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無骨な建物と言う表現が一番合ってるかもしれない。
石材卸売りと聞いて、事務所が入っている建物は石造りの彫刻が多用された豪奢なモノではないかと想像していたんだけど、何の飾りもないちょっとゴツゴツした表面の白い石ブロックで覆われている。
闇王様の所みたいに誰かが我々の到着を待っているということもなく、大きく開かれた正面玄関の扉からは色んな人が出入りしている。
「一応、ウチの石材店は王都一大きいんだ。ほぼほぼ王都やその付近の村の石材はウチの店のモノと思ってもらって間違いないよ」
どことなく誇らしげなランビット。
どうして石材店を継ぐ事ではなく、錬金術に血道をあげているのだろう?
ランビットについて正面玄関から中に入り、すぐ右にある扉を潜り、大きな事務所に入った。
「ランビット様」と受付の茶髪のおねいさんが声を掛けて来た。
「この前手紙で知らせた学園のクラブのメンバーなんだ。ウチの店の中を見学したいんだけど、いい?」
「はい、伺っております。今、案内をするホーメル様を呼んで来ますね。そちらへお掛けください」と、おねいさんが案内カウンターの右横にあるソファーを指示した。
「ホーメルって言うのは俺の義兄さんなんだ」
「え?ランビットってここの後継ぎじゃないんだぁ」
「うん。義兄さんがいるからね。店は義兄さんが継ぐと思う。それと俺は錬金術が好きだから、卒園したら錬金術の工房かギルドへ入ろうと思っているんだ」
ボブの問に、ランビットが答えたのだが、後半の錬金術うんぬんの所でちょっと顔が赤くなった。
本人も魔力を持たずに錬金術に関る事の難しさを実感しているはずだが、好きな事を仕事に出来ればそれが一番だものね。それにそれを錬金術工房を継ぐ事が分かっているボブに言うのはちょっと勇気がいるよね。
がんばれ!ランビット。
奥からランビットを大人にした様な、赤毛と茶色の中間くらいの長い髪を後ろで縛った、中肉中背の男の人が出て来た。
「義兄さん」
ランビットの呼び掛けに応えて「みなさん、ランビットのお友達だって?ようこそ!私は義兄のホーメルって言います。石材店に興味があるとのことなので、倉庫の見学をと思ってるんだけど、それでいいかな?」と気さくな感じで挨拶してくれた。
闇王様がソファーから立って「今日はお時間を取って頂き、ありがとうございます。是非、お願い致します」と挨拶を返したら、その容姿や着衣、佇まいでお貴族様の子だと分かったのだろう、「ランビット、平民だけじゃなくってお貴族様もいらっしゃるのかい?」と少し慌てた様子で義弟に確認している。
こらこら、大人なんだからびっくりしたとしても、ちゃんと先に挨拶に反応しないとダメだよ。
恐らくランビットからの手紙には学園の友達とだけ書いてあったんだろう。
それなら、まさかその中にお貴族様が入ってるとは思わないよね。
「あ、失礼しました」
ランビットの答えを待たずにホーメルさんは闇王様の方を向いた後、私たち一人一人の顔をじっくりと見た。
「えっと・・・・錬金術クラブの仲間って言う訳じゃないんだね。クラブのメンバーって聞いていたけど、ランビット、錬金術クラブは辞めたのかい?」
「いや、そうじゃなくって掛け持ちなんだ。今日はあややクラブのメンバーが来ているんだけど、内4人は錬金術クラブも掛け持ちしてるんだ。後、こちらの方々が貴族で、後は平民だよ」
「そうか・・・・。まぁ、お昼にはあの有名なフローリストガーデンで食事をするって聞いているから、遅れるわけにはいかないだろう?じゃあ、間に合わせるためにも見学を始めてもいいかい?」
皆で頷いて、ホーメルさんの後をついて行く。
無骨な白い石の建物の裏は、木造の横に広い倉庫があった。
「ここが倉庫で主に近日中に販売が決まっている石材が保管されているんだ。突発的な注文にも対応できる様、ある程度の種類の石も少しなら保管されてるんだ。ほら、何かがぶつかって石壁が欠けたりすると、少しだけ特定の石が欲しいって言われる事もあるだろう?そういう事を想定しているんだ」と、ホーメルさんは倉庫の中に積み重ねられている大きな石のブロックを指し、これはどこどこ産だというのを説明してくれる。
フェリーペが「先ほど、近日中に販売が決まっている石が主っていわれましたが、購入が決まってから取り寄せるって事ですか?」と聞くと、「うん。事務所の方に石見本があるから、それを見て購入を決めてもらってから、各地方にある家の採石場から送ってもらうんだ」という回答が返って来た。
「兄さん、事務所で石見本を見てもらいながら、オルダル国の地図を使って説明しないと、どの辺りから石を運んでいるのか皆には分からないよ」
「分かった」と、倉庫を見終わると早々に事務所へ戻った。
受付の右横のソファーではなく、もっと奥にある商談用のソファーに連れていかれ、14種の石見本を見せてもらった。
その地図の中には採石場の位置がやはり14箇所描き込まれていた。
「この地図を見てもらったら分かるけど、殆どの採石場は王都から離れているんだ。王都まで川で繋がっていれば筏を使って運んだり、そうでなければソリの様なものを家畜に引かせたりする時もあるんだが、陸路の時は小さ目な石だけだったり、近い距離しか運べないっていう難しさがあるんだ。ほら、これ」と、ホーメルさんはピンクがかった白い石の見本を持ち上げた。
「これは王都からこんなに離れた、ここ、この村の石切場から運ぶ事になるんだけど、川が近くにないだろう?だからワンポイントで模様を入れるなどの時にしか王都では使われない石なんだ。そしてこの石を王都で使うととてつもなく高い値段になる。何でか分かるかい?」
「輸送費が高くつくって事ですね」
「正解!えっと君は・・・・」
「フェリーペって言います。ウチも商売をしているので輸送費はいつも父が頭を悩ませているので・・・・」
「そうか、君がオルナブル商会の子かぁ。今日の午後、ランビットが見学させてもらえるってとても喜んでいたよ。よろしくね」
一通り見学が終って、そのまま商談室でランビットの小さかった頃の逸話を話してくれたりと、ホーメルさんは人の気をそらさない話術で楽しませてくれた。
みんなでお礼を言って、馬車に乗り込み、一路ウチの店へ。




