き届いており、商品の展示もきちっと並べてあるんだけど、ディスプレイと呼ぶにはちょっと稚拙な感じが残念。
ほら、安いけど陳列っていうよりは、開けた段ボールごと展示棚に並べた感が強いんだよ。
もちろん木箱やこの世界には無い段ボールも並べてないんだけど、棚の仕切りにそってきちんと行儀よく並べてあるだけの商品って、思わず手に取って見たくなるって感じじゃないんだよね。
どこに何が置いてあるのか、一目で分かるのは良いんだけどね。
でも、私も学習しているから、ここで不用意に陳列方法を変えてみては?なんて言わないよ。
お口にチャーック!
何よりもこんな小さな縁も所縁もない子供、今まで順調に行っている商売に口を出されて喜ぶ人もお店もないもんね。
ランビットがボブん所のスイカズラ錬金術工房をものすんごく楽しみにしているので、フェリーペん所はそこそこで見学を切り上げ移動しようとすると、奥の方からフェリーペパパと店長が早足で近づいて来た。
「みなさま、是非またご来店下さいませ」とフェリーペパパは視線をザお貴族様ズに固定して、にこやかにお店から送り出してくれた。
ボブん所の錬金術工房はフェリーペの所の店舗から2ブロックしか離れていないんだけど、お貴族様が町中を歩くなんてとんでもない事らしく、私たちはまた3台の馬車でゾロゾロと、ええ本当にゾロゾロと移動しました。




