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「おはよう~」
「「「「おはよう!」」」」
土曜の朝早く、みんなあややクラブの部室に集まって来た。
本来なら、フェリーペやボブ、ランビットと私は昨夜の内に帰宅する所を、今朝の集合の為に昨夜は寮で寝たのだ。
恐らくザお貴族様ズも同様だと思う。
寮の食堂が開くと同時に急いで朝食を済ませて、部室へ移動したので、ちょっぴり脇腹が痛い。
まぁ、すぐ治るだろうけど、昼食も含め5箇所の視察となるとこうなるよねぇ・・・・。
「今日は結構な強行軍だから、既に馬車の用意は出来ている。じゃあ、移動しよう。フェリーペ、お前の所の馬車も用意できてるか?」
「はいっ!」
「よし」
闇王様とアドリエンヌ様のところと、フェリーペの所の馬車3台で民族大移動だ。
闇王様の馬車には闇王様とセシリオ様と我々を引率してくれる闇王様ん所の使用人が、フェリーペの馬車にはザ平民ズの男子3名、アドリエンヌ様の所のは私たち女子3人が乗った。
最初の訪問先は闇王様の所の騎士団訓練場だ。
学園が貴族街にあるので、闇王様の御実家にはとても近い。
あっという間に着いてしまった。
「お坊ちゃま、お帰りなさいませ。ご学友の皆さま、ようこそいらっしゃいました」
ゴマ塩頭の執事らしい人が黒のお仕着せを着て、練習場の入口前で深々と頭を下げて迎え入れてくれた。
こちらの文化で頭を下げるというのはあまり見掛けないので、フェリーペたちはちょっとビクっとしてたけど、私は元日本人なのでそこまでの抵抗は無い。
私たちはゴマ塩執事さんの後ろについて練習場入口横にある騎士団の建物に入って行った。
石造りのどっしりした建物で2階建てだ。
1階には食堂と騎士たちの控室があり、2階は騎士団長の事務室と書類仕事を担当する人たちの執務室があると執事さんが教えてくれた。
深い色の木の扉を執事さんがノックすると「入れ」という野太い声が中から聞こえた。
騎士団長の部屋なので、当然今デスクに座って居るのは騎士団長さんなのだろう。
「ぼっちゃん、今日はお友達と見学と聞いております」
この騎士団は国の騎士団ではなく、闇王様のクラッツオ家が抱えている騎士団なのだ。
「国の騎士団に比べれば小さい騎士団だが、国から要請があれば国の騎士団と協力して事に当たる事もあるんだ」と昨日部室で闇王様が説明してくれていたので、騎士団の大体の立ち位置はみんな知っている。
「ハインヒッツ、今日はよろしく頼む」
騎士団長はハインヒッツって言うのね。
「ご学友が楽しめる様に、まずは基礎訓練の一部を、その後模擬戦を見てもらおうと思っております」
「よろしく頼む」
ハインヒッツは一度闇王様の頭を軽く撫でてから騎士団長室を出た。
その仕草に、ハインヒッツ騎士団長と闇王様との日頃からの気安い付き合いが見て取れた。
騎士団長に向けた闇王様の眼差しも、子供らしい憧憬が含まれている。
もしかして闇王様も他の男子みたいに騎士に憧れているのかな?
闇王様、恐らく館でもお坊ちゃま呼びなんだろうけど、騎士団でもお坊ちゃま呼びなんだなぁなんて変な事を考えながら、騎士団の建物に併設されている学園の講堂の様な所に移動した。
床は土で、天井が無い円形の木の塀がぐるりと囲っている。
まぁ、闘牛場の小さいのみたいな感じ。
ただ、観覧席などは無い。
今、騎士と従者はランニングをしている。
「毎日、防具を着用したまま15周程訓練場の中を走り、これからする素振りが練習の基礎メニューで、日によって防具を付けたままの模擬戦や、的人形を使った訓練など内容に変化を付けています」
闇王様はよく知っているのだろう、頷いている。
「オレもこれまで週末だけだけど、何度か訓練に参加したので大体の内容は把握している。お前たちから質問があったらいつでも遠慮なく聞いてくれ」
闇王様なりに私達に気を使ってくれてるんだと思う。
でも、騎士団長が横についてくれているのだから、質問は騎士団長にしたいと思います。えへへ。
フェリーペたち男子がキラキラした目で騎士たちを見つめている。
一貴族家とは言え、流石に騎士団なので皆同じ練習着を着用しているのが余計に恰好良く見えるみたいだ。
軍服ではなく、同じ色のシャツにパンツで、胸の位置に皮鎧を着けている。
ゲートルを蒔いている足元を見ると、靴は各自で好きな靴にしている様だ。
「アドルフォ様、服は支給されているみたいですが、靴は別なのですか?」
同じ事を思ったらしい勇者様から今日最初の質問が発せられた。
「ああ、靴は足の形がそれぞれに違うし、好みの素材も異なるからな。武器も大事だが、足元がちゃんとしないと踏ん張らなければならない時に踏ん張れない。だから靴に関しては自由にしてるんだ」
騎士団長様が直々に応えてくれた。
恐縮した勇者様は小さな声でお礼を言って体を出来るだけ小さくしようとしているみたいだ。
何も考えずに質問してしまったけど、答えたのが初対面で強面大人の騎士団長だったのでビビったんだね。メグたんらしいよ。
勇者様の質問を皮切りに、男子たちが遠慮なく質問攻めにしたが、どの質問にも比較的丁寧に答えてくれた騎士団長様に男子たちの目がハートマークになっていた。
男子って大なり小なり騎士というモノに憧れるんだね。
可愛いね。
「「ぼっちゃん!」」
模擬戦の開始にあたり、観戦するために騎士団長と一緒に演習場の中央へ行くと、騎士だけでなく従者たちも闇王様の顔を見て駆け寄ってくる。
ん?仲良しさんなの?
結構気軽な関係なのか、今日私達を連れてきている事を揶揄われたりしている。
ここまで照れてる事を隠してない闇王様はレアだな。へへへ。
模擬戦は結構な怪我人が出ている。
木剣を叩きつけるのだからさもありなん。
切るというよりは木剣で殴りつけている感じなので、打撲傷は絶えないのだろう。
塗り薬や湿布を張ったりして手当している若い従者たちが将来の騎士候補らしい。
ある程度練習を見学させてもらうと、次はランビットの石材卸屋の店舗見学だ。
騎士団長にお礼を述べ、ゴマ塩執事さんにつれられて出口前で待っていた馬車3台の所まで戻ると、フェリーペがみんなを代表してお礼を述べた。
「今日はお忙しい中、ご対応頂きありがとうございます」
「これからもお坊ちゃまをどうぞよろしくお願い申し上げます」と、かえって丁寧な挨拶を受け、我々は車上の人となった。
 




